第9話 暗く、汚く、無情に
ダンジョンあるいは迷宮と呼ばれるそれらは、如何なる理由で発生しているのな定かでは無い。
魔素溜まりが原因か、あるいはなんらかの超常的な存在によって作成されたのかは、長い歴史はあれど解明されていない。
あるダンジョンは洞穴の様で、何層にも分かれていたり、古城がダンジョンに変異したり、あるいは山そのものが迷宮になってしまって居たり。
だが、人は集まる。
その魔物が跋扈する領域へ人々は嬉々として向かう。
レベルを上げ、強くなる為に
ダンジョンに眠る希少で強力な魔物の素材を得る為に
神か魔のものか知らぬが生み出される財宝を求めて。
攻略難度も多種多様ではあるが、大体の人種が初めて潜るのであればレベル10程度の魔物が主になっている最低ランクのブロンズ級ダンジョンに挑む事だろう。
そして、今カムイとレイが訪れたダンジョンがもしも人種の領域内に存在したならば、そのランクは、、、
「カムイ、今から護りの魔法をかけるから少しじっとしていてね」
ダンジョン内には灯りが一切ない為、レイが灯している魔法の灯りの先には暗闇が広がっている。
そして時折なにか恐ろしい物の叫び声や、生き物の腐敗臭と血の匂い。
そんな環境に行きなり来たのだから仕方はないが、カムイは恐怖に震えており、ただレイの言う事を黙って聞いた。
元よりレイの言う事についてカムイは一切拒否はしない、、、出来ないのだが。
「風と光の精霊よ 此の者に護りを」
そっと呟き、レイの指先からライトグリーンの光が放たれ、カムイを包み込む。
「あったかい、、」
炬燵の中に入った様な暖かさに包まれ、カムイは安心感を感じた。
「それじゃ、行こう。手を離さない様にね。」
「、、ん。」
レイが常時放つ灯りに照らされる周囲は、恐らく土で出来た洞窟。だが所々に紫色をした水晶があり、反射された灯りによって幻想的な空間を作り上げている。
しばらく歩いて居ると、それは現れた。
『ルオォ!!』
咆哮を上げ、疾走する黒い何か
四足で地面を踏む度に蒼白い焔を足から放っており、その足跡は硝子化し焔をに照らされる度に怪しげな色を放っている。
「おー。冥界犬(ケルベロス)君か!丁度いいねぇ!」
近くにつれ露わになるその姿。
黒い毛並み、凶悪な牙、レイの五倍以上はある巨躯
そして、此方を睨む六つの瞳。
「ぅ、、あ、、、」
向けられた事の無い瞳がカムイに突き刺さる。
虐待する親からでも、面倒そうな眼差しを向ける先生でも、奇異の瞳を向ける同級生や道行く人々でもない。
およそ地球を支配して居た人間では触れる事の無い視線。
『食欲』と『殺意』
純粋な『生きる為に』必要な意思を宿す瞳。
カムイはその敵意に脚が震え、逃げ出したくなる様な、それでいて離せない視線の中、恐怖を感じている。
もしもそれが親の暴力であったならば、カムイを目を閉じて嵐が過ぎ去るのを待って居ただろう。
だが、それは出来ない。
何故ならば、暴力の嵐ならばじきに去って行くが『これ』はそうでは無い。
確実に、絶対に、必然的に
『あれ』はカムイを捕食するだろう
その事を瞬時にカムイは『理解』してしまう。
そして頭のなかで、食いちぎられる自分のイメージが浮かび、血の気が引き、身体が冷えるのを感じ、遂には立っている気力も
「カムイが怖がっているだ、、ろ!!」
一条の光が、獣の頭部と身体を吹き飛ばし、カムイの頭に酷い激痛が走った。
光は遠く、闇は此処に @teromea
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