第4話 新しい朝



夢だとカムイは気付いて居た


母に叩かれた事に始まった虐待

その日々の中でピアノを弾く喜び

色んな本の大冒険に心を惹かれる喜び


たまに見る夢だと、カムイは何故か理解していた。


(あれ?、、いつもより身体が楽だ、、、)


普段感じていた鈍い痛みは余り感じず、身体の軽さを覚えた。

次第に夢は薄れ、自分が雲の中いる様な、ふわふわとした感覚に囚われた。


(なんだろう、柔らかい、、、)


閉じた目蓋の上から、光を感じ、目を開ける。



ベットの上だった。


まるで本物の雲の様にカムイを包み込むベット。手を押し込んでもなんの反発も感じさせず、カムイの手を優しく包み込む。

しばらく遊んでいると、喉の渇きを感じ、辺りを見回した。


木の匂い、広い部屋、大小様々な何に使うかわからない道具達と、見た事の無い文字が書かれた本が多数置かれた本棚と物置。

近くに机があり、コップと澄んだ水の入った水差しを見つけ、カムイはコップに注ぎ口へと運んだ。


「おいしい、、、」


水道水ばかり飲んで居たカムイには考えられないほど、その水は柔らかさとほんの少しの甘さを感じさせる。

気付いた時には、水差しに入った水を全て飲んでしまっていた。


「ふぅ、、ここ、何処だろう」


昨日からの出来事をカムイは理解出来ていなかった。

両親の暴力によって意識を失い、森で目覚め、綺麗な湖畔と、知らない大人。


そう、知らない大人が、、、



キィと音を鳴らしながら、部屋のドアが開く。

もはや癖になってしまっている、物音に振り向き警戒してしまうカムイ。


そして、彼は語り掛けて来た


「やぁ、おはようカムイ。私はレイ。よろしくね」


柔和な笑みを浮かべて近寄る大人。

金髪で、自分と同じ青い瞳と、『長い耳』

何も言えずに居ると、レイと名乗る男はカムイのすぐ側にやってきた。


そっと伸びる手に、カムイは目を閉じてしまう。

きっと叩かれたりするのだろうとカムイは思っていたが、頭を少しごわごわするも柔らかい手が撫でた。


(?、、、なんだろ、これ)


カムイは理解出来ない。

自分が何をされているのかを。

ただ、痛くはないのだとしかカムイはわからない。


しばらく撫でられた後、レイは「すこし話そうか」と椅子を引いて座った。


カムイは恐る恐る、その対面に座る。

目を開けた時に見たレイが、とても優しい笑みを浮かべていたからか、素直に従う事にした。



「さて、カムイ。私は君の事をほとんど知っているよ。」


直後、カムイは自分の心臓が跳ねるのを感じる。

何故?どうして?バレたのか?

困惑する思考と、嫌な汗、それと腹部に鈍い痛みを感じる。

レイは話を続ける。


「私は君の過去を見た。君の親が何をしたか知っているし、君がアルビノと言われる『特別』な人種で、ピアノが大好きな事をね」


ウインクをしながら、レイは言った。

カムイが何も言えないでいると、


「大丈夫。もう君の親は居ないよ。もう会う事は無い。君を傷付ける者は何人も私が許しはしないからね」


真剣な顔で、言われた。

カムイはこのまま黙ってはダメだと、不思議と思い声を出す


「どう、、して?」


偽る事の無い本心

何故、レイは自分を守ると言うのか

何故、もう両親に会う事はないのか

嫌に聞こえる心臓の音を聞きながら、カムイは問うた。


「なんとなく分かっているんじゃないかな?此処は君が本で読んでいたような世界。魔物も、天使も、悪魔も、ドワーフや獣人。精霊や神様だっている。君はそんな世界にやって来たのさ」


「、、、、ぅ」


昨日見た、二つの月や、幻想的な湖畔。

いくら11才と言えど、分かってしまう。

そして幸いな事にカムイは、前の世界に微塵の後悔が無い。

あの、辛い事が多すぎる世界に。


「やはり、わかっているし、涙もとうに枯れてしまっているね。私、、、いや、僕がきっと君を癒してみせるよ。」


自身満々にレイは笑顔で言い放つ。


「あ、、ぅ」


人生で感じた事の無い、純粋な優しさに、カムイはどうしたら良いのかわからなくなった。


「きっと精霊が連れて来たのだろう。君の事を。だから僕の所だったろうし。何より」


「なに、、、より?」


「子供達を愛するのは当たり前の事なのさ」


そっと再度撫でられた頭の暖かさに、カムイはなんとも言えない、でも、胸に暖かい物を感じた。

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