第3話 半魔の誓い


私はセリオアの森のレイ

祖先に人種が混じっていた為か、私はハーフエルフ。

前は色々な事情によって騎士なんてしたけれども、今はこのアルフの森深くで隠居の身だ。


まだまだ若いと言われる歳ではあるが、私は人に疲れてしまっている。


英雄だなんだと私を持て囃しながら、あんな非道な事をする連中には程々に愛想が尽きてしまったのだ。

怒りに支配されていたが、『あの時』の事は後悔していない。

彼らが少しでも報われたならば、それで良いのだ。



それにしても、今日は精霊が騒がしい。


私の故郷、、、エルフ族の里でもこんな事は無い。

私達エルフは精霊と密接的な関係だ。

人種と違い、彼等無くして生きては生きては行けない。


そんな精霊達が騒ぐ


彼等は喋ったり出来はしないが、意思を伝えてくる。


外へ、早く、外へと騒ぐ精霊達

長くこの森に居るが、こんな事は初めてだった。


私は急ぎ、扉を開ける。


「!」


異様な光景だった。


まるで大精霊でも降臨するかの様な精霊達の祝福が湖畔を中心に広がり、幻想的な風景を作り出しており

水面の近くに一人の少年がその光景に魅せられて居た。


そして、驚愕する。


その少年に尋常では考えられない程の精霊達が、彼を守る様に集まっているのだから。

彼は精霊の落とし子なのだろうか?


私は恐る恐る、声を掛ける事にした。


「君、こんな所でどうしたんだい?精霊達が騒いで仕方ないのだけど、、、」


なるべく優しく、声を掛けながら彼に近づく。


(、、!?綺麗な少年だ、、、少年なのか?少女かも知れないな、、、)


白い肌、銀に近い長い白髪、青い瞳。

華奢な身体には見た事が無い衣服と、、、

腕や額ついている乾いた『血』


「!!」


彼は私に気がつくと、怯えた顔をしながら後ずさる。


怯えさせない様気をつけながら声かけ、近寄って行く


「どうした?何故逃げ、、、どうしたんだその怪我は!?」


(しまった!あまりにも酷い怪我に焦ってしまった!)



あまりの有様に、レイは怒りを覚えてしまい、少年に伝わってしまったのだろうか。

エルフ族の里は子を大切に扱う。

種族的な事もあり、低い出生率の中生まれる子は里の宝である。

その為、皆で守り、育てる。

エルフ族が外界に出る事は珍しいが、そこそこ放浪する者はおり、彼等が子供達を慈しむ事は有名。

レイも例に漏れず、里での愛を沢山受けて育っており、子供を大切に想っている。

それが原因であの『国』でやらかしてしまったのではあるが、、、


「危ない!!」


少年が湖畔に落ちる。

いけない、あの湖畔は深いのだ。

急ぎ湖畔に飛び込み、少年を抱き上げ、陸に上がる。



恐ろしく軽い少年だ。


それに、めくれた衣服から覗くその傷


アザ、切り傷、火傷痕が無数


知らず、レイは唇を噛みしめ、力み過ぎた口から血が流れ出た。


『この傷』は、許してはいけないと、心が叫んでいる。


「すまない、少し見させてもらうよ」


通常、他者を鑑定するのは避けられる事ではあるが、戦闘中等は別だ。

レイは鑑定技能を少年に発動する。



カムイ タチバナ 11才 

人精霊種 状態『心傷痕』

Level 1


力  1

魔力 10

守り 3

速さ 2

体力 8


スキル 精霊の愛子(ボニー)

加護 アルテミス 月詠



(聞いた事の無い種族だ、、、それにスキルと加護も始めて見る。そしてなによりレベルもステータスも低い、、、普通の子供であればこの歳ならば10はレベルあるはずなのだが、、、それにこの『心傷痕』心を病んだ物に多く見られるが、、、こんな少年が何故だ?)


情報を読み解き、思考していると、少年の周りの精霊が騒ぎ出す。


『!!癒しを!!彼に!!癒しを!!』


(!?、、、驚いた。精霊が『言葉』を伝えて来るなんて、、、)


「そんな事よりまずは、少年だな。」

深呼吸をし、体内のマナを循環させる。



「命刻の木よ 我らの祖よ かの者に癒しを 我が名はセリオア」


上級回復魔法、世界樹の癒し(ユグドラシルヒール)

エルフ族に許された。世界樹の守り手に与えられた魔法。

死んで居なければいかなる傷も治すと言われるこの能力が為、エルフ達は人種と争った過去を持つ。

今では条約により減ってはいるが、それでもエルフを攫う者は後を絶たない。


使える事を見せるだけでもリスクのあるこの魔法を、レイは惜しみなくカムイに施した。



強い緑色がカムイを包み込んだ。


次第に荒かった呼吸も落ち着き、苦しそうな雰囲気も治った様に見えた。


体力は回復した様だが、カムイの『傷』は治る事無く、そのままだった。


(なぜだ!?エルフの秘儀で治らない傷なんて、、、心傷痕のせいか?彼には仕方ないが、少し過去を見させて貰う!)


カムイに軽く炎熱魔法で身体を温めさせ、レイは『精霊魔法』を放つ


「時の大精霊よ 契約の時來れり 我が名はセリオア」


セリオア氏族が代々契約すら時の大精霊の力を借り、レイは魔法を放つ


「過去への幻視(ディ・ビィジョン)!」


レイの意識はカムイの『過去』へ向かう。

現実的には一瞬ではあるが、レイはカムイの強い記憶を読み取る事が出来る。

ほぼ追体験の様な形で、、、



少年の、カムイの過去を見終わったレイ


彼の形相は、悪鬼羅刹も逃げ出す様な

憤怒に燃え、あまりの怒りにマナが吹き出し、身体強化魔法を突き破り、握り締めた拳から血が流れ出ていた。



「我 セリオアの森のレイは誓う

 カムイを守り カムイを傷つけた者

 何人たりとて許さず 一切流転を許さず

 必ずや 冥府の門へ送り届けよう」



過去の英雄

そして、今や伝説に語り継がれる

半魔の英雄は誓いを立てる。

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