最終話、遠山の金さん、遠山の金さんなりの考えで歩む

この世界は.....そうだな。

上手くいかないと思える。

どれだけ上手くいかないかと言うと簡単に言えば地球の回転の様には上手くいかないのだ。

全ての人が幸せを願ってもそれが叶うとは思わない。

それがこの世界なのだ。


だから人は時に.....何かのリミッターが外れ、鬼と化す。

そう。

それは佐藤も同じだ。

俺を.....半殺しにした.....佐藤も、だ。


人生のその全ての元凶の佐藤果穂。

俺はソイツに会いに行く為に電車に乗って.....メールを見ていた。

気を付けて行く様に、と皆んながメッセージをくれている。


そんな俺の横には.....美帆が一人だけ居た。

貴方だけでは行かせれません、と付いて来たのだ。

断ったんだけどな。


「.....東次郎さんが危険だと思ったら私.....東次郎さんを引き離しますからね」


「.....大丈夫だ。アイツは.....アクリル板の先にしか居ないからな」


「.....でも.....精神面とか.....気になります」


「.....美帆。有難うな。そう言ってくれて。でも.....俺は大丈夫だ。昔と違う。皆んなが居るからな」


そうだ。

美帆が襲われた時とは偉く違う。

あの時以上に.....俺は成長した。


ド○クエとかで言うなら.....レベルアップの様な。

そんな感じで.....生きてきた。

アイツと対等に.....全てを打つけ合って向き合う覚悟だ。


殴られても.....何も言わないで説得を試みる。

そんな事はされないけどな。

その様に考えながら.....駅の案内板を見る。

もう直ぐ目的の駅に着きそうだ。


『次は〜〇〇駅。〇〇駅〜』


「.....此処か」


「ですね」


そして俺達は降りる。

それから.....目の前を見ると.....そこには大きな真白な壁が有った。

つまり、刑務所だ。

少年刑務所と言える。


「.....アイツが待っている。行こうか」


「.....はい。でも本当に気を付けて下さい」


「.....ああ」


そして俺は.....一歩一歩を踏み出す。

それから.....刑務官の許可を貰ってから中に入る。

少年刑務所とか初めて入るな、しかし。

思いながら.....面会室に案内されて俺たちは暫く待つ。

すると.....扉が開いた。


ガチャッ


「.....よお。久方ぶりだな」


「.....」


「.....」


目の前には.....刺青をした様な.....反省の顔がこれっぽっちも無い女が居た。

俺の顔を見ながら.....不愉快そうに顔を歪める。

だが俺は.....動揺はしない。

もう.....慣れた。

コイツにこんな顔をされるのが、だ。


「.....随分と強くなったじゃねーか。クソが。ってかマジに会いに来るとはな。お前馬鹿なの?」


「.....佐藤。俺は正直な話をしにこの場所まで来た。お前を妬むのを止めると言う話とかを、だ」


「.....あ?何様のつもりだよ」


「.....」


佐藤は俺達に猛獣の如く突っかかる。

それを刑務官が止める。

俺は.....動揺せずに話を続けた。

少しだけ.....美帆が驚いているのを見ながら、だ。


「.....佐藤。俺はお前を救う覚悟で此処に来た。お前も.....幸せになるべきだと思う。そろそろ、だ」


「.....アホかテメェは。アタシはアンタをぶっ殺す。こんな場所に入れられて.....最悪の気分だっつーの」


「.....良いか佐藤。俺を妬むのは全然構わない。だけどな。俺をもう脅そうとしても無駄だぞ。俺は.....仲間達に出会って.....変わった。昔から.....随分と、だ。だから当時の様に脅しても何も生まれない。そして変わらない」


「.....ああ。そう」


ダンと音を鳴らしてアクリル板を押す、佐藤。

俺は.....それを見ながら.....眉を少しだけ顰めた。

佐藤は.....見下す姿を見せる。

そして歪んだ笑みを浮かべた。


「.....そういうお前が気にいらねぇんだよ。昔っからな!!!!!テメェのその何時でも希望に溢れた様な目が、だ!!!!!どんだけアタシが腹立てているか分かるか?お前なんぞにアタシを救う力なんかねぇんだよ。調子に乗るんじゃねぇ」


「.....そうだな。.....申し訳無いけどそれは合っている。俺だけじゃ、無理だ」


「.....は?俺だけじゃ?」


俺は佐藤に断る事無く即座にスマホでメールを開く。

そして.....そこに記載された.....文面を読んだ。

何が記載されているかって?


そうだな.....佐藤の離婚した母親の言葉、だ。

以前から佐藤の母親に接触していたのだ。

佐藤が.....接触出来ていない人間だ。


「.....果穂。これを遠山さんに預けます。貴方に届く様に祈っています。.....私は貴方を産んだ事を.....とても.....残念に思われているかもしれません。だけど私は貴方を産んで正解だったと思っています。何が正解かと言えば貴方は私の娘としてこの場所に生まれてきた。それこそが正解なのです。果穂。貴方の生まれ育った環境はとても劣悪でした。引き取り手の義父に暴力を振るわれ最悪の状態だったと思います。私は戻りたかった。貴方の側に。何故かって言えば.....私は貴方の暴走を止めたかったからも有るけど.....愛する娘の側に居たかったから。私は今、貴方の元へ行こうと裁判所と交渉しています。今度こそ私が貴方を引き取りたい為に、です。貴方は.....確かに最悪の娘かも知れません。遠山くんを心底から虐めていました。だけど.....貴方は私の宝物には変わりないのです。遠山くんとは今、交渉で色々と話しています。でも貴方のやった事は間違いです。今は法の裁きを受ける必要が有ります。だけどそれが終わったら一緒にまた暮らしましょう。仲子」


その長文を読み終えると。

佐藤がワナワナと怒りに震えていた。

そして激昂した様にアクリル板をバンッと音を立てて叩く。

それから怒りの言葉を発した。


「.....何でお前が.....アタシの母親と連絡を取ってんだコラ!!!!!勝手な真似をするな!!!!!」


「.....俺は.....お前の為を思って接触した。ただそれだけだ。深い意味は無い」


「.....ハァ!?アタシの為?ざけんなコラ!!!!!クソッタレ!!!!!」


「.....今更、母親?、と思っているかも知れないけど。お前は.....母親から十分に愛を受けていた筈だ。思い出せ。昔を」


テメェ.....と佐藤は歯軋りして怒り狂う。

俺は.....その姿を見ながら.....佐藤を柔和に見る。

佐藤は.....眉を顰めたままだったが。

少しだけ.....目尻に涙が浮かんでいる様に見えた。


「.....佐藤。俺としては.....お前を許さない気持ちも有る。だけそそれで未来が切り開けるとは思って無いんだ。.....俺はお前の過去を聞いて.....もうそろそろ俺も変わって良いと思ったんだ。お前も大人になった方が良くないか」


「.....です」


俺達は真っ直ぐに立ち上がっている佐藤を見る。

美穂は賛同した様に頷く。

そうしていると佐藤は飽きが来た様に気怠そうに刑務官の方に向いた。

それから俺を首だけ動かして睨みを利かせて見る。

そして.....溜息を吐いた。


「.....もう帰れ。テメェだけは.....許さない。マジにクソッタレだわ。こっから出たら覚えてろよコラ」


「.....お前の考えを今度聞かせろ。この辺りで身を引く」


「.....ハァ.....もう良いっての。.....消えろっつってんだろ。ボケナス。それとも何か?お前の耳を引き千切ってやろうか?」


「.....」


俺達は立ち上がった。

そしてアクリル板の先の刑務官に一礼してそのまま去る。

佐藤に睨まれながら、だ。


そうして刑務官に挨拶して門の外に出た。

それから一歩一歩、土を踏み締める様に歩き出す。

横で.....顎に手を添える美帆。


「.....これで良かったの?東次郎さん。何も変わって無いと思うけど.....アイツの事だし」


「.....少なくともこれでもかと揺さぶりはかけた。効果は有ると思う」


「.....全く。.....恨まないで歩み寄る。.....貴方らしいですけど.....」


「.....ハハハ」


適当に揺さぶりを掛けて。

アイツが砂粒程度の大きさかも知れないけど.....変わってくれたら良い。

その様に思いながら.....電車に乗ってそのまま帰った。


それから佐藤の返事は得られないまま。

3年の月日が経った春。

まだ早いが将来婚約する目的で美帆と話をしている様な感じの頃。


インターフォンが鳴った。

そのインターフォン越しの奴を見て.....俺は慌てて玄関を開ける。

何故かと言えば。



「.....佐藤」


「.....」


連絡が3年近く途絶えていた佐藤が姿を見せたのだ。

俺は.....その姿を見ながら、どうした、とゆっくりと眉を顰めて声を掛ける。

すると横に女性が立っているのに気が付いた。

その女性は.....仲子さんだった。

佐藤の母親だ。


「.....この度は.....遠山さん。.....お世話になりました」


頭を下げる、仲子さん。

仲子さんの言葉を受けながら.....目の前の佐藤を見る。

佐藤は不愉快そうな顔をしたままで有る。

だが.....何だか安定はしている。

そんな佐藤に呟く様に聞いた。


「.....刑期を終えたって事か。お前」


「.....ああ」


「.....そうか」


3年も打ち込まれていたんだな。

思いながら.....佐藤を見る。

イライラしている様に見える。

佐藤は.....溜息混じりで踵を返した。


もう帰るつもりかコイツ。

思いながら.....眉を顰めていると。

仲子さんが俺に向いてきた。


「.....遠山さん。私から.....貴方に.....話したい事が有ります」


「.....じゃあ.....もし良かったら中に入りませんか?」


「.....いえ。この場所で大丈夫です」


何事かと横に成長した高校生の葉月がやって来る。

そして俺達は.....仲子さんを見た。

仲子さんは.....俺を見ながら笑みを浮かべる。

そして頭をまた下げた。

それから綴る様に話し出す。


「.....果穂は.....恨むのを止めるそうです。.....貴方を」


「.....え.....」


「.....貴方のお陰と.....刑務所の学びで.....少しは感情コントロールが出来る様になったみたいです。果穂は.....。.....遠山さん。貴方には本当に.....感謝です」


「.....」


俺はその言葉を受けながら.....遠くに居る佐藤を見つめる。

佐藤は歩きながらこの場を去って行っていた。

俺はその後ろ姿を見ながら.....溜息を吐く。

そして仲子さんに顔を向けると俺にもう一度頭を下げていた。

それから顔を上げて笑みを浮かべてから言う。


「.....では、失礼します」


「はい」


俺はそんな仲子さんに笑みを浮かべて見送る。

この様な事の後から聞いたが。

仲子さんと果穂は.....一緒にアパートで生活し始めたそうだ。


なので取り敢えずは安定しているのだろう。

俺は.....少しだけ柔和な顔になる。

横の葉月が.....訝しげな目で俺を見ていた。


「.....お兄。本当に良かったのこれで」


「.....良かったと思う。これで.....誰も傷付かなくなるだろ」


「.....でもあれだけの事をされて.....これでお仕舞いって.....」


「.....葉月」


俺は葉月を見る。

この世は恨んでも仕方が無い事も有る。

全てじゃ無いんだ。

その様に.....言葉を発しながら葉月に向いた。


葉月は見開きながら、お兄が言うなら、とそれ以上は口を閉じて何も言わなかった。

そして玄関に戻ろうと踵を返す、葉月。

それからスカートを翻して俺を見てきた。


「.....それはそうと.....またお勉強教えて。お兄」


「.....分かったけど.....もう良い加減に俺から教わるなよ。俺だって限度が有るぞ。頭脳とか.....」


「あはは。お兄に?.....それは無いよ。昔から頭良いし」


「有るっての.....お前な.....」


ったく.....どうしようも無い妹だな。

だけど俺は.....嫌な気分では無い様な感じだ。

俺は空を見上げて.....笑みを浮かべながら考える。


明日の空は何色をしていてそして俺達を照らすのだろう、と。

その夜、俺達は集まってから.....その件と一緒に誕生日祝いをした。

俺の、だ。


葉月も.....鋼さんも、友美さんも、虹も、鈴も、神楽も。

そして美穂や皆んなが俺を祝ってくれた。

元気良く.....祝ってくれて。

頭が痛い1日だった。


だけど.....嫌な感じはしない。

それは俺が幸せと感じているからだろう。

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遠山さん、見知らぬ娘から幼馴染と告げられる アキノリ@pokkey11.1 @tanakasaburou

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