四十九、遠山の金さん、佐藤からの電話を受ける

将来の夢とか真剣に考えた事が無かった。

俺は将来を考えるそんな素質の有る人間じゃ無いと思っていたから。

ただ.....イジメを永遠に受け続ける人間だと思っていたのだ。

だけど.....今俺は.....将来を決めた。


その夢は単純なものだった。

俺は.....爺ちゃん、婆ちゃんを介護したい。

だから.....介護士になりたいと思った。

その為に今、俺は将来の勉強してから.....4年制大学に向かう。


そして今度こそ.....俺の存在意義を見つけたいと思ったのだ。

こんなクズでも役に立てるのなら、と思いながら、だ。

そして今、俺は高校を卒業して.....今に至っている。

俺は勉強をしながら.....春休みが終わるのを待っている。


春休みが終わったら.....俺は晴れて大学生だ。

大学受験は苦労したけど.....受けて良かったと思う。

そして.....合格して良かったと思っている。

介護士以外にも取り敢えず資格を取りたいと思っているしな。

余裕が有ったら、だ。


コンコン


「.....はい?」


「.....お兄ちゃん。勉強教えて」


「.....ああ。良いぞ」


大学生になったと同時に。

葉月は中学生になった。

中学受験を終えて、中学生にもう直ぐなる。

俺は.....涙が浮かびそうだった。


だってそうだろ。

中学生になるんだぞ。

葉月が、だ。

今の今まで考えにも及ばなかった。

葉月は入って来ながら.....教科書を取り出す。


「.....何処を教えて欲しいんだ?」


「数学!」


「.....そうか」


数学って響きが素敵だなぁ。

算数じゃ無くなったね、と笑う葉月。

前も話したかも知れないが.....葉月には障害が有る。

その為、満足のいく教育になるだろうかと心配では有る。


「.....葉月」


「.....何?お兄ちゃん」


「.....不安か。学校は」


「.....全然。お兄ちゃんが居るから。皆んなが居るから。不安じゃ無い」


葉月は満面の笑顔で俺を見て来る。

俺は.....その姿を見ながら.....少しだけホッとした。

別の答えを言われたらどうしようかと思っていたのだ。

俺は教科書を受け取る。

真新しい中学校の為の教科書を、だ。


「.....じゃあいくぞ。先ずは.....」


「うん」


ベッドに腰掛ける、葉月。

俺はそれを確認しながら.....指差していく。

それから.....回答していった。

葉月は真剣な顔で俺の言葉に耳を傾ける。



「.....分かり易いね。お兄ちゃんの教え方」


「.....違う。お前の扱いに慣れているからだ」


「.....うーん。そうなのかな?教師に向いていると思うんだけど.....」


「.....向いてないさ。俺はな」


教師の道も少しは考えたけど.....向いてない。

何故かって?

俺が人に教える程の学力を持って無い。

だから慣れない。

人間関係も有るけどな。


「.....お兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったなって思う」


「.....改めてだな」


「.....お兄ちゃんが有りのままの私を受け止めてれる。だから発達障害に向かっていけるんだよ。お兄ちゃん」


「.....」


ね?と俺に向いてくる、葉月。

俺は.....その姿を見ながら笑みを少しだけ浮かべた。

だな、と答えながら.....外を見る。

葉月も外を見た。


「.....桜が綺麗だね」


「.....まさに3月って感じだな.....本当に」


「お兄ちゃんが介護士を目指しているの、応援するよ。葉月」


「.....そうか。有難うな」


そう言えば.....それはそうと聞いても良い?

と葉月は複雑な顔をする。

俺は?を浮かべた。

そして、佐藤は今はどうなったの?、と聞いてくる葉月。

俺は.....顎に手を添える。


「.....アイツは今は少年刑務所だ。傷害罪でな」


「.....会ってみたいって言ったよね。何で?」


「.....俺は.....佐藤との因縁に決着をつけたかったんだ。過去に、だ。だけど.....その夢は叶わなかった。.....今でも恨んでいるだろうなアイツは」


あの日。

俺が佐藤に声を掛ける為に誤って背中を押してしまって。

そして佐藤は轢かれてしまった。

俺は.....その時から運命が変わったのだ。


そして佐藤は.....俺を妬み。

イジメを繰り返し更には.....美帆を傷付けた。

だけど何時迄もそんな事を恨んでどうするのだ?

俺は.....下らない考えに付き合う気は無いと言いたかったのだ。


「.....お兄ちゃんを傷付ける奴は.....許せないと思う。美帆さんも」


「.....世の中は上手く回らない。それが.....この世界だ。だから考えが歪む奴も居るって事だ。佐藤は本当に可哀想な奴だと思う。俺としては」


「.....そんな考えが出来るお兄ちゃんは.....大人だね。佐藤より」


「.....だろ」


うん、そうだよ。

と俺に笑みを浮かべる葉月。

そして.....俺の手を握ってから離して。

じゃあ戻るね、と言葉を発した。

俺は.....その姿に、ああ、と返事をする。

そして葉月は去って行った。


「.....大人.....か」


正直、何が大人か分からない。

今でも俺は.....成長したと実感はして無い。

だから俺は大人じゃ無いんじゃ無いかって思うけど。

周りは大人って言う。

大人って何だろうな.....。


「.....気にしてもしゃー無いな。勉強すっか」


そして勉強を始める。

そうしていると.....電話が掛かってきた。

俺は?を浮かべて.....スマホを見る。


スマホには.....知らない番号が有った。

俺はもう一度?を浮かべて電話に出る。

非通知じゃ無い電話だ。


「もしもし」


『久方ぶりだな。.....遠山』


「.....佐藤か」


『.....確かに少年刑務所に入った佐藤さんですけど。この電話、マジに面倒だったんだけどさ。.....代理人を通じてやってんだけど.....ってかそれは良いけどお前.....舐めた真似しやがって。アタシを捕まえるとか何様よ。.....マジに殺すぞ』


電話番号をどう調べたかは知らない。

だけど俺は.....今の佐藤の声には震えは無い。

ただ.....俺は.....コイツの声を今聞くと可哀想にしか思えなくなってくる。

思いながら.....佐藤とそのまま話す。


「.....お前さ、良い加減に俺を恨むの止めろよな。.....こんな地に落ちるまで俺を恨んでも仕方が無いだろ」


『.....何でも良いからアタシに会いに来い。次はマジに殺す』


「.....」


会いに行くのは構わない、俺もその覚悟だったからな。

そう答えながら俺は.....最終戦かと思いながら。

立ち上がった。

そして.....俺は歩み出す。

2駅先の少年刑務所に向かう為に、だ。

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