最終節、俺達の未来

四十八、遠山の金さん、学校を卒業する

誰を恋人にしますか、というまるで何かのゲームの選択肢を俺は言われ。

虹でも神楽でも無く.....恋人に美帆を選んだ。

何故かと言えば.....美帆はずっと俺を支えてくれた。


この何年かの間、だ。

俺の側で支えてくれた。

小学生の頃からずっと、だ。


確かに虹も俺の支えにはなっていると思う。

そして神楽も素晴らしい女性だと思う。

だけど.....俺の心の中には美帆が居た。

だから俺は.....美帆を選んだのだ。


後悔はしてないしする筈も無い。

だけど後悔じゃ無いけど.....申し訳無さは有る。

虹とかに.....申し訳無く思っているのだ。


だけど俺はこのルートを選んで正解だったと信じている。

そんな感じで.....虹と神楽に真剣な眼差しで向く。

二人は笑みを浮かべて俺の考えに賛同してくれた。

そしてこう.....言ってくれた。


「謝る必要は無いよ。とーくん。それが君の選んだ道なんだから」


「.....だが.....」


「.....それに私もとーくんに大切にされているという事だけど、それ以上に美帆ちゃんの存在がデカかかったって事だよね。おめでとうって言う以外に有る?.....まあ多少、悔しいかな?って感じだけどね」


「.....虹先輩.....」


ただひたすらに.....涙を流す、美帆。

そして.....虹に美帆は抱き付いた。

俺は.....その姿を見ながら神楽を見る。

神楽も笑みを浮かべていた。

そして虹は涙を浮かべながら.....美帆を見る。


「.....幸せにしてあげてね。美帆ちゃん。.....とーくんを」


「.....はい.....」


「虹。.....本当に有難うな」


「.....うん。全然だよ」


そしてその日はそんな感じで終わった。

それから.....俺は.....美帆と将来の約束をする。

何を約束にしたかって言えば。

きちんと幸せになろう、という事を、だ。

皆んなの為に、だ。


「.....美帆。幸せになろうな」


「ですね。先輩.....いや。東次郎さん」


部活動も始動し、学校生活も安定する。

学校行事をして、テストをして。

そして.....学校生活をして。

全ては巡り巡った。


そのスピードを感じながら居ると.....ある日。

佐藤が遂に傷害罪で捕まった。

美帆に対する、だ。

それ以外にも脅迫容疑など。

立件された。


俺はこれが最後と思い、佐藤に相対しようとしたが警察から、面会は控えて下さい、と言われ俺は.....佐藤には会えなかった。

彼女は.....何故、これほどまでに歪んでしまったのか。

その事を考えたが結局会えず、分からず仕舞いだった。


それからというもの。

1年が経過して俺は卒業の時期を迎えた。

美帆と付き合い始めて.....丁度1年になる頃の話だ。


卒業式の.....校長の言葉を聞きながら新たな道を少しだけ不安がりながら.....進もうとしていた。

全てが終わろうとして。

そして始まろうとしていた。



「卒業したなぁ.....」


長谷川が横で卒業証書の入った筒を叩きながら笑みを浮かベて空を見上げる。

俺は.....その姿と写真撮影とかしているクラスメイト達を見ながら.....溜息を吐く。

そうだな、と思いながら、だ。


「.....だな。つーかお前は後輩からもチヤホヤされていただろ。最後の最後まで恨めしいなお前」


「俺は.....まあそこそこさ。普通だと思うぞ」


「.....お前の普通は俺にとっては別物だっつーの。天地の差が有る」


そうか、と俺に向きながら苦笑する長谷川。

彼はボタンが無くなった制服を着ている。

何が有ったかって?

そうだな.....昭和の様だがボタンが奪われたのだ。


下級生の女に、だ。

全く.....イケメンは違うね、本当に。

コレクションにするつもりなのかどうなのか知らないけど。

再び盛大に溜息を吐きながら.....長谷川を見る。

長谷川は俺を見てから柔和になった。


「.....君とは良い縁だったと思う。.....本当に君に出会って良かった」


「俺はお前に出会ってマジに色々有ったけどな」


「.....ハハハ。そう言うな。しっかりとこれからも支えていくよ。君の事は」


「.....それは程々で良いから」


ハハハと笑う長谷川。

そうしていると背後から声がした。

そこには.....皆んなが立っていた。

虹、葉月、神楽、鋼さん、友美ちゃん、両親などなど俺達を見ている。

俺は、ふと、呟いた。


「.....本当に色々出会いが有ったな.....」


「ああ。そうだな。.....君と出会わなかったら.....こんなに巡り合わせは無かった。本当に色々有難うな」


長谷川は相変わらずの笑みを浮かべる。

因みにコイツは県外の体育大学に進学する。

体育の教師になるらしいのだ。

プロサッカー選手は諦めたらしい。


実家が.....まだ上手く拗れを解決出来ずに居る為に、だ。

それら全てを解決出来なかったのは.....残念だが。

でも考えるにプロサッカー選手は安定しないもんな.....。

しかしこれで本当に良かったのだろうか。


「後悔無いのかって顔をしているな。.....後悔は無いよ。君にも支えられたからこの道を選択した。親との関係は君もよくやってくれたけど.....相変わらずだからな」


「お前は心を読むのが本当に得意だよな.....それで良いなら良いけど」


「.....ああ。これで良いんだ。大丈夫」


「.....そうか」


俺達の様子だが。

虹はアイドルを引退した。

保育士になりたいそうだが。


そして神楽は.....アイドルを続けていく。

鋼さんは.....まぁ相変わらずゲームセンターで働いている。

葉月は.....スクールカウンセラーになりたいそうだ。

何故かと言えば.....同じ障害の子を.....助けたいという。

そして最後に.....美帆だが美帆は.....OLになるらしい。


「.....そして最後は俺か」


「.....君は将来は確か.....最後まで決めきれずに資格を取れる仕事が良いと言っていたな。.....ハハハ。目標が曖昧なのは相変わらずだな」


「.....喧しいわ」


でも簡単に言えば.....俺は介護職に着きたいと思ったのだ。

爺さん婆さんを助ける事に興味が有るしな。

その様に考えながら居ると。


東次郎さん、と美帆がやって来た。

そして俺の手をゆっくりと握る。

ニコッと笑んだ。


「.....早く行きましょう。皆んな待ってます」


「.....今日、お前.....学校無いんだっけ?」


「.....そうですね。今日は午前中で終わりです」


なら行くか、と俺は美帆に手を握った。

長谷川も、だな、と言いながら歩き出す。

そして校舎を後にする。


桜が舞い散る中、だ。

そして.....途中で振り返る。

校舎は俺を見送っている様に見えた。

俺はそれを見ながら.....少しだけ笑みを浮かべて歩き出す。

新たなる道へ、だ。



さて、卒業はしたものの。

この後の予定は特に無いので俺達は皆んな集合で食事に向かった。

それから俺は.....食事してから。


少しだけ時間をくれ、と言う感じで美帆と一緒に二人で河川敷に居た。

横に卒業証書を置いてから寝転がる。

美帆は隣に体操座りしていた。

そして美帆が口を開く。


「.....東次郎さん。風の噂で聞きましたよ。例の件」


「.....虹の事だろ」


「.....はい」


「.....思い出せないと思っていたんだけどな。昔の記憶を」


虹先輩の思い出の記憶ですか?

と聞いてくる美帆。

ああ、と言いながら.....空を見る。


追加で美帆は.....どんなのを思い出したんですか?と聞いてくる。

それに.....俺は目を閉じながら答えた。


「.....虹と確かに幼馴染だ。.....だけどな.....俺達、二人とも記憶を失っているんだと思う」


「.....は?え?え?」


「.....虹は発熱。そして俺も発熱。所謂、水疱瘡ってやつか。それと風邪。それで.....記憶が無くなっていたんだ。だけど.....ある日、虹は思い出したんだと思う。昔の記憶を、だ。それで俺に接触して来たんだろうな」


お互いに.....記憶が無くなる.....悲しいですね、と俺を見る美帆。

それを考えたら.....こんな道でよかったんですか?

と呟きながら俺を見てくる。

俺は.....言葉を発した。


「.....虹とは幼馴染の関係を続ければ良いと思っている。アイツは.....優しいから」


「.....はい.....」


「俺達の幸せを願っているさ。そう言ったしな。だから.....これで良いんだ」


「.....分かりました」


俺達が幸せになる事が.....アイツにとって幸せになる。

そう.....思うんだ。

両親が虹の事を忘れていた。


いや、忘れていたんじゃ無いか。

俺の事を思って忘れた様に振る舞っていたのだろう。

それで.....俺は苦しんだけどな。


「.....配慮.....か」


「.....え?」


「.....何でも無い。御免な」


そして俺は空をもう一度見る。

間も無く.....夕暮れだな。

思いながら.....空を、太陽を見ていた。

門出.....晴れて良かったですね、と美帆が言う。

俺は、そうだな、と答えた。



(お姉ちゃんの事を.....ようやっと思い出したんですね)


(ああ)


(.....それなら良かったです。お姉ちゃん、今もモヤモヤを抱えていましたから。私は腹立たしかったです)


(.....どういう言葉でも受ける。御免な)


そんな感じで夜。

糸玉の妹、鈴に自室でメッセージを送っていた。

俺は.....メッセージを頬杖を突きながら見る。

複雑な顔をした。


(お姉ちゃんは結局.....あなたには選ばれませんでしたけど.....幸せを心から祈っているそうですから)


(.....ああ。有難うな)


(貴方は.....本当に不思議な人です。私のお姉ちゃんが言う様に.....世界を変える存在だと思っています)


(.....大袈裟な。違うぞ)


いえ。

大袈裟では有りません。

私はそう思うから、です。

と鈴はメッセージを送ってくる。

俺は、何?お前、俺の事が好きなの?、とメッセージを送る。


(バカデスカ?アナタ?)


「.....いや.....全部の文字をカタカナにするなよ.....」


滅茶苦茶に怖いんですけど。

考えながら.....メッセージを眉を顰めてメッセージを送る。

鈴は.....冗談に聞こえませんので。

と律儀にメッセージをくれた。


(.....それはそうと.....有難うな。メッセージをくれて)


(いえ。卒業ぐらい祝った方が良いと思いましたから)


(.....祝った方が良いってお前.....固いな.....)


固く無いですけど。と言うか.....用事が有るのでこれで失礼します。

とメッセージを送ってきた。

俺は、ハイハイ、とメッセージを送る。

そして苦笑した。


「.....皆んなから卒業を祝ってもらえて幸せなもんだな。俺も」


将来がどうなるかは今だに分からない。

だけど....安泰している気がした。

俺は思いながら.....窓から外を見る。

そして.....笑みを浮かべた。

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