四十四、遠山の金さん、胸に埋まる

俺も美帆も退院してから。

それから.....春休みが終わった。

あっという間というか.....かなり苦労した春休みになってしまい。


俺は.....美帆にも、虹にも、神楽にも。

とにかく全員に迷惑を掛けた。

簡単に言っちまうと俺自身の過去の台風に巻き添えをした感じだ。


「.....」


本当にもう佐藤は襲って来ないだろうか。

と心配になる事も有りながら.....始業式の日の当日、目が覚めた。

俺はゆっくり起き上がりながら.....前を見据える。

何も起きない事を祈りたいもんだが。


「お兄ちゃん。大丈夫?」


「.....ああ、お前が居たのか。葉月」


横を見ると.....葉月が立って居た。

俺を心配げに見ている。

そんな心配に俺は口角を上げる。

そして葉月の頭を撫でた。


「.....御免な。色々と迷惑を掛けたな」


「.....ううん。お兄ちゃんが無事なら良いの。それで」


「.....俺の精神はジルコニウム的な感じだから。死んでも戻るさ」


でも実際の所、この前は死に掛けたけど。

俺の自殺未遂といい、佐藤の事といい、だ。

自殺未遂は完全に俺の弱さだ。

馬鹿な事をしたと思っているが。

でも.....美帆と虹と.....皆んなが居たから死ななくて済んだけど。


「ジルコニウム?」


「.....固いって意味だよ。ハハハ」


「.....うーん。なるなる。.....それはそうと早く起きないと」


「.....ああ、そうだな」


美帆達は大丈夫だろうか。

思いながら俺はゆっくり立ち上がる。

そして部屋を出て行く、葉月。

振り返ってから俺を見る。


「.....お兄ちゃん。.....気を付けて」


「.....ああ」


何に気を付けるのかと思ったが。

俺は.....頷いた。

葉月の、気を付けて、とはつまり.....俺の周りの心配も含めたものだろう。

俺は.....笑みを浮かべて葉月を見送った。

それから.....着替え出す。



「.....ふあ.....」


朝食を食べてからの出陣となるが。

葉月と別れてから.....欠伸が出した。

そして欠伸を抑えつつ歩く。


眠いと思う、マジに。

と困ったもんだな。

そうしていると.....背後から声がした。


「おはようございます」


「.....美帆」


「.....はい」


美帆が和かに声を掛けてきた。

爽やかな校則を守って着こなしている制服。

だがそれとは裏腹に頬を見ると。


そこには縫った様な傷が見て取れる。

俺は.....少しだけ眉を顰める。

すると.....そんな怖い顔をしないで下さい、と頬に手を添えて言った。

そして俺を見てくる。


「.....私、傷を負って良かったです。東次郎先輩の.....事をまた色々と詳しく知りましたから」


「.....ああ」


「.....だから笑顔でいきましょう」


女の子にとって.....顔に傷を負うのは相当な問題が有る。

どのくらい問題が有るかと言えば.....人生を変えるぐらいに、だ。

俺は.....複雑な顔で唇を噛み締める。

だが美帆は笑顔のままだった。

その顔に少しだけ笑みを見せる。


「.....東次郎先輩は色々抱えている。だからそれを分かち合いたいです」


「.....ああ。有難うな」


「.....いえ」


美帆は手を叩いた。

それはそうと.....今日、部活の申請に行きます。

と笑顔で俺に向いてきた、美帆。

俺は、そうか、と苦笑する。

そうしていると.....背後から更に声がした。


「おはようございます」


「.....神楽、虹」


「おはよ。とーくん」


俺は、おう、と挨拶する。

すると.....皆んなは俺の横に立った。

そして一緒に歩き出す。

俺は.....虹と神楽に向いた。

二人は少しだけ.....暗い顔だ。


「.....俺の事を心配しているのか。お前ら」


「そうだね」


「です」


神楽も虹も複雑な顔を見せる。

俺は.....その複雑な顔に対して.....笑みを浮かべた。

大丈夫だ、と言いながら、だ。

そして.....見る。

二人は俺を見ながら、うん、と顔を見合わせる。


「.....とーくんが言うなら」


「そうだね、虹ちゃん」


でも絶対に.....無理はしない。

と俺に顔を心配げに見せる。

俺は.....その言葉に頷いた。

それから.....校門を潜る。


「.....じゃあ東次郎先輩」


「.....ああ。じゃあな。また後で」


そして俺は神楽と.....虹を見ながら.....行くか。

と笑みを浮かべる。

すると背後からまた声がした。

その人物は.....長谷川だ。


「.....大変だったな」


「.....ああ。確かにな」


「.....正直、そんな事を.....してくる様な輩は直ぐに捕まるべきだな」


「.....それが簡単にはいかないんだよな」


そう、アイツは昔から。

法の眼を潜り抜けたから、だ。

俺は.....再び眉を顰める。

そういう人間なのだ。


「.....何かあったら呼んでくれ。俺を」


「.....お前はスーパーマンか。そんな簡単に来れる訳ないだろ」


「.....いいや。来れる様にするよ。.....君の周りに安心出来る様に強い人を配置する予定だ。友美の件も有るしな」


「.....いや.....それは如何なものか.....」


俺は苦笑い。

でもそいつらはボディガード経験が有る人達なんだよな。

と俺に話す、長谷川。

俺は.....成る程な、と適当に言いながら聞き流す。


って言うかそんな事をする必要は無いと思うが、ってか。

まずは雇う様な金が無いし。

色々な人に迷惑が掛かる。


「.....ジョークでもサンクス。有難うな」


「.....ジョークじゃ無いんだけどな。ハハハ」


「.....でもお前も心から心配してくれているのは分かる。有難うな」


「.....いや.....これぐらいは当たり前だと思っているからな」


君には相当な迷惑が掛かっているから。

と相変わらずの.....笑みを浮かべる。

なんと言うか.....複雑な笑みだ。

色々な事が籠っている様な、そんな感じの、だ。


「俺は迷惑と思って無い。.....友美ちゃんがまた戻れる様になったら声を掛けてくれ」


「.....君は本当に優しいな」


「.....俺は.....優しく無い」


というかこれが人として当たり前と思っている事だからな。

思いながら.....俺達は下駄箱で靴を履き替えて。

それから.....登校する。

何時もの日常が始まろうとしていた。



さて、放課後になった。

教室から出ようとした時。

目の前から声がした。

美帆が立っている。


「.....で?どうなんだ?」


「.....部活は目的ははっきりしていて出来るみたいです。問題は.....顧問ですよね」


「.....成る程な」


顧問ねぇ。

思いながら.....背後を見ると虹と神楽が立っていた。

お前らならどうする?、と聞くと。

悩み出した。


「.....どうしようか」


「だね」


顧問に当ては無い。

何故かって?

そうだな.....俺たちってあまり先生に興味無いから。

ってか全学生そうなんじゃ無いか?

考えながら.....その場に居ると。


「部活の顧問に困ってるのか?」


「.....長谷川」


「.....聞いたよ。色々。.....俺ならアテが有るけど」


「.....マジで?」


ああ。

その先生は女性の教諭だ。

と話すが.....その人は長谷川のエージェントとかじゃ無いよな。

その様に考えながら.....ジト目をすると。

長谷川は首を横に振る。


「.....そんな人じゃ無い。.....俺の付き人じゃ無いよ。安心してくれ」


「なら良いが。これ以上お前に迷惑を掛ける訳にもいかないからな」


「.....そうか.....有難うな」


じゃあまぁ取り敢えず会ってみないか?

と長谷川は背後を指差す。

俺達は顔を見合わせて頷いた。

それから、じゃあ任せる、と言葉を発する。



「顧問の平山夏加(ヒラヤマナズカ)先生だ」


「宜しくです」


かなりビックリ。

ってかこんな先生居たんだな。

何がって.....胸がでかい.....。

そして胸がデカくてスタイル良くてそして最後に.....丸眼鏡を掛けている美人だ。


眼鏡美人と言える。

身長はそこそこ。

んで、髪の毛は黒の長髪だ。

見つめていると.....背後から軽蔑の眼差しを感じた。


「とーくん」


「.....東次郎先輩」


「.....東次郎くん?」


何だよ。

俺は何も言ってないぞ。

胸がでかいとかだけしか思って無い。

思いながら先生に聞く。


「先生。.....顧問やってくれるんですか?」


「.....はい。私で良ければ」


「.....そうですか」


そして俺は先生に笑みを浮かべる。

先生は握手をしようと歩き出して.....そして。

コンセントにつまづいた。

俺の顔に胸が飛んで.....きてそして俺はぶっ倒れる。


「先生!大丈夫.....」


「.....は、はい.....きゃっ!?」


平山先生は慌てて俺から離れる。

胸の中に埋もれてしまった。

俺は.....ヤッベ、胸ってすげぇ心地良いと思ってしまい。

鼻血が出そうになっ.....。

はっ!


「東次郎くん.....」


「.....あはは。とーくん。いっけない子だぁ」


背後からバキバキと手を鳴らす音がした。

俺は驚愕しながら.....青ざめつつ苦笑いをしてそして.....盛大に溜息を吐いた。

また面倒臭い日々が始まりそうな気がして.....俺は額に手を添える。

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