十二節、部活動開始近く

四十三、遠山の金さん、部活の部長に指名される

遠山東次郎。

俺はかつて小学校時代にかなりイジメられていた。

それは思い出す度に腹立たしくそして.....ただひたすらに青ざめるしか無い絶望と混沌が入り混じった.....世界で有り。

俺は.....助けを求めた教師にさえ.....イジメを受けていた。

イジメというかうざったいという感じで.....扱われたのだ。


止められないイジメに.....俺は6年間を悪夢の年として.....過ごした。

それらは簡単に言えばカツアゲ、机を外に出される、教科書を捨てられると数えたらキリが無い事をされたと思うのだ。

その原因の全ては俺だったけど。


かつての事だが佐藤に対して.....交通事故で怪我を負わせた。

俺と佐藤はかつて相手にされない様な相手同士だったのだが俺が調子に乗って横断歩道を渡っていた時に押してしまったのだ。

それから.....全てが狂い始めた。


それからだ。

俺の全てが狂い始めたのだ。

交通事故のお金を寄越せとか言ってイジメを受けた。


それだけじゃ無い。

佐藤の仲間達にもイジメを受けた。

簡単に言えば.....全てが絶望で。

俺は佐藤の仲間達には.....トイレで水を強制的に飲まされる様なイジメを受けた。

だから俺は.....心に深い傷を負っている。


そんな中で.....俺はようやっと安心する場所を得たと思っていた。

甘すぎたのだ。

こんな馬鹿野郎は心を閉ざす事にして.....自殺を決意した。


何故かって言われたら.....俺が生きていたら.....皆んなに、美帆に、虹に、神楽に、葉月に、とにかく皆んなに迷惑を掛ける事になるのだ。

そんな俺は死ねば良いのだと考えた。


「初めからこうすりゃ良かったんだな」


心を閉じた俺は気が付くと.....何故か病院の屋上に居た。

簡単に言えばここから飛び降りて死ぬ為。

俺は無傷だったが美帆に多大な迷惑を掛けてしまった。

心に傷を負わせてしまった。


美帆の両親にも、だ。

だから.....もう生きる意味は無い。

俺は死ねば良い。

ここなら誰も邪魔されないだろう。


そして俺は.....身投げをしようとした。

晴れ渡る空なら.....天国まで行けるだろ。

のだが.....あと一歩の所でその手を誰かが掴んだ。

背後を見ると.....虹と美帆が居た。


「.....何をしているんですか。先輩」


「.....」


「死ぬつもりですか。先輩」


「.....そうだが。.....俺の勝手だろ」


だが勢い良くバシッと頬を引っ叩かれた。

俺はハッとして.....顔を上げる。

何をしやがるんだ。


思いながら目の前の虹と美帆を睨む。

しかしその気も失せた。

号泣していたのだ。

俺の胸に縋って二人は泣いていた。

そしてこう言う。


「.....死ぬのは確かに簡単です。.....でも私達を.....考えないで死ぬなら.....それは最低だと思います。死んで良い訳が無いですよ」


「何も考えないで死ぬ気は止めて。とーくん」


「.....お前ら.....」


美帆は何故居るのか分からない。

確か同じ病室で.....俺はトイレに行くと言った筈なんだが何でこの場所が分かったんだと思う。

思いながら.....大きなガーゼを頬に貼っている美帆を見る。

そして顔を静かに逸らした。


「先輩。お願いですから。.....お願いですから死なないで下さい」


「.....でもな。俺はもう生きる価値も無いんだよ。美帆。虹」


「とーくん。生きる価値が無いのは佐藤の方だから」


「.....」


美帆の顔にダメージを負わせた責任は俺だ。

だから.....死ぬのは俺なのだ。

もう生きる価値も無いのは俺なのだ。

だから。


「.....先輩。今言う言葉じゃ無いのかも知れません。でも.....先輩、昔こう言ってました。.....『俺は存在価値も無いけど.....人を救うだけの価値は有る』と。当時の先輩は何処に行ったんですか」


「.....その当時の俺は死んだんだ。俺は.....うん」


「.....とーくん.....」


俺は涙を流した。

そして.....目の前を見る。

もう無理なんだよ!と叫んでしまった。

そして.....もう無理なんだよ.....と膝を丸める。

すると二人は膝を曲げて俺の肩に触れる。


「.....とーくん。無理じゃ無いよ」


「.....今から反撃の時ですよ。この傷を負って良かったです。警察にも相談しましたし。被害届も出しました」


「.....有難う。そして御免な.....二人共.....弱い俺で.....」


でもやっと本音が聞けた気がしました。

と笑顔の二人。

俺は.....その二人の顔を見て.....涙が浮かんだ。

本当にコイツらに会えて良かったと思えた気がした。


「すまない.....」


「あはは。でも好きになるって大変ですね。.....でも本当に.....私、先輩に出会えて良かったです」


「.....私も」


柔和に接してくれる二人。

二人の言葉に.....俺は顔に手を添えて俯く。

そして.....顔を上げて笑みを溢した。

ようやっと俺は.....笑えた気が.....する。

絶望を.....乗り越えれる気がした。



「でも先輩。暫くはアイツは来ないと思います」


「.....それだったら良いけどな」


「私以外に人に見られたりしていますから」


病院の屋上から帰って来てから。

虹と美帆と.....後からやって来た葉月と会話する。

因みに今日、来る予定だった神楽達は時間を置いてから来るという。

何故かと言えば今現在、この病室に空き場所が無いからだ。


「.....でも来ないとは限りません。だから.....佐藤が早めに捕まる事を願いましょう」


「.....それしか無いな。確かに」


俺は顎に手を添えて虹達を見る。

そうしていると、うーん、と言いながら伸びをした美帆。

それから.....俺にニコッと笑んだ。

そして虹を見る。


「.....で、暗い話は置いて。.....先輩。もう直ぐ春休みが終わりますよね。そこでなんですけど.....先輩が部活の部長になって下さい」


「何でそうなる」


「とーくんが最適だから」


「.....お前ら.....」


俺は今日何回目のため息か分からない溜息を吐きながらいきなりの提案に額に手を添えて皆んなを見る。

そいつらはニコニコしながら俺を見ていた。

コイツら.....計画していたな?

思いながら.....笑みを浮かべて当たり前の答えを言い放った。


「嫌だ」


「.....まあですよね。でも先輩以外有り得ないんですよこれ。考えましたけど」


「いや.....どう考えても俺は.....根っから腐っているし」


「まあそう言わず。ね?.....とーくん」


いやいやいや、マジに何で俺が.....。

と思って居ると葉月が可愛らしく言葉を発した。

お願い。お兄ちゃん、と、だ。

いや、そう言われても.....。


「葉月ちゃんのお願いですから」


「.....だね。美帆ちゃん。あはは」


いや、いくら葉月の願いとは言え.....。

と思ったが考えるのが面倒になってきた。

その為に盛大に溜息を吐き答える。


「.....ハァ.....もう良いよ分かった。.....やれば良いんだろ.....」


何だってこうなるんだ.....。

その様に考えながらも、ですです、と皆んなが穏やかに顔を見合わせて話す。

全くコイツらと来たら.....本当に参る。

思いながら再び、溜息混じりで笑みを浮かべた。

そんな中で、だけど、と虹が真剣な顔をする。


「無理が有るなって思ったら私が代行するからね。とーくん」


「.....やると決めた以上はやるんだが.....大丈夫だ」


「.....駄目。無理は禁物だよ」


そして俺の手を優しく握った虹。

俺は、いや。どっちだよ、と苦笑して考えながらも。

頷いて、分かった、と返事をする。

そして.....俺が部活の部長に就任する羽目になった。

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