四十二、遠山の金さん、キレる

「先輩。寝れません」


「だからと言え俺の部屋に来ても寝せないぞ。甘えるな。この世界はそんなに甘く無い」


夜中の1時ぐらいだろう。

俺の部屋に訪問者が有った。

その訪問者とは美帆だ。

何で来たのか尋ねたら、寝れません、と言う回答だった。

いや、何だよコイツ。


「寝れませんから俺の部屋で寝るのかお前。ふざけるな」


「.....先輩。女の子が部屋を求めています。寝せて下さい」


「傲慢かっ!」


「.....ぶう。ケチ」


もう良いです。

明日、先輩に強姦されそうになったと言いふらします。

と踵を返した.....ハァ!?

コラァ!!!!!


「おま.....ハァ.....今日だけだからな」


「わー。流石先輩です!」


「.....お前.....女子ってみんなこんな感じなのか?」


「そうですよ。好きな人に対しては特に」


ヒヒヒ、と笑みを浮かべる美帆。

虹に殺されそうな気がする。

っていうかこの事は話しているんだろうか?

じゃ無いとマジに殺される。

虹、怖いから。


「じゃあお隣を失礼して」


「俺は床で寝る」


「.....何でですか」


「当たり前だろ!俺達は性別が別々なんだぞ!」


何を考えてんだコイツ!?

マジに今日はおかしいんじゃ無いか!?

思いながら俺は床に毛布を敷いて横になった。

すると.....ベッドに寝た美帆が、いつでも来て良いですから、と小声で話す。


「馬鹿か。それはしない」


「.....何でですか?」


「.....俺は女子にそんな真似をする程.....腐ってないから」


「.....あはは。やはり先輩ですね」


でもそれが先輩らしいです。

ではお休みなさい。

と頬杖を突きながら美帆は話した。

俺はその姿を見ながら.....、ったく、と呟き。

それから横になった。


「先輩」


「何だ」


「.....私、今が一番楽しいです。私、人間関係がうまくいかなかったので」


「.....は?お前、そういうの得意なんじゃ無いのか」


それは買いかぶりすぎですよ。

と美帆は.....向こうの壁の方を見つつ言葉を発する。

俺は.....美帆の後ろ姿を見ながら、そんなもんかね、と言った。

美帆は、ですです、と.....声を詰まらせながら発する。


「だって.....私から離れていくんです。皆んな。私が.....色々と遠慮するから.....そんなの友達じゃ無いって離れていくんです。この前の子だって.....離れました」


「.....よく分からん」


「.....つまりを言えばですね。私は....花を咲かせようと必死になっている人間です。でも相手は花を咲かせない。そんな感じですよ」


「.....つまり.....お前は人間関係が得意じゃ無いのか」


ですよ。

と声を震わせる。

俺は、そんなもんか.....、と思う。

まあ俺の場合は.....ボッチだから分からないと思ったが。

でも何かが分かる気がする。


佐藤に狙われてから.....ずっと人が離れていったから。

だから知っている気がする。

そうだな.....心をシャベルで壊された感じだな。

穴だらけにされたって言うか。

佐藤に、だ。


「.....大丈夫だ」


「.....え?」


「俺は親友になりたく無いが.....虹とか神楽なら親友になってくれるぞ」


「.....先輩は」


俺は嫌だ。

知り合いで止めておきたい。

だってそうだろ.....親友とか面倒い。

考えつつ居ると美帆がクスクスと笑った。

やっぱり捻くれてますね、と、だ。


「.....でも先輩のお陰で.....少し元気になりました」


「.....何もしてないんだが.....」


「先輩が捻くれているせいです。それで元気になりました」


「.....」


ところで先輩。

と美帆が言葉を発する。

何だ、と言う。

すると美帆が起き上がった。

そして手には.....エッチな本が.....え?


「.....あ」


「.....先輩、巨乳好きですか?へぇ.....」


「そんな軽蔑の目で見るなよ。男の部屋だぞここは」


「.....こういうの隠すのが当たり前なんですけど」


まあ確かに。

でもお前だから良いと思った。

と慌てて説得する。

すると美帆は胸を触った。


「.....どうせ私は貧乳ですけど」


「.....色々とすいませんでした」


「.....流石にこんなエッチな本は隠してほしいです」


何で真夜中にこんな説教を受けているんだ俺は。

思いながら.....エッチな本は改めて破棄しよう。

その様に考え、赤くなっている美帆を説得した。

そうしていると翌日になったのだが。



「.....?」


重い感触が有った。

俺はモニュモニュしている感触に?を浮かべる。

何だこの感触.....と思って目を開くと。

美帆の胸を俺は触っていた。

俺は驚愕して飛び起き.....れない!?


「.....うーん。マシュマロ」


「マシュマロじゃねぇよ.....!?」


完璧に抱きつかれている。

何だコイツ!

ベッドの上で寝ていた癖によ!

落ちてきやがったのか!?

勘弁してくれよマジで!


「うーん.....」


「.....!」


股間を太腿で弄られている。

いかん、これ絶対にヤバイ.....!

人間として死ぬ。

いや、世間的にも死ぬ!


「起きろ.....!美帆.....!」


「うー.....むにゃむにゃ」


コイツ爆睡してやがる。

俺が襲う側の人間だったらマジにどうする気だ。

完全にヤバイって。

く、クソッタレ!

と思っていると.....俺の部屋のドアがノックされそして。


コンコン


「お兄ちゃん?朝.....」


「.....」


「.....お兄ちゃん?何をしているの.....?」


バキバキと手を鳴らして影が大きくなっていく、葉月。

いや、俺は巻き込まれた側だぞ!!!!?

ヤバイ!葉月の目が死んでいる!

お前はもう死んでいる的な感じでやろうとしている!


「お、落ち着け!葉月!俺は.....巻き込まれ側だ!」


「じゃあ何で一緒にそんな近くで寝ているの」


「.....これは誤解だってばよ」


「.....うん。そうなんだ。じゃあさよなら変態お兄ちゃん」


ギギギとドアが閉まる。

あ、これそんな感じで俺を殺すパターンですか。

じゃあかなりマズイ!!!!!

葉月カムバック!


「.....?.....先輩?」


「.....お前.....」


「.....?」


今頃起きるなよ。

思いながら俺は.....額に手を添えた。

そして盛大に溜息を吐き。

美帆を見る。


「.....先輩.....何で私はこっちで寝ているのですか」


「.....落ち着け。良いか。これは全部お前のせいだ」


「.....」


本当ですかね?怪しいんですけど。

という感じの目をして.....赤面で胸を隠す仕草をする美帆。

俺は.....もうどうしろってんだ.....的な感じで.....本日二度目の溜息を吐いた。

だから嫌だぞ.....女の子ってのは特に。



「因みに今日の事は糸玉先輩に許可を取っています」


「.....ああ、そうなのか。ってか当たり前だな」


「あはは。ですね」


午前10時。

そろそろ帰りますと言う、美帆を見送る為。

玄関までやって来た。

横には葉月、友美ちゃんが立つ。

俺は笑みを浮かべた。


「.....また来ても良いですか」


「.....勝手にしろ。ただし親の許可、糸玉の許可を取れよ」


「はい。有難う御座います」


そして踵を返して玄関を開ける美帆。

それから.....玄関の先。

目の前に立っている人物を見て俺は青ざめた。

何故.....コイツが居る。


「あっれー?お前、こんなとこに住んでんの?図書館の住所見て試しに来たら.....まさかだよな」


「.....お前、不愉快な事ばかりするよな。.....佐藤」


「.....お.....お兄ちゃん.....」


何故かと思ったが。

そんな汚い真似をしたのかコイツ。

思いながら.....救い様の無いクズを見た。


すると.....まさかこの人?

と美帆がキッと睨んだ。

身長差が10センチぐらい有る女を、だ。


「お前.....何でそんな事をするんだ。汚いと思わないのか」


「.....アタシは気に入らない物をぶっ壊す主義だから。ハハハ」


「.....」


クソッ.....。

何てこった。

思いながら.....見ていると。

美帆が、何ですか貴方。

個人情報ですよね?と詰め寄った。


「ハァ?何お前?」


「.....私は東次郎先輩の後輩ですけど」


「じゃあクズの後輩ってか?ハハハ」


「東次郎先輩はクズじゃ無いです!」


すると.....美帆の頬を何かが掠った。

そして美帆の頬から血が.....え.....。

マジか.....嘘だろコイツ!


俺は直ぐに美帆に駆け寄る。

美帆は何が起こったか分からない顔で.....頬を触れた。

ポタポタ血が美帆の大切な服に落ちる。


恐怖故か美帆は地面にヘナヘナ座りして震えていた。

流石の俺もこの時。

完全に何かがブチッとキレた。

佐藤の持っている.....小型折り畳みナイフを見る。

不良がよく持っている様な.....そんな、だ。


「調子に乗んな。気にいらねぇんだよ」


「.....お前.....テメェ!!!!!コラァ!!!!!」


完全に頭に血が上った。

すると次の瞬間。

俺の腹に膝が食い込んだ。

そしてドサッと倒れる。

このクソアマ.....絶対に、絶対に許さない!!!!!


「.....お前さ、調子に乗るのも大概にしろよ。遠山」


「.....マジなマジにお前の様なクズは.....この世から消えてくれよマジに.....!」


「負け犬の遠吠えか?ハハハ」


お兄ちゃん!と泣きながら葉月とそして心配げに俺に寄って来る友美ちゃん。

するとその騒ぎの故か近所の人達が遠くから何事かと駆け寄って来た。

それを見た佐藤がチッと舌打ちして、遠山くんじゃあな、とニヤァと歪んだ笑みを浮かべて手を挙げて去って行く。

と同時に男の人が二人寄って来た。


「.....おい君!大丈夫か!?」


「うわ!出血してる!救急車が.....!」


俺は大丈夫です.....と立ち上がり。

そして美帆の頬にハンカチを当てる。

何だよこれ.....出血が止まらない。

マジに.....こんな事になるなんて.....!

思いながら美帆の肩を掴む。


「大丈夫か!美帆!」


「.....は、はい.....」


呆然とする、美帆。

取り敢えずマジに救急車を.....!

と思いながら俺は必死に訴えた。

それから俺達は.....病院に運ばれて。

治療を受けたが。


美帆は3針縫う大怪我だった。

俺は俺自身の腑甲斐無さに.....巻き込んでしまった事に。

嫌気が差してしまった。

あの女だけは絶対に許せない.....!

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