四十、遠山の金さん、女子トークを眺める

いかにこの世界が狭いかってのがよく分かった。

俺の近くに佐藤果穂が来るとは思わなかったのだ。

佐藤果穂ってのは俺の因縁の相手にして最後の敵だと思っているイジメっ子だ。

アイツさえ居なかったら.....俺の世界は安泰していたのだ。

俺達は図書館から逃げて来て家路を急ぐ。


「お兄ちゃん.....顔が.....大丈夫.....?」


「.....ちょっとしんどいけど.....大丈夫だ。御免な.....お前にまで迷惑を掛けて.....」


何故こんな事になったのか。

思いながら俺は青ざめている額に手を添える。

カタカタと手が震えていた。

その手を.....友美ちゃんが、葉月が握ってくれる。


「.....遠山さん。無理はしないで下さいね」


「.....お前には関係無いのに.....嫌な事を見せてごめんな」


「.....いえ。私はお兄に関係している人なら.....どんな方でしょうとも慈愛を持って接します」


「.....有難うな。有難う」


そんな会話をしながら家までやって来ると。

何故か糸玉、飯山、足利が立って居た。

俺は驚愕して目を丸くする。

そいつらの顔は心配げな顔をしていた。

いや、ちょっと待て何でコイツらが居るんだ?


「.....私が呼んだの。皆んな忙しかったけど.....来てくれませんかって。.....皆さんキャンセルして来てくれたの」


「.....お前.....皆んなに迷惑を掛けて.....」


「でも心配だったから.....お兄ちゃんが死んじゃうって思ったから。心から怖かったから.....」


「.....いやいや大袈裟すぎるだろ。.....でも.....有難うな」


コイツら.....皆んな忙しいって言ったのにこんな事で来てくれて.....。

思いながら居ると糸玉がやって来た。

そして俺の手を握る。

俺は?を浮かべて糸玉を見た。

糸玉達は顔を見合わせて静かに頷く。


「.....今度は私達が東次郎くんを救う番です」


「.....そうだね。神楽」


「私もやりますよ!だって東次郎先輩の事ですから!」


「.....お前ら.....」


俺は.....思いっきり歯を食いしばる。

コイツらは.....全然.....関係無いのに、だ。

そうして思いながらも.....最後は笑みを浮かべ見つめる。

有難うな、と言いながら、だ。

皆んな顔を見合わせて首を振った。


「だってとーくんから色々貰ったんだよ?私達。だから恩返しだよ」


「そうです」


「だね」


葉月も、私もやります、と言い出した。

友美ちゃんも、だ。

俺は今まで何もしていないと思う。


ただ目の前に有った事が許せないから動いただけで。

でも.....コイツらは俺を救いたいと言う。

何だろうな.....。


「.....有難う」


ただそうしか言えず。

俺の頬に一筋だけ涙が流れた。

マジにコイツらに出会えて.....幸せだと.....そう思えたのだ。

もう一度、俺は頭を下げる。

そして家に入った。



「.....その女が何でそうなったか.....何でそんな性格になったのか考えるべきだよね」


「それはそうだけど.....やっぱり先輩の過負荷になるから.....先ずは最初に近付けさせない事が最優先だと思います」


「私.....どうしたら良いと思います?」


何故コイツらはこんなにしてくれるんだろうな。

思いながら.....俺は目の前の会話をする三人を見つめる。

俺はただ.....何も言えず見守っていた。

リビングで会話する、五人。


「.....何か飲むか」


「うん。有難う。.....にしても.....許せないね」


「だね。糸玉ちゃん」


「ですね.....」


マジに会議状態だ。

まるで.....ゼーレの審問会議の様な感じだ。

これで石版が有ったら本当に審問会議のゼーレだな。

思いながら.....取り敢えずはオレンジジュースでも入れるか、と動き出す。


「とーくん。その女は因縁の相手なんでしょ?」


「.....因縁というか.....そいつさえ居なかったら.....小学校時代は過ごしやすかったな」


「じゃあやっぱり因縁の相手だね」


糸玉は顎に手を添える。

その中で俺は何故か、虹、と呼んでしまった。

すると糸玉が目を丸くして俺を見る。

どうしたの?という感じだ。


「.....とーくん。どうしたの?」


「.....いや。何だかそう呼びたくなった」


「変なとーくん。あはは。でも呼び方は気にしなくて良いよ」


そうは言うが.....もう良いんじゃ無いだろうか。

こんなに親しくなったらそろそろ、虹、と呼んでも良い様な気がする。

何故かって?

だって一ヶ月近く、糸玉、と呼んでいる。


鈴の事も、鈴、と呼んでいるのに、だ。

そして皆んな俺を名前で呼んでいる。

よし、試しに呼んでみるか。


「美帆」


「.....はい!?」


「.....神楽」


「え?」


素っ頓狂な声を上げて俺を見る飯山と足利。

そして目を丸くした。

それから.....ど、どうしたんですか?先輩。

と驚愕する。


「.....うん。まぁ。試しに呼んでみただけだ」


「.....あ、お試し.....」


何でそんなにガックリするんだ。

思いながら.....ジュースを持ってコップに注いでいると。

飯山が寄って来た。

そして腕を組む。

お、おい!?


「でも私は神楽が良いです。ね?とーくん」


「神楽!私の呼び方を取らないの!」


「.....不潔」


足利。

お前は伊吹マヤか。

何でそんな言葉を発するんだ。

いや、神楽が悪いけど。


「飯山。離れてくれ」


「嫌ですよー。名前で呼んで下さい。それをやったら離れます」


「.....お前.....」


メラメラと音がした。

何故かって言えば.....じゃあ私も名前で呼んでもらいます。

と豪炎を上げながら糸玉と足利が頬を膨らませているからだ。

葉月と友美ちゃんは苦笑していた。


「.....お兄ちゃん.....モテモテだね」


「俺はこんなハーレムを望んでいないぞ」


「あはは」


確かにモテモテでは有るけど。

でも俺は誰とも付き合うつもりは無いのだ。

だがそう言い続けても.....飯山は離れないので.....ってか胸が当たっている。

赤面しながら俺は三人を呼んだ。


「神楽。美帆。虹」


「はーい」


「はい」


「はい」


出席を取っている感覚だ。

まあでも.....もう良いや。

これでいこうと思いつつ.....ジュースを配った。

それから三人は、有難う、と言いながらニコッとしてまた会話し始める。

円卓会議がまだまだ続くって感じだ。


「でも嬉しいですね。東次郎先輩が名前で」


「だね」


「そうですね」


赤くなりながら.....俺を見る三人。

ここまでコイツらと親しくなるとは思わなかった。

俺は名前で.....呼ぶのは嫌いなんだけど。

でももう良いんじゃ無いかって思い始めた。

コイツらだからこそ、だ。


だけど俺は.....まだ名前で呼ぶのは慣れない。

何故かと言われたら.....小学校時代にそう呼んで.....人との関係が拗れたから。

だから.....嫌だったのだ

でも.....コイツらだからこそ。

そして今だからこそ.....呼べる気がする。


でも.....不安だ。

コイツらが.....俺に関わって絶望を垣間見る事になるなら。

俺は孤独に戻る気だ。


孤独で.....そして誰とも関わらないつもりだ。

何故かって言えば。

俺は.....コイツらが大切だとそう思っているから、だ。


だから俺は.....そうなった時の事を考える。

そして.....天井を見上げた。

すると俺の手を美帆が握る。


「.....孤独で戦おうって思ってませんか。もしかして」


「.....何で分かる.....あ。いや、何でも無い」


「.....それだけは止めて。とーくん」


怒る虹。

一体何故、分かるのかと思いながら見ていると。

皆んな和かになった。

顔で分かるよ、と言うのだ。

そんなにマズイ顔をしたのか。


「.....一ヶ月も一緒なんだよ?分かるに決まっているよ。とーくん。特に私は昔から一緒なんだから」


「.....」


「.....孤独で戦うぐらいなら私達を巻き込んで下さい」


「.....お前ら.....」


私達は玉砕覚悟ですから。

と美帆は笑顔で俺を見つめる。

例えば貴方が暗い穴におっこちても.....私達が手を握りますから。

と神楽は笑みを浮かべる。


「だから私達を頼ってね。とーくん」


「.....」


涙が出そうだ。

本当に.....良い奴らだな、コイツら。

葉月を見る。

そんな葉月も笑顔でニコニコする。

それから.....友美ちゃんも口角を上げて俺を見てくる。


「.....分かった。何か有ったら相談させてもらう。宜しくな」


「うん」


「ですね」


「そうそう」


ところで気が付いてます?

と俺に美帆が髪を触りながら尋ねてくる。

俺は?を浮かべながら.....美帆を見る。


真っ黒な髪の毛以外.....何も分からないんだが。

そう言うと美帆は盛大に溜息を吐いた。

そして残念そうな顔をする。


「ヘアピンです。お花のヘアピン付けてみたんです」


「.....ああ.....なるほどな」


「もー。とーくん。それは駄目だって。女の子の変わった様子に気が付かないと」


「そう言うが.....無理だろ。鈍感なんだぞ俺は」


あ、因みに私も変えたんだよヘアピン。

私も変えました。

と虹と神楽が言う。

何でそんなに変える必要が有るんだ。

思いながら居ると、答えを言ってくれた。


「私達、仲が良いからね」


「そうそう」


「ですね」


いつの間にかそんな感じになったと言う。

マジかよ。

うん?そういや.....美帆のアイドルの誘いはどうなったんだ。

思いながら.....美帆を見た。


「美帆。お前.....アイドルは?」


「.....あ、私ですか?アイドルは.....止めます。でも.....その代わりに部活に予定として入ってもらいます!」


「.....ああ、コイツらが、か?」


「ですね」


美帆は胸を張る。

ふふーんと。

俺は、成る程、と考えながら頭をボリボリ掻きつつ.....で、部活の名前は?と聞いてみる。

すると美帆は、あ。部活の名前ですね。、と話した。

それから.....頷き合って.....え?


「東次郎お助け部です」


目が点になった。

( ゚д゚)という顔に再びなる。

いやいや、勘弁してくれ。

何で俺の名前を勝手に引用してんだ。

プライバシー侵害だぞ。


「.....却下だ」


「えー!?」


「当たり前だろ!アホなのかお前らは!!!!!」


「「「ぶー」」」


ぶー、じゃ無いぞお前ら!!!!!

あったりまえだろ!!!!!

逆に聞くが何でそれで良いと思ったんだ。


思いながら俺は盛大に溜息を吐く。

そして会話する.....五人を見た。

全くな.....と思いながらも自然と笑みを浮かべる。


「お兄ちゃん。私も一緒に決めて良い?」


「私も参加して良いですか?」


「.....もう勝手にしろ.....でも名前だけは引用するなよ」


それから、はーい、と手を挙げて女子トークが始まる。

俺はその側で.....ジュースを飲んだ。

特に久々に佐藤に会ったその日は何も起こらなかった。

これから先も.....何も起こらなければ良いがと思いながら.....夜を迎える。

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