三十七、遠山の金さん、英雄と言われる
飯山と飯山の姉貴は仲が悪いというか複雑な様だった。
プリクラ機がいっぱい有る場所で俺はプリクラから出て来たふざけた写真を見ながら.....顎に手を添えて考える。
飯山自体は仲が悪いと思っている様だが飯山の姉貴。
つまり鋼さんは飯山と仲を取り持ちたいと思っている様で有る。
何だろうな.....可哀想って訳じゃ無いんだが.....何とも言えない感情だ。
複雑って感じじゃ無いぐらいに複雑だ。
こんなに複雑で良いのだろうか家庭環境って。
だから飯山は.....アイツは一人で全てを解決しようとしているんだな。
がむしゃらに.....生きているのだな。
まるで.....一匹狼の様に。
仲間の居ない狼の様に、だ。
「どうしたの?とーくん」
「.....いや。何でも。ただちょっと飯山の事が気になっただけだ。大丈夫だとは思うけどな」
「.....成る程ね。でも神楽は神楽なりに生きていると思うよ。だから無理に割り込む必要は無いと思うよ」
「.....まあそうなんだけどな」
すると足利が何かを持ってやって来た。
ジュースを持っている。
俺と糸玉にそれぞれ渡しながら.....って俺はグレープかよ。
グレープ苦手なんだけど.....。
足利は隣に腰掛けながらどうしたんですか?と聞いてくる。
「.....飯山の事だ。そんなに心配する事じゃ無いんだけどな」
「飯山先輩ですか.....」
「.....ああ」
飯山先輩の事、あまり知らないんですよね、私。
と足利は苦笑する。
そりゃそうだろうな。
クラスメイトって訳じゃ無いんだから。
思いながら.....グレープジュースを飲んでみる。
お、おう、独特だなやっぱ。
思いながら俺は溜息を吐きつつ.....足利を見る。
「.....でも確かに気にはなるね。神楽の事」
「.....だろ。アイツは.....一人だからな」
「.....これからは支えていかないといけないね」
「.....ああ」
アイツは反省している。
だから.....友人になっても良いと糸玉が話した。
なので俺も.....だったら、と友人になる事に決めたのだ。
まあ俺は.....ボッチ人間だったから友人関係とかキツいんだけどな。
「真面目なんだよ。神楽。でも.....孤独が好きだから.....私達のアイドルグループの人間でも近付くのが難しいんだよね」
「.....ああ、そうなのか、やっぱ」
「.....アイドル仲間の中では.....神楽の事を、生真面目すぎて気持ちが悪いって表現している人も居るんだよね。だから.....可哀想って言ったら駄目だけど.....うん」
「.....孤独ばかりだったら死にますけどね。私」
だってお友達と話せないなんて生きている意味が無いです、と頷く。
そうだよな、普通に考えたらそうだ。
思いながら.....前を見ると。
髪を結んだ身長の高い女性が.....って鋼さんだ。
「よお。お前ら」
「.....鋼さん?どうしたんですか?」
「バイトは終わりだ。だからまだ居るならお前らと話したくてな」
「.....!」
鋼さんは.....苦笑する。
私の妹の事に関して.....話したい。
と頬を掻いた。
俺と糸玉、足利は顔を見合わせ。
良いですよ、と言葉を発した。
「.....有難うな。それと.....友達になってくれて有難うな」
「.....」
「アイツは.....ようやっと幸せになれるかもな。.....ハハ」
ようやっと。
その言葉に物凄い力が籠もっている気がした。
俺は聞きながら.....鋼さんを見る。
鋼さんはニコッとする。
「.....私は心底、アイツが心配だよ。だけど.....部屋にも入れてくれないからな」
「.....アイツの部屋はとても綺麗ですよ。そして.....料理もしています」
「.....そうなんだな。アイツ.....料理、ヘッタクソだったんだけどな」
「.....」
食ってみたいもんだ。
と自嘲の様に笑みを浮かべる鋼さん。
糸玉が胸に手を当てた。
そして言う。
「.....アイドルとして.....とても真面目ですよ。勉強も真面目です」
「.....そうなんだな」
「.....ええ。体育も得意なんです」
「.....そうか」
鋼さんは鞄をかけ直す。
そして腰掛けた。
俺はそれを見つめながら.....前を見る。
キラキラ輝いている液晶が沢山なのに.....何だか複雑な色に見えた。
「.....ご両親は何で.....飯山を見限ったんですか?」
つい、その様な言葉が飛び出した。
俺はハッとして直ぐに口を噤むが聞かれていた様だ。
鋼さんは横に有る自販機で飲み物を買う。
そして.....ブラックコーヒーを飲んで苦笑した。
「.....そうだな。君達は親の愛は受けているかい」
「.....え?.....はい」
「.....実は.....私達はそれぞれ博打の借金を背負わされたんだ。それで.....見限られたんだ。要は切り捨てられたんだけどね」
「.....え.....」
そんな理不尽な事.....!?
と唖然とする糸玉。
俺は見開いた。
足利も、え?、と嘘だろ?的な感じの反応する。
ここからが話だ、と笑みが消えた鋼さん。
「.....私が千万全て背負うと言ったんだけどね。だけど.....彼女は.....与えられた限りは私がやると決めたって言って聞かなかった。私は陰ながら自分の借金も彼女の借金も返していたんだ。だけど有る日の事だったけど親に私は.....借金をまだ背負えると判断されて家に残されて.....彼女は借金を背負え無いと判断されて家の生活費が勿体無いとゴミを捨てる様に追い出されたんだ。それだけじゃ無くて家に帰って来るなって親は言ったんだ。私の為に、ね。その頃から変わり始めた。神楽の性格も何もかもが、だ。私を嫌悪して.....そして孤独になったんだ」
「.....額って幾らなんですか?」
「.....二人合わせて千万近くだね」
「.....そんな無茶苦茶な話って.....」
「私もよくシステムを知らないんだけど.....これは消費者金融からの借金じゃ無いって分かったんだよね。ホワイト闇金ってヤツかな。神楽はそれらを隠しながらアイドルになった。五百万の負の遺産を背負って、ね。今はそれは返しきったけど.....私に対しての嫌悪は消えなかったよ。何故、姉は家に気に入られているのか。ってね。そしてどうせ私を見下していると思っている様だ、彼女は」
と.....俯いて話した。
アイツは.....色々有ったし.....もう私と親には関わりたく無いだろうね、と悲しげな顔で苦笑した。
私よりアイツの方が優秀だったのに。
だから私も嫌だったから親は切り捨てたけどね、と目を逸らしながら話す。
俺達は.....眉を顰めた。
「.....ああ。すまない。暗くなったね。明るくいこうか」
「.....そうです.....ね?」
目の前を見ると。
何故か.....飯山が立っていた。
俺と糸玉、そして足利は愕然としながら見る。
そんな俺達の様子に?を浮かべて振り返る、鋼さんも驚きに目を丸くした。
「.....お姉ちゃん」
「.....な、何だ。神楽.....。何でこの場所に?」
ガタンと慌てる、鋼さん。
俺達も目を丸くしながら.....見つめる。
飯山は一歩一歩、歩み出す。
「.....私、お姉ちゃんに色々話が有って来た.....聞いてしまったんだけど.....今の話って本当なの」
「.....あ?.....あ、ああ」
「.....何で.....そんな事をしたの.....何で.....!?」
お姉ちゃんに迷惑を掛けないつもりだったのに.....だから。と涙を流す飯山。
糸玉と足利も複雑そうに顔を背けた。
俺は飯山に向く。
そして.....真っ直ぐ柔和に見据える。
「飯山。鋼さんは.....お前を愛しているんだ」
「.....え.....?」
俺は真っ直ぐに見据える。
飯山は.....目を彷徨わせる。
それって.....何で?と、だ。
頭を両手で抱えた。
「.....私は.....お姉ちゃんに嫌われているんじゃ.....」
すると次の瞬間。
鋼さんが勢い良く飯山を抱きしめた。
それから.....鋼さんは飯山の頭を撫でる。
そして.....涙声で言う。
「.....神楽。本当に会えて良かった。借金の事はどうでも良い。私はアンタが.....心から心配だった。愛していた。だから.....会いたかった.....!!!!!」
「.....お姉ちゃん.....」
「.....」
飯山は涙を流す。
本当にこの世界は生きる価値も無いクソッタレな世界かも知れない。
だけど.....例えそうでも。
この世界の全てがクソッタレな訳じゃ無い。
俺は.....そう思えた。
二人を見ながら.....一先ずは安堵の息を吐く。
そして.....笑みを浮かべた。
「.....とーくん。やっぱり君は.....ヒーローだよ」
「ですね」
「いやいや!?」
ヒーローって何だ!?どういう事だ。
俺は何もして無いだろ。
思いながら目を丸くする。
すると鋼さんと飯山が俺を見てきた。
「.....有難う。君達のお陰だ」
「東次郎くん。有難う」
「俺は何もして無いだろ。ハァ.....」
ただ、愛しているんだろうと言っただけだ。
すると.....飯山が俺をハグしてきた。
俺は驚愕して見開く。
ちょ、何だよ一体!?
「東次郎くん。もし良かったら付き合ってあげても良いよ」
「.....ハァ!?」
いや、何でそうなる。
痛い!視線が!
そして.....怖いんですけど。
俺は盛大に溜息を吐いた.....。
そして視線を躱す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます