九節、足利の世界
三十二、遠山の金さん、世界が色付いている事を知る
「でもそれは良いんだけど.....私を置いて遊んでいるんですね?.....ふーん.....いや.....良いんですけど私だけ働いている。いや、良いんですけど」
「.....お前を置いていた訳じゃ無いっての.....それにお前、用事有るって言ってたじゃねーか.....」
「.....いや、良いんですけど.....ふーん.....」
この女、別の意味で面倒臭い.....。
バイトがタイミングが良かったのか終わった飯山はひがみを言い放つ。
着ていたバイト着を外して私服になってジト目で俺を見ていた。
何で俺なんだよ.....。
そして何で皆んな目を逸らしてんだよ。
俺はどっちかと言えば巻き込まれ組なんだが。
しかしひっでぇなこれ。
俺だけが対応かよ。
糸玉、葉月。
「.....俺は自宅に引き篭りたかったんだぞ。糸玉と俺の妹がこの場所まで連れて来たんだ。俺は.....面倒だったけど」
「.....ああ。そうなんですね。分かりました」
潔く納得した飯山。
それから、でもその分かったのは良いんですけど.....と俺と糸玉とそして鈴を見る。
俺は?を浮かべて飯山を見た。
そして.....もし良かったら私も混ぜてほしいんですけど、と飯山はモジモジしながらゆっくり申し出る。
俺は目を丸くしつつ飯山を改めて見る。
するといち早く反応した。
鈴が、だ。
「.....何で貴方まで.....」
不愉快そうに眉を顰める鈴。
すると糸玉が、まあまあ、と説得した。
それから糸玉は飯山を見る。
そしてゆっくりと少しだけ口角を上げた。
「.....良いよ」
俺は言葉に更に目を丸くした。
柔和になったなコイツと思ってしまったのだ。
飯山は、え?良いの?、と驚く。
試しに言ったのに、と呟きながら、だ。
だが糸玉は初めから受け入れる気だった様だ。
反応がこう有った。
「.....アンタはそれなりに変わったから。.....だから良いよ」
飯山は.....少しだけ恥ずかしがりながら頬を掻く。
こうして飯山も付いて来る事になった。
ってか、良いけどこれってド○クエみたいだなオイ。
何でかってお前。
仲間になっていっているのが似ているだろ。
思いながら苦笑した。
すると葉月が手を叩いて喜んだ。
「わーい!いっぱい人が集まる!」
「良かったな。葉月。でも声が大きい」
「いっぱいですね。葉月ちゃん」
鈴に飯山か。
こうして.....遊び仲間が増えていく。
タラッタラー。
そんな効果音でも鳴りそうな勢いで、だ。
俺はデザートを待ちながら.....そう思う。
そうしていると奥の方からシェフの様な男性がニコニコしながらやって来た。
俺達は?を浮かべて見つめる。
そしてテーブルの前で立ち止まる、シェフの様な男。
「初めまして。僕はこのレストランのオーナーです。盾丸幸四郎(タテヤマコウシロウ)と申します。.....皆さん。あなた方のデザートの料金は要らないのでそれを伝えに来ました」
「.....え?シェフ.....どういう.....」
俺が反応するよりいち早く飯山が驚愕する。
するとシェフらしき男性は笑みを浮かべて俺達を流し見る。
そうして胸に手を当ててシェフは飯山の肩に手を添えて言葉を発した。
心を込めた様に、だ。
「飯山さんがこんなに仲間に恵まれているなんて思って無かったんです。だから嬉しくなったのも有るけど.....飯山さんの家庭の事情も知っているからいつか奢ろうと思っていたんです。だから.....今日こそそのタイミングが良いんじゃ無いかってです。飯山さんはバイト仲間の皆んなと仲良くなれない感じだったのも有って.....色々と心配しました。.....本当に安心しましたから」
述べてからシェフは飯山にウインクした。
まさかの展開だ。
シェフの言葉に目を丸くする飯山。
俺達も顔を見合わせる。
それから、でも別にこの人達は私を良くは思って無い.....、と困惑する。
だがその言葉に糸玉が飯山の手を握った。
驚く、飯山。
俺は?を浮かべて糸玉を見る。
そして糸玉はそのシェフに言葉を発する。
「.....飯山さんは真面目です。だから.....うん。.....好きで仲間なんです」
「え.....糸玉ちゃん!?」
シェフは見開いて驚いた顔をした。
それから.....飯山を見る。
心の底から安心した、という様な顔をするシェフ。
目をパチクリしている飯山に声を掛ける。
「良い人達だね。飯山さん。仲間を大切にね。.....じゃあ僕は仕事に戻るから」
「.....」
飯山の目が潤んでいる様に見えた。
俺は.....その姿を見ながらゆっくり笑みを浮かべる。
飯山は俺達を確認しながら.....俯いた。
変わり始めたな、世界が、だ。
「.....本当に.....有難う。糸玉ちゃん。皆んな」
そう呟いて飯山は少しだけ笑みを浮かべた。
その笑顔に俺は柔和になる。
皆んなも、だ。
鈴は渋々ながら納得している。
「じゃあデザート食べたらどう動こうか」
「そうだね」
「ですね」
そう会話する皆んな。
糸玉、鈴、俺、友美ちゃん、葉月、飯山。
初めて.....何だか俺は心地が良い感じがした。
まさに世界が色付いた気がする。
俺は、ったく、と呟いた。
そして笑みを浮かべる。
水族館は嫌だったけどこんなに面白いなら外に出るのも悪く無いかな、と思った。
俺も静かに会話に加わる。
自然と.....何だか空の窓から見える日差しが俺達を照らしている気がした。
飯山も嬉しそうだからな。
☆
水族館を満喫した俺達は外に出た。
そして.....歩く。
これからどう行くかとなったがそれは.....取り敢えず買い物に行こうとなった。
この街にはデパートがあるのだ。
そこに行く。
「お金を使いすぎるなよ。お前ら」
「はーい」
「分かってます」
まあ、とは言え俺もだけど。
思いながら歩く。
アスファルトを噛み締める様に、だ。
背後では鈴と糸玉、そして飯山が付いて来る。
飯山が駆け寄って来た。
「.....ところで.....エロ本が有るそうですね?東次郎くんの部屋に。聞きましたよ」
「.....それもう良い加減にして.....ってか!鈴!お前か!!!!!」
「だって変態ですもの」
眉を顰めている鈴。
何が変態ですもの、だよ!
いつまで根に持ってんだよ!?
思いながら.....盛大に溜息を吐きまくった。
もう勘弁してくれよマジで。
「お兄ちゃん.....」
「.....」
再びドン引きしている葉月と友美ちゃん。
顔を赤くしている。
俺は鈴の頬を引っ張った。
鈴は何をするんですか!!!!!変態!!!!!と俺をぶっ叩く。
痛みに悶えながらの、そんなこんなをしていると.....俺達はデパートにかなり早く来てしまった。
ジト目で俺を見る女性陣。
いやこの原因、俺のせいかよ、違うよな?
「この場所ですね」
「ですね」
老舗デパート、ソド、だ。
所謂、砂時計の形のマークが目印の、だ。
俺はぶっ叩かれた頭を触りながら見上げる。
「じゃあとりま行くか」
「はい。変態」
「行きましょうかグラビアオタク」
「.....」
通行人がドン引きしているっての飯山、鈴。
思春期の男の子なんだから.....と説得している糸玉だけが救いだな。
思いながら.....頭に手を添えた。
デパートだから浮かれる気がするけど.....気分が真っ逆さまだな.....マジに。
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