三十、遠山の金さん、アシカと一緒に漢字の、虹、を書く

葉月、友美ちゃん、糸玉、俺。

その四人で俺の街から五駅先の水族館までやって来た。

とても綺麗な水族館だ。


そんな水族館のイルカショー。

俺は.....そのイルカショーの場所で頬にキスされた。

俺は赤面しながらのイルカショー観覧となったが.....。

何をするんだ。


「面白かったね」


「.....それなりには面白かった」


「もー。それなりって何?女の子が言っているんだよ?とーくん」


いや。

キスのせいで頭に何も入って来なかったんだぞ。

勘弁してくれ。

童貞には相当にキツい仕打ちだぞ。

思いながら.....前を見た。


「次、何処行く?」


「.....アシカのショーも有るらしいが」


「じゃあそれ行く?別会場みたいだけど」


「.....任せる」


そして歩き出すと。

何だか背後に何か人の気配を感じた。

俺は背後を見る。

しかし人混みで何も見えなかった。

何だ今の視線は。


「.....葉月かな.....」


思いつつ。

俺は葉月にメッセージを送る。

するとガラケーからメッセージが直ぐに来た。

写真混じりに、だ。

そこには楽しそうな葉月と友美ちゃんが写っている。


「.....そいつは結構だ」


「.....楽しそうだね。あはは」


でもこの場所.....結構離れているな。

じゃあ今の視線は葉月じゃ無いって事か。

何だ今の視線.....。

思いながらも考えるのも怠かったので.....まあ良いか。

そのうち分かるだろと思い気にするのを止めた。


「アシカショーに行くか」


「うん。じゃあ行こうか」


そうしていると糸玉の足が止まった。

そして俺をジッと見て来る。

俺は?を浮かべて、どうした、と聞く。

すると、腕を組んでも良いかな?、と笑顔で俺に言ってきた。


「.....いや.....それは.....」


「嫌?」


「.....もう勝手にしてくれ.....」


やった。

じゃあ失礼して、と糸玉が俺の腕に腕を絡ませてきた。

そしてニコニコする、糸玉。


俺は盛大に溜息を吐きながら.....歩き出した。

周りの男どもが、死ねや、的な目線を向けてくるのを感じながら、だ。

裏山死ね的な視線も感じた。

お前ら.....誤解かも知れないが俺達は付き合って無いんだが。

と否定の言葉を思いながら歩いてアシカショーの会場まで向かった。



「アシカ可愛いね!」


「.....そうだな」


目の前でアシカがヒレ?だっけか。

それを使って習字をしている。

俺はそれをボーッと見ながら.....さっきの事を考えた。


さっきの事ってのはつまり.....イルカショーの時の何かを思い出せそうな、あれ、だが.....何だろうか。

思い出せそうで思い出せない。

モヤがかかっている。


「アシカちゃん、絆って書いたよ!」


「.....だな。あんな難しい字をよく書けるもんだ」


「だね!」


ニコッとする、糸玉。

俺は.....その顔を見ながら少しだけ笑みを浮かべた。

まあ思い出せた時で良いか。

この頭の記憶は。

そうしていると飼育員のお姉さんがマイクで叫んだ。


『さー!アシカちゃんのコッコちゃんと一緒に習字を書いてくれる人は誰かなー!?』


と、だ。

この会場には三十人ぐらい居る。

誰が選ばれるんだろうと思っていると。

突然、糸玉が俺の手を握って挙げた。

はい、と、だ。


「お、お前!?!?!何をしているんだ!」


「とーくんが活躍する姿見たいんだもん」


「アホかお前!手を離せ!」


だが時は既に遅し。

飼育員さんがじゃあそこの男の子で!

と俺を指名した。

勘弁してくれよ!?

すると糸玉が、良いじゃん!、と満面の笑顔を見せた。


「分かったよ!やれば良いんだろ!」


なんてこった.....。

こんな目立つ筈じゃなかったのに。

俺は盛大に溜息を再び吐きながら歩く。


そして下まで降りた。

アシカが目の前で拍手している。

飼育員の人も、会場も、だ。

よく見ると糸玉は撮影していた。

あの野郎は俺のママンか?


『では!お名前をお願いします!』


『えっと.....ジョン・スミスです.....』


『.....え!?』


名無しという意味だが。

涼宮ハ○ヒで使われていたあれだ。

ズルッと会場がズッコけた。


特に糸玉が、何を言っているの!、的な顔をしている。

飼育員さんも苦笑している。

だけど本名を名乗るほどの者では無いしな俺は。


『えっと.....その.....じゃあジョン・スミスさん!.....コッコちゃんと一緒に何を書きますか!』


『そうですね.....ジョンスミスは取り敢えず.....』


そこまで話した時、いきなり風が吹いた。

そしてその風を一瞬だけ感じた俺の頭に.....何かが過ぎる。

それは.....漢字の.....虹、という言葉が、だ。

俺は見開きながらも.....それで良いか、と思った。


『.....じゃあ、虹、という漢字を書きましょう』


『漢字の、虹、というご指名ですね!』


糸玉の下の名前の虹。

俺は上の方の糸玉を見つめる。

そんな糸玉は驚愕していた。


何故にその言葉なのか、と、だ。

そうだな.....何故だろう。

俺は.....虹という漢字を.....さっきの風で書きたくなったのだ。


『じゃあコッコちゃん。この子と一緒に、虹、を書きましょう!』


飼育員さんが満面の笑顔でコッコちゃんに墨の付いた筆を渡す。

オウオウ!とコッコが元気に反応する。

俺はそれを苦笑しながら見つつ。

飼育員から習字の墨の付いた筆を渡されたのでそれを持ち。

そして目の前に用意された習字の紙に、虹、と書いた。


何故俺は.....この時に虹と書きたかったのはそれは分からない。

だけど.....虹と書かずには居られなかった。

俺は虹と黒い墨汁で書きながら.....コッコちゃんと共にそれを糸玉に見せる。


糸玉は.....少しだけ涙を浮かべていた。

その背後には.....空に虹が掛かっている様に見える。

俺は少しだけ笑みを浮かべた。

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