八節、春休み、水族館へ

二十八、遠山の金さん、水族館に行く

長谷川の騒動から約一週間が経過し素晴らしい春休みに突入した。

何とも素晴らしい春休み。

何故素晴らしいかって?簡単だ。

俺は誰とも会う必要が無くなり、家に引き篭もれるからだ。

つまり引き篭もりをやっても文句が出ない。


こんな素晴らしい話は他に無い。

ゲームをしようか。

ラノベを読もう。

それともアニメ三昧?

ああなんと素晴らしい。


学校が休みになっての日曜日、午前九時。

そこまで寝ても誰も文句を言わない。

学校に行く必要も無い。

素晴らしい.....まさにスパシーバ!!!!!

俺は直ぐに自室でパジャマのまま、ラノベを見た。


「さて.....今日はラノベで時間を潰すとするか.....」


その様に考えていると。

俺の部屋のドアが思いっきりにノックされた。

それも物凄い音で、だ。

まるで拳でぶっ叩く様な、そんな。


ドンドンドン!!!!!


「!!!!?」


俺は驚愕にラノベを落とす。

何だよ一体!?

思っていると声がした。

葉月の声だ。


「お兄ちゃん!お外出るよ!皆んなに会いに行くよ!!!!!」


絶叫。

いや、ちょ、何でだよ。

俺は引きこもりたい。

この世界から逃げたいのに.....。

思いつつ葉月に溜息混じりに返事をした。


「.....お前一人で行ってくれ。俺は.....」


バァン!!!!!


「お兄ちゃん!引き篭もりは駄目!!!!!」


「入って来るなよ!」


いきなり押し掛けてくんな!

友美ちゃんも一緒じゃ無いか!

そんな友美ちゃんは、あらあら、と苦笑している。

葉月は大音量で俺に話し掛ける。


「お兄ちゃん!みんなと遊びたい!!!!!」


このクソガキ。

思いながらラノベを拾いつつ眉を顰める。

そして同じ様に絶叫した。


「アホンダラ!俺は絶対に外に出ないぞ!!!!!」


「いーやーだーっ!!!!!」


このクソガキ!

思いながら.....床で暴れる葉月を見る。

パンツが見えるっての.....。

この野郎.....。


「俺は絶対に外に出ない。なんで春休みまであいつらに会わないといけない」


そうしているとスックと葉月が泣き止み、立ち上がった。

そしてボソッと俺に告げる。

俺は?を浮かべて見る。


「お兄ちゃん。.....エロ本」


「.....」


「.....エロ本有るって言うから。葉月、恥ずかしかったんだから。見つけた時」


小学生があれを読むか。

グラビアアイドルの胸が大きいエロ雑誌。

.....ってか見つけたのかよ!

床下に隠していたのに!!!


「エロ本.....」


見ろ!友美ちゃんがドン引きしている!

このクソガキッ!

葉月を見ると俺のスマホで電話を掛けていた。


その電話ナンバーは.....糸玉だった。

俺は驚愕して青ざめながら、止めろ!葉月!、と叫んだ。

葉月はニコッとした。


「じゃあ一緒に表に出てくれる?」


「.....お前.....絶対の絶対に将来、性悪女になるぞ.....」


「お兄ちゃんが好きだから大丈夫」


「.....意味が分からない.....」


本当に意味不明。

しかし.....それはそうと何で俺はこんな目に遭っているのか。

思いながら.....じゃあ今から着替えるから.....と落胆の声で誘導した。

クソッタレ、俺のせっかくの春休み最初の日曜日が.....。

潰された.....。



「で?葉月ちゃんから聞いたけど.....あの部屋ってエロ本が有るんだね?とーくん.....?」


葉月の裏切り者。

どうも電話番号のダイヤルが葉月によって既にプッシュされていたらしく。

全ての音が筒抜けだった様だ。


俺は.....駅前というのに正座をさせられ。

しかるべき対応を受けていた。

背後にあわあわする葉月と友美ちゃんが立っていながら、だ。


「もう。良い加減にしないと駄目だよ。ね.....?」


「.....怖いんだが。糸玉」


「.....怖くて当たり前だよね?ね?」


「.....」


俺って何でこんな目に.....。

思いながら.....立ち上がった。

で?今日は何処に行くんだ。

と葉月と糸玉に向く。

二人は顔を見合わせてニヤニヤした。


「ふっふっふ。.....それはねー.....水族館!」


「.....つまらなさそうじゃねーか.....」


「あ!言ったね!.....女の子を泣かせる気?」


「.....ハァ.....」


何で水族館に折角の日曜日に行かなくちゃいけない。

俺は盛大に溜息を吐きながら.....糸玉を見る。

糸玉は.....駄目?という感じで見ていた。

葉月も、だ。

潤んだ目で俺を見ている。


「.....お前ら.....絶対に性悪になるからな。そのうち」


「やった!」


「やったね。葉月ちゃん」


コイツらは絶対の絶対に性悪になる。

俺が保証する。

もうこうなったら仕方が無い。

俺は額に手を添えて思いながら友美ちゃんを見る。

友美ちゃんは嬉しそうな感じだった。


「.....大丈夫か。ホームステイとか楽しいか」


「.....はい。お兄が守ってくれています。感謝です。楽しいですよ」


「.....そいつは結構だ。良かったよ」


「.....この度は感謝しています」


言葉に目を丸くする、俺。

それは俺じゃ無くて葉月に言ってやってくれな。

そう真正面を互いに見ながら小声でゆっくり会話していると、お兄ちゃん!ゆうちゃん!早く!

と大声で葉月が呼ぶ声がした。


いや、何処の水族館に行くつもりだよ。

電車乗り場まで走っているし。

その、電車使うとか.....。

この近所にも有るだろ水族館.....。

思いながら俺は盛大に溜息を再び吐いた。

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