七節、衝撃の事態に巻き込まれる遠山の金さん

二十六、遠山の金さん、長谷川に頼まれる

俺のクラスメイトに長谷川というサッカー部の副主将が居る。

色々な事がきっかけでリア充のランク最下位のボッチの俺と知り合いになった。

本来なら交わる筈の無い上位カーストの人間なのに長谷川は俺によく声を掛けてくれる様になったのだ。

俺はウザいと思いながらもそれなりに対応した日々を送っていた。


リア充の上位中の上位である長谷川。

友人も居て、学内を爽やかに導く様な人間で有る。

学校生活も謳歌し成績優秀。

彼女が出来てもおかしく無い面をしている。

それぐらいにイケメンなのだ。


ねじ曲がっている俺とは真逆の存在と言える。

長谷川の事はリア充の上位カーストに存在しているという事もありそんなに知りたくも無かったが。

それなりに助けられたりしている為。

長谷川の事にそれ相応に興味が湧いた。


長谷川は常に何故あんなにニコニコしているのか。

若干分かった気がした。

家の事も有ってあんな感じなのでは無いかと思う。

複雑な家庭環境の様だ。

金持ちだとは思えたが.....だ。


「.....」


リビングで顎に手を添えてみる。

そして考えてみた。

長谷川.....が学校に来れば良いのだが。

平然と、だ。

そうしていると葉月が俺に声を掛けてきた。


「何しているの?お兄ちゃん」


「.....ああ。いや、今日の事を考えていたんだ。気になってな」


「.....そうなんだ」


ふふっと嬉しそうに俺を見つめる葉月。

それから.....笑みを浮かべた。

隣に腰掛ける、葉月。

俺は?を浮かべて、何でそんなに嬉しそうなんだ、と聞く。


「.....だってお兄ちゃんが人の為に考えている姿ってなんだか新鮮だから」


「.....俺が?そうか?」


「そうだよ。お兄ちゃんは.....昔の事も有るしね」


「.....確かにな」


昔か.....と、ふと考える。

そういや確かに昔は今より捻くれていて。

そして.....他人の為に動こうとは思って無かったな。

俺は.....陰口を言われていたしな。


「.....葉月とかのお陰だよ。ここまで色々と考えているのはな」


「.....え?そうなの?」


「.....そうだよ。俺は.....昔から成長の糧にしたのはお前らの姿だったからな」


俺は葉月の髪の毛を撫でる。

それから思いっきりグシャグシャにした。

キャー、とはしゃぐ葉月。

俺は.....そんな葉月に聞いてみた。


「友美ちゃんが心配か」


「.....!.....うん。とっても心配」


「.....だろうな」


あの様子だとどうなるか分かったもんじゃ無い。

俺も長谷川が少しだけ心配だ。

だけどあの長谷川の事だからやって除けるかも知れないが。


思いながら.....溜息を吐く。

さて.....どうしたものか、と思いながら。

と言えど、俺たちがどうにか出来る問題を超えている。

だから待つしかできないとは思う。


「.....お兄ちゃん。友美ちゃん、戻って来るよね?」


「.....そう願うしかないな。俺達にどうにか出来るとは思えない」


「.....うん.....」


葉月が俺の肩に頭をコツンと打つけてきた。

俺はそれを一瞥してから前を見る。

窓からの夕暮れの景色を見た。

長谷川が明日来れば良いんだが.....と思いながら、だ。



月曜日になった。

糸玉、足利、飯山には何があったか説明して有る。

その月曜日だったが.....ほぼ学校を休まない長谷川は居なかった。


リア充に俺が聞くわけにもいかず。

やはりか、と一人で俺は頬杖をつきながら思っていた。

糸玉が代わりに聞いてくれては居るが.....誰も長谷川を見てない様で有る。


「.....長谷川くんの姿.....誰も見てないって。みんな不安がってる」


「.....これは最悪の状態を想像しないといけないかも知れない」


「.....最悪の事態って.....」


「.....つまりは.....長谷川はもう学校に来ないかも知れない.....んだ」


え.....と愕然とする、糸玉。

だってそうだろ。

あの様な状況だったしな.....と思いながら複雑な顔をする。

取り敢えず.....今、俺達は待つという事をするしかないだろうな。

周りには知らせるつもりは無いが.....。


「.....長谷川くん.....」


「.....悩んでも仕方が無い。今は出来る事をやるしかない」


「.....だね」


そしてチャイムが鳴った。

長谷川を待たずに授業は今日も始まる。

少しだけ.....不安定なクラスで、だ。


俺は.....外を見た。

特に意味は無いが.....何で外を見たんだろうな俺は。

長谷川に期待でもしているのだろうか.....。



俺自体は長谷川にこれといって思い入れがある訳では無い。

だけど何だろうか。

本来なら居るべき人間が居ない。

この何とも言えない歯痒さはなんだろうな。


「.....結局.....昼になっても来ないね」


「.....だね」


「.....」


昼飯どき。

教室で俺は二人に弁当箱を渡された。

それでちょっと唖然としているのだが。

しかし.....弁当二つか.....。


「これは全部食えない時はどうなるんだ」


「罰ゲームだよ」


「.....オイ.....」


糸玉がニコッと笑みを浮かべる。

罰ゲームって何だ。

人の胃袋を考えて作れよな。

思いながら.....飯を食う。


今日は風が強いので教室で食っているのだが.....こんなに食えるのか?俺は。

二段弁当が二つって。

厳しくね?と思っていると。

長谷川が顔を見せた。


「長谷川!」


「長谷川くん!」


直ぐにリア充共が反応する。

俺を心底から嫌っている連中が、だ。

長谷川は苦笑しながら対応しつつ。


俺を見てきた。

そして俺の元へやって来る。

俺は?を浮かべて見る。

長谷川は頭を下げた。


「やあ。この前はごめんな。突然に帰ってしまって」


「別に構わない。人には都合ってもんが有るだろうし」


「.....はは。それはそうだな」


すると少しだけ長谷川は複雑な顔をした。

それからもう一度頭を下げてくる、長谷川。

俺と糸玉と飯山は顔を見合わせる。

何だ一体。


「君にお願いが有る。遠山。.....いや。.....東次郎」


「.....お前に東次郎と呼ばれる筋合いは無いんだが.....」


「.....そう言うな。俺の事も長谷川、王(オウ)と呼んでくれ」


「.....いやいや呼ばないし.....そもそもお前.....下の名前、そんな名前だったのか.....」


そうだな。

王ってのは.....簡単に言うと知能優秀という意味で付けられたんだけどな。

だけど俺は.....有能じゃ無いけどな、と自嘲する長谷川。

俺は溜息混じりに見つめる。

それから、話って何だよ、と、だ。


「.....ああ、すまないな。.....話って言うのはな.....暫く友美を君の家で預かってくれないか」


「.....え?は!?それは.....どういう.....」


「.....勿論、その間の生活費の金銭面は全て俺が出す。すまないけど.....受けてくれないか」


俺としては頼れるのはお前しか居ないんだ。

と頭を下げる、王。

何が有ったの?と王に糸玉が訝しげに聞く。

すると王は、訳は言えないが取り敢えず頼みたい、と俺に向いた。


「.....いや.....お前、他にも頼る人はいっぱい居るだろ」


「その中でも君が一番、良いと思ったんだ。.....君の元には葉月ちゃんも居るしな。.....頼むよ」


ニコッとお願いな感じのイケメンスマイル。

必死の頼みの様に見えた。

俺は.....顎に手を添えて考える。

それから回答を言った。


「.....俺の母親と父親が納得しないと無理だぞお前。.....そんな滅茶苦茶な事と色々と」


「.....分かってる。でも.....有難うな。受けてくれるんだな」


「.....」


俺は眉を顰めて少しだけ複雑にニコニコしている王を見る。

王は、感謝している、と呟いた。

しかし.....こんな事を頼んでくるとはな。

俺は.....思いながら王を目線だけ動かしてもう一度見た。

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