六節、それぞれの花束

二十一、遠山の金さん、発達障害を考える

一歩ずつ前に。

飯山はそんな感じで前に進もうとしている。

俺は少しだけふっと思い出しながら。

飯山の家から帰って来て夜、勉強をする。


そう言えば.....昔を思い出した。

中学校時代に裏切られまくったあの日々を.....だ。

本当に.....絶望しか無かったあの日を。

俺は思いながら首を振る。


「.....思い出してどうするんだ。あんな記憶」


学力試験が有る。

それの方が大切だ。

思いながら俺は必死に勉強をする。

するとノックが聞こえた。

俺は?を浮かべて背後の扉を見る。


「はい?」


「お兄ちゃん。私だよ」


「.....葉月か?どうした」


「うん」


そして扉が開く。

葉月は笑みを浮かべて俺を見ている。

それからベッドに腰掛けた。

俺は少しだけ葉月に対して口角を上げつつ見る。


「.....お兄ちゃん。最近変わったなって思って」


「.....俺がか?俺は捻くれたままだけどな」


「いいや。変わったよ。私にも周りにも.....糸玉さんの影響?」


「.....アホか。無い」


お兄ちゃんは何だか殻に籠もった感じだった。

だけど今はお兄ちゃんが輝いて見える。

と葉月は、にしし、と満面の笑顔を見せた。

俺は、そんなもんかね、と呟く。


「糸玉さんの事、好きなの?お兄ちゃん」


「.....無い。アイツは俺が好きだって言うけどな」


「.....そうなのぉ?怪しいー」


「そんな事言うとこしょこしょするぞお前」


きゃー!と逃げ回る、葉月。

それを捕まえながら、オラオラー!、と遊ぶ。

そういや、言い忘れていた。


葉月は.....発達障害が有るのだ。

どういう発達障害かって?

そうだな、自閉症スペクトラムだ。

知能が若干に幼いのだ。

それ以外にも有るが。


「ね、お兄ちゃん」


「.....なんだ。葉月」


「今度、遊びに行かない?何処かに」


「.....俺は外に出るのは嫌なんだが.....」


もー!卑屈過ぎる!

と頬を膨らませる、葉月。

いや、俺は元はボッチなんだぞ。

外に出たく無いの当たり前だろうよ。

全くな.....と思う。


「葉月。一緒にどっか行きたいのは山々だ。だけど.....俺な、テストが有るんだ」


「あ、それはいけないね。じゃあ延期だね」


「.....でもお前がどっか行きたいなら.....終わってから行こうか」


「え?良いの?」


良いよ、別に。

それぐらいは構わない、と俺は溜息混じりに話す。

葉月は、ワーイ、と体で大喜びを表現した。

俺はそれを見ながら.....笑みを零す。


「.....お前が.....本当に俺の妹で良かった」


「.....今更だね。お兄ちゃん」


「.....本当だぞ?お前が.....妹だったから俺は生きていけるんだ。支えになっているんだ」


「.....そうなんだ。.....有難う。お兄ちゃん」


俺は口角を少しだけ上げた。

葉月も俺の横で、ニヒヒ、と笑みを見せる。

となると.....予定を組まないと。

そう思いながら.....外を見た。


「.....テスト終わった後の日曜でも出るか」


「そうだね。お兄ちゃん」


葉月は言いながら笑顔を見せた。

発達障害ながらの悩みがコイツには有る。

それは周りについていけないという.....事。


俺は葉月の人生を俺の二の舞にしない様に頑張っている。

中学校で.....虐められた俺の様になって欲しく無い為に、だ。

その為に葉月に何時も言っている事が有る。


「葉月。友達をたくさん作れよ」


「分かってるよ。お兄ちゃん。私、友達沢山作るからね」


裏切りも有るかも知れない。

だけど.....友達は何よりも大きな存在になる。

だから友達を作れと何時も言っているのだ。

俺は.....分かっているなら大丈夫だな、と話す。


「葉月ね、お兄ちゃんが好き」


「.....そうか。俺もお前は嫌いじゃ無い」


「.....でも今のお兄ちゃんの方がもっと好き。昔より」


「.....」


何かが変わったと言う。

周りも葉月も家族も、だ。

だけど.....俺は変わった実感が無い。

でも変わったと言う。


俺は.....何が変わったのだろうか.....。

思いながら時計を見る。

時間が時間だ。


「葉月。今日はもう遅い。寝ろ」


「うん。分かった」


そしてピョンと効果音でも鳴りそうな感じでベッドから飛び降りる。

それから、じゃあね御休みなさいお兄ちゃん、と手を振る。

俺はそれを見ながら手を振った。

さて、明日から忙しくなるな。

その様に思いながら.....俺は伸びをした。



「起きて」


「.....」


「起きて。東次郎くん」


「.....!?」


東次郎と言う言葉に反応して。

体が起き上がった。

と言うか.....朝の様だがと思いながら目の前を見る。

そこに何故か.....飯山が居た。

コイツ!?


「何でお前が居るんだ!?」


「居たら悪い?」


「.....いや.....ってか、お前、東次郎って.....」


「うん。東次郎くんって呼ぶね。今度から」


歯を見せながら笑う、飯山。

コイツという奴は.....って言うか今日は糸玉とか足利が居ないのだろうか。

思いながら.....まぁ良いか、と頭を掻く。

それから起き上がった。


「.....分かった。今日から協力する。着替えるから出てくれないか」


「はいはーい」


「.....」


すると飯山は踵を返した。

それから俺を見てくる。

そして笑みを浮かべながら下を指差した。


「ご飯作ったから.....食べてねぇ」


「お前らってマジに俺の奥さんか何か?」


は?え?とキョトンとする、飯山。

何でも無い、と俺は否定の言葉を発する。

最近はこんなんばっかだな.....。


思いながらも悪い気はしない様な気がした。

そして制服に着替えて通学鞄を持ってリビングに行く。

今日からまた忙しくなるな、と思いながら、だ。


後に知ったが.....変わりばんこの当番制になったという。

俺を起こすのと料理を作るのが、だ。

知らない間にとんでもないことになっているな。

思いつつ俺は.....盛大に溜息を吐いた。

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