十五、遠山の金さん、病院に運ばれる

俺は.....何かを夢見ていた。

その夢とは、少女が俺の手を引いて.....そして桜の木の下に行く夢。

綺麗な桜が咲き誇っている。

俺は.....満開の桜を見てから少女に向いていた。


少女の顔にはモヤがかかっている。

その為に少女に名前を聞くが少女は笑顔だけで答えなかった。

その姿はまるで.....物語。

絵本を映像にした様な感じだった。


そんな静かな美しい夢から覚めると俺は病院に居た。

近所の総合病院だったが。

横を見ると.....糸玉が涙を流して縋っていて。


そして.....長谷川が心配げに立っていた。

それから最後に悲しげな顔をしている足利も居て。

つまり俺の知っている様な奴らが俺を見守って居る。

見舞いにきたという事だろうけど.....俺は何故この場所に居るのか。

記憶が無いんだが。


俺は頭に手を添えて起き上がる。

マジに何が有ったんだっけか.....?

病院に入院しているとは相当なもんだけど、と思いながら居ると。

長谷川が苦笑い気味で話した。


「君は危なっかしいな。遠山」


その言葉を受けてハッと思い出した。

閃光が頭の中に輝く様に、だ。

俺は.....足利を見る。


足利も泣いて俺を見ていた。

ごめんなさい先輩、と言いながら、だ。

顔が涙の跡だらけだが.....あの後はどうなったんだ?

徐々に思い出してきたが.....。


「.....長谷川。お前が救ったのか。.....足利とか。お前の声がした気がする」


「そうだな。俺だよ。.....それなりに強いからな。喧嘩には負けはしないけど.....まあでも、ほら」


と苦笑しつつ顔に貼られたテープで貼られたガーゼを指し示す。

腕も傷を負っている。

俺はビックリしながら、マジか、と思いつつ唇を噛んだ。

傷を負ってしまったのか.....俺のせいで。

思っていると.....糸玉が俺に嗚咽を漏らす様な言葉を発した。


「軽く脳震盪起こしていたみたいだから.....どうなるかと.....!」


「.....」


知らず知らずだと思う。

俺は全員に心配を掛けてしまった様だ。

気絶するとか情けないな.....と思う。


横から差し込む太陽の光を感じるが.....夕方の様だった。

何時間気絶していたんだ俺は。

俺は盛大に溜息を吐きながら.....長谷川を見る。


「すまなかった」


「.....大丈夫だよ。俺が勝手に動いただけだからな」


「でもお前にも手傷を追わせてしまったのは申し訳無い。謝る。お前の場合、選手生命とか有るだろ。体とかに。俺は良いけど」


「俺は良い、か。まあ良くは無いな。ハハハ。.....それにしても.....君は本当に優しいな」


いや、優しいとかじゃ無い。

選手生命とか命綱だろ。

一回切れたら終わりだし。

それにその命綱がズレてもその時点で大変だ。

本当に困ったもんだ。


思いつつ居ると、医者が看護師と共に入って来た。

中年の眼鏡の医者だ。

俺を見ながら.....お。元気そうだね、と優しく笑む。


「.....えっと、遠山くんだね。君は明日には退院出来るよ。男に殴られたみたいだけど.....打ち所は悪く無いからね」


「.....すいません。ご迷惑をお掛けしました」


「大丈夫だからね。ご家族にも連絡が入っている。後で来るからね」


「.....はい」


それから、じゃあ、と手を挙げて医者は去った。

そして長谷川も、じゃあ俺達も行こうか皆んな、と言う。

俺は.....長谷川を見て、頭を下げた。

すると長谷川はニコッと笑みをながら俺を見た。


「.....でも遠山。.....お前は本当に.....」


そこまで言い掛けて長谷川は首を振る。

俺は?を浮かべて.....見つめる。

だが長谷川はそれ以上は何も語らなかった。


それから、じゃあな、と長谷川は去って行く。

同時に立ち上がった足利が申し訳無いと言う感じの面持ちで俺を見てくる。

そして涙を流した。


「先輩。また来ます。本当にごめんなさい。私のせいで.....」


「.....お前が無事ならそれで良い。俺はその為に飛び出したんだから」


「.....先輩。やっぱり貴方は.....ヒーローですね」


「.....俺はヒーローじゃねーよ」


ヒーローってのはこんな無様じゃ無い。

苦笑しながら足利を見送る。

そして.....最後に糸玉が涙を拭つつ。

俺を心配げに見てきた。


「.....もう無理はしないで。お願い」


「.....俺だって無理はしたく無いけどな。あの時は.....血が上ったから。ブチ切れたしな。久々に」


だから仕方が無いんだ。

と糸玉を見る。

糸玉は.....分かるけど.....と俺を見てくる。

そして俺の手を握った。


「.....心配になるから」


「.....」


今日はゆっくり休んでね、お願い。

と糸玉は言い残して去って行く。

俺を心配げに見ながら、だ。

先に行った足利の様な感じで、だ。

俺は.....手を振る。


「.....」


あんだけの怒りのボルテージが上がったのは久々だな。

考えつつ外を見る。

すると家族が心配げにやって来た。

俺は家族に謝りながら.....泣いている葉月に謝りながら。


夜を迎えた。

その日は何だか知らないけどよく寝れた。

夢も無しに目が覚めるぐらいに、だ。

疲れていたんだなって思った。



「一日入院しただけで.....何だか久々だ。家が」


月曜日だが.....俺は念の為にと休みをとった。

その家の中で呟く。

包帯の頭を触りながら家の中を見渡した。

足利と糸玉と長谷川が放課後に見舞いに来るという。

来る必要は無いと言ったのだが.....聞かなかった。


「.....」


しかし.....それにしても暇だ。

勉強でもするかと思いながら勉強道具を用意して勉強を始める。

そして直ぐに.....手が止まった。

昨日の.....足利の言葉を思い出した為、だ。


『貴方はきっと、糸玉先輩が気になるんです』


「.....まさかな。.....俺が糸玉を?それは無いな」


でもアイツは.....俺を振り向かせると笑顔で話した。

俺は.....少しだけ息を吐きながら.....天井を見上げる。

全く困ったもんだな.....集中が出来ない。

糸玉のせいで、だ。


「糸玉.....虹、か.....」


そうしていると.....メッセージがスマホに入った。

俺は?を浮かべて.....何だ?とメッセージを読んでみる。

そこには.....糸玉鈴。

つまり.....糸玉の妹からメッセージが入っていた。


一応、鈴とはメルアドは交換していたのだが.....実際にメッセージをくれるとは思って無かった為に驚愕だ。

俺は驚きながら.....直ぐにシャーペンを置いて読んでみる。


(お姉ちゃんを心配させるの止めて下さい)


「.....ああ.....成る程」


俺は頭を掻く。

そしてキーボードを打ってメッセージを送った。

反省文を、だ。


(すまん。俺のせいだな。今回の事件とかは)


(.....そんなに簡単に反省されると何も言えないのですが)


(.....そうか)


(.....お姉ちゃんは心底、貴方を心配していました。好きな相手として失格だと思います)


そりゃそうだな、ごもっともです。

こんなボッコボコにされる彼氏は心配されて当たり前ですよね。

盛大に溜息を吐きながら.....外を見てからお茶を飲む。

コップに入れたお茶を、だ。

それからメッセージを考えて送る。


(.....鈴。すまない。俺のミスだ。独断で動いて.....こんな結果になった。反省している。心から、だ)


(.....いえその.....そんなに直球で言われると何も言えないのですが.....)


(俺が反省の言葉を述べたら駄目なんか)


(いえ。.....反省したなら良いです。それでは私、授業に戻りますから)


それでは失礼します。

と鈴はメッセージを閉じた様だ。

それ以降、メッセージを送っても返事は無かったから、だ。


つーか、なんやかんやでコイツも俺を心配しているのか?

そう思える様な.....感じだった。

俺は少しだけ苦笑する。

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