六、遠山の金さん、過去を語る

糸玉の妹、糸玉鈴(イトダマスズ)。

俺は警戒心を俺に向けて思いっきりにぶち撒けている鈴を見ながら.....飯を食う。

何だってこんな事になっているのやら。


父さんは早めの出勤の為に居ない中。

俺と母さんと糸玉鈴、そして糸玉が飯を食べる。

つうかこの飯、美味いな。

糸玉が作ったんならかなり上手だ。


「.....お前、本当に何でも出来るんだな」


「それは君の為に頑張ったからね」


これでも私、東次郎くんのお嫁さんになる為に色々と頑張ったからね。

と胸を張る糸玉。

相変わらず小っ恥ずかしい事を.....。

俺は思いながら.....額に手を添えつつ見る。

そんな感じで居ると。


「認めないです!!!!!」


と俺にビシッと指を差して大声を発した。

俺は!?を浮かべながら糸玉鈴を見る。

糸玉鈴はこんな兵六玉に.....私のお姉ちゃんが恋をしているなんて.....!

と言いながら.....ってオイ。

兵六玉って何だコラ。


「鈴。そんな言い方無いよ」


「無いって.....お姉ちゃん!お姉ちゃんの記憶が無いのに.....その男!やっぱり許せない!」


「鈴!!!!!」


糸玉が珍しくバンとテーブルを叩いて怒った。

母さんが驚いて見つめる。

俺も目をパチクリしながら見た。

糸玉鈴はビクッとしつつシュンとする。


「.....お、お姉ちゃんが.....心配だから」


「.....?」


ポツリと呟く、糸玉鈴。

俺は?を浮かべながら.....怒られた糸玉鈴を見る。

それから飯の間、糸玉鈴は静かになった。


そして飯を食い終わった後。

糸玉鈴は反省している様に静かに勉強道具を用意する。

母さんも台所で仕事をする。


それから糸玉もトイレに向かった。

俺も準備をする為に二階に上がろうとする。

だが.....気になったので鈴の方に向いた。


「鈴」


「.....何ですか?気安く名前で呼ばないで下さい」


「.....じゃあ糸玉って呼べば良いのか」


「.....名前で呼ばれるのは気に入らないです。っていうか何ですか。貴方に名前を呼ばれる義理は有りません」


ムッとしながら俺に向いてくる、糸玉鈴。

こりゃ打ち解けるまで時間が掛かりそうだな。

思いながらも.....時計を見つつ時間を気にしながら聞いてみる。


「.....お前はお姉さんは好きなのか」


「.....当たり前の事を聞いてどうするんですか。そもそもお姉ちゃんが嫌いな姉妹って居ませんよこの世に」


「.....そうか」


勉強道具を用意しながらのその姿を見ていると手を止めた。

正直.....貴方が嫌いです。

私はです、と呟く。

俺は.....そうかと言いながら糸玉鈴の側に座る。


「.....近付かないで下さい」


「糸玉。俺さ、お前が糸玉虹の良い妹だと思っている」


「.....は?」


「.....お姉ちゃんを一生懸命、支えているんだよな。お前」


別に.....それがどうしたんですか。

当たり前の事ですよね、と勉強道具を用意する。

俺は.....俺自身の事を話してみた。

過去の記憶を、だ。


「.....俺にもさ信頼出来る姉が居たんだ」


「.....は?」


「.....その姉貴はな.....親戚の姉だったんだけど、姉貴としてお前の様に一生懸命に慕っていたんだ。そして.....大好きだった」


「.....だったって何ですか」


糸玉鈴は不愉快そうな顔で俺を見てくる。

俺は.....そんな糸玉鈴の顔を見る。

そして.....静かに切り出した。

姉貴は一人暮らしの際に蜘蛛膜下出血である日、ポックリ亡くなったんだ。

と、だ。


「.....え.....」


「.....享年24歳。相当に若かったよ。姉貴は。亡くなってしまった。俺はショックだったんだよな。それ」


「.....その話を私にしてどうするんですか?」


「.....お前が姉貴の事が本気で大切だという事を知っていると言いたかったんだ。お前は今の幸せが壊れてしまうって恐れているんだろ?俺はお前と同じぐらいに.....経験をしているんだ。色々と」


用意している手が再び止まった。

それから.....グスグスと鼻を鳴らす音が聞こえる。

泣いている様だ。

俺は.....その姿を見ながら.....糸玉鈴に言葉を発した。


「.....俺はお前の幸せを壊したりはしないから。.....って言うか性格的にもそんな人間じゃ無いんだ俺は」


「.....嘘.....」


「.....え?」


嘘、と呟いてから。

俺の胸ぐらを思いっきりに掴んでくる、糸玉鈴。

そして俺を床に捻じ伏せた。

跨って.....俺の胸ぐらを握り締める。


そんな事って.....無いですよね、そう言う男を見ましたから、だから絶対に信じられないです。

そうしているとトイレから糸玉が戻って来て愕然としていた。

母さんも何事かと洗面所からやって来る。


「ちょっと待って.....何やっているの!!!!!鈴!!!!!」


俺はその糸玉の姿を、母さんを手で静止した。

それから.....俺の頬に落ちてくる涙を受けながら糸玉鈴を見る。

貴方だって.....あの人みたいに.....!!!!!

と泣き叫んだ。


「.....御免な。俺は心から安心しろとは言えない。だけどお前の幸せを壊したりはしない。今からの俺の姿を見てくれ」


「.....じゃあもし私のお姉ちゃんの幸せを壊した時は.....貴方を殴ったりして良いんですよね?」


「.....ああ」


その時は幾らでも殴って良い。

それは固い固い約束だ。

俺は.....鈴を見つめる。

鈴は分かりました、と納得した様に俺の上から退いた。

それから涙を拭う。


「.....私、貴方を一時的ですが信頼します」


「.....有難う。鈴」


いつの間にか呼ぶ名前が鈴になった。

俺は.....思いながら鈴を見る。

すると背後から優しく抱き締められた。

俺は驚きながら背後を見る。


「.....有難う。東次郎くん。だから好きだよ」


「.....」


本当に.....有難う、と俺を柔和な目で見つめてくる糸玉。

あんなに気持ちを吐いてくれたのは久々だったから.....と言う。

俺は.....糸玉の言葉をうけながら......鈴を見る。

鈴は立ち上がった。

それから俺を見てから.....グスッと鼻を鳴らして。


「.....本当に.....おかしな人です」


と鼻を赤くしながら呟いた。

俺はそれに笑みを浮かべて答える。

どう答えたかって?

そうだな、こう、だ。


「俺はまぁ変人だからな」


と、だ。

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