二節、糸玉虹の妹
五、遠山の金さん、糸玉の妹に遭遇する
俺を幼馴染と譲らない、糸玉虹という名の少女が声優兼アイドルと判明した。
だけど何時も通りで良いからね、と笑みを浮かべて糸玉は言う。
その姿に流石の俺も、凄いな、と思ってしまった。
だってそうだろう。
声優とかアイドルとか簡単になれるものじゃ無いのだ。
だからかなり凄いと思う。
頑張ったのだろう、きっと。
「.....でもやっぱり記憶が無いんだよな.....」
夜の事。
糸玉が帰った後に俺は自室でその様に呟く。
記憶がやっぱり全く無いのだ。
糸玉と一緒に居た記憶が、で有る。
俺が狂っているのかそれとも何なのかと思い始めてしまった。
だけど狂っては無いよな、と思う。
うーん.....。
「.....糸玉.....虹.....か」
考えているとメッセージがきた。
俺は?を浮かべて見る。
今日、半ば無理矢理にアドレスを交換させられたのだが.....その糸玉から何か来た。
スマホを見つめる。
(楽しかったよー。今日。有難うね、東次郎くん)
「.....そいつは結構だ」
絵文字も一緒で.....本気で嬉しそうな感じだ。
俺はその文字を見ながら.....ふう、と溜息を吐く。
糸玉の元気に付いて行くのがやっとだ。
本当に、だ。
(東次郎くんの妹ちゃんとも仲良くなれたしね。あはは)
「.....」
(今度、私の家に来てね)
「.....それは勘弁して欲しいんだが.....」
思いながら額に手を添える。
コイツが言うとマジに聞こえて仕方が無い。
マジに疲労が溜まるだけだが.....。
俺は顎に手を添えながら.....文章を見る。
(お前さ、声優になるのはやっぱり大変だったか?)
(うん。大変だったよ。雑用ばかりで.....ここまで来るには苦しかった)
(.....それで何で声優になろうとしたんだ)
(君に褒められたからだよ。.....このコンプレックスだった声を、ね)
記憶に無い。
そんな事を褒めた覚えも無い。
だけど.....糸玉はそう言っているのだ。
事実なのかも知れない。
(アイドルになろうとしたのは?)
(人前に出るのを慣らす為だったよ。うん)
(.....強いな、お前は)
(君が居るからだよ。また会えると思ったから.....頑張れたんだ)
私は君が居なかったら.....この場所にも立てなかったんだからね。
だから心から愛しています、とメッセージをくれた。
俺は.....息を吐く。
本当に記憶が無いから.....何だかもどかしいのだ。
(昔の俺はそんなにヒーロー像だったんだな)
(そうだよ。私にとってはヒーローだった。私を救ったスーパーヒーローだよ)
「.....糸玉.....」
俺がスーパーヒーローか。
虐められていた言葉しか無かった俺の世界。
そう言われたのは初めてだな。
思いながら.....スマホの画面を見た。
(糸玉。俺もそれなりに努力をするよ。思い出せる様に)
(え?あ.....有難う。でも無理はしないで良いよ。私も頑張るから)
多分、このスマホの先で笑顔になっているのだろう。
糸玉の事だからな。
思いながら.....ベッドに横になった。
それから.....画面を見る。
(私は.....頑張るからね)
(そうか)
(君に私の舞う姿を見てもらう為にね)
(そうか、頑張れよ)
じゃあ夜も夜だし、寝るね。
お休み、と糸玉はメッセージを切った。
俺も、お休み、と糸玉にメッセージを送って終了する。
そして.....スマホを置く。
そういやもう直ぐうちの学校は球技大会か.....。
「.....嫌だな.....」
球技大会とか俺がトスしたら気持ち悪がれるレベルなのにな。
サボろうかとも考えたが.....糸玉の頑張っている姿を見ていると.....何だかサボれない気がする。
糸玉.....アイツとは縁が全く無いのにな。
人は変わるもんだな.....本当に。
やる気の無い俺が.....頑張ってみようと思うぐらいだ。
「.....クソッタレ.....」
不思議と悪態が出る。
歯痒い。
何だか分からないけど、だ。
俺は頭をボリボリと掻く。
それから.....横を向いた。
そのまま自然と眠ってしまった様だ。
歯は磨いていたから良かったものの.....。
☆
「おはよ!東次郎くん」
「.....?」
「起きてぇ!遅刻するよ」
何だか女の声がする。
と思ってハッとして俺はガバッと飛び起きた。
糸玉、おま!!!!?
目の前を見ると糸玉がお腹を抱えて爆笑していた。
「あはは。寝坊助さん。おはよ。頭クシャクシャだよ」
「.....いや.....それは良いけど.....何をしに来たんだよ」
「もっちろん。愛人を起こしに来たんだよ?あはは」
はにかみながら笑みを浮かべる糸玉。
可愛らしい笑顔だ。
この野郎.....。
思いながら頭をボリボリ掻く。
やっぱり気が狂うな.....と思いつつ糸玉を見る。
「じゃあ早く準備してね。下で待っているよ。ご飯も作ったから」
「.....お前.....」
ご飯まで作ったのかよ。
糸玉はニコニコしながら手を振って去って行く。
その様子を.....溜息をまた吐いて見つめた。
本当に参ったもんだ、と思いつつ、だ。
そうしていると.....扉がゆっくり開いた。
「.....」
「.....??!」
「.....私のお姉ちゃんを取らないで」
威嚇する様に俺を見てくる、謎の少女。
糸玉と同じ顔の美少女が立っていた。
黒の長髪でその顔立ちは穏やかながらも目がくりっとしている。
つまりは.....童顔ながらも美少女だが.....つーか侵入者!?
中学生の制服を着ているがマジに何だコイツ!
「誰だお前!?」
「.....私は糸玉鈴。糸玉.....虹の妹ですが?」
何か?と言わんぐらいの威圧だ。
幻覚ですかね?
こんな朝っぱらから次々に美少女が.....と思っていると。
慌てて糸玉がやって来た。
「コラ!鈴!何をやっているの!迷惑でしょ!」
「.....お姉ちゃん。このバカ、信頼出来ない」
「コラ!」
今、バカっつったかこの女。
年上だぞ俺は。
思いながら糸玉を見る。
何でお前の妹がこの場所に居るんだと視線を送った。
すると糸玉は、ゴメンね、と手を合わせる。
鈴が付いて来るって言って聞かなかったから.....と説明した。
だからと連れて来るって如何なものか。
思いながら.....また面倒事が増えたなと頭に手を添えた。
先ず、睨みをどうにかしてくれ。
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