二、遠山の金さん、悩む

遠山東次郎という名はウチの母親と父親が付けた。

出来れば遠山一次郎にでもして欲しかったのだが.....。

何故かと言えば頭の良い遠山の次、みたいな感じに聞こえて仕方が無い。


実際の所、存在が二の次だと馬鹿にされる事も有る。

その為に少しだけ俺の名前には不満が有る。

でも名前は基本、親が一生懸命に考えて付けるものだ。

だから俺は怒ったりはしない。


「.....」


「美味しい?」


サンドイッチを開いたら何故か目の前に糸玉が腰掛けた。

東次郎君は今、心底悩んでいる。

ゲームで言えばチェックメイト状態。


俺をニコニコしながら糸玉は見ている。

何故こうなっているのだ?

コイツ.....マジに何?


俺には女の知り合いは居ない筈なのだが糸玉という名前のコイツときたら。

何故か俺を幼馴染と間違えて接している。

意味が分からない。

重ねて言うが俺に幼馴染も女の友達も知り合いも居ない。

なのに、だ。


「.....お前、なんなの?一体。俺に幼馴染は居ないって言っているよね?」


「私は間違い無く貴方の幼馴染だよ。あと、サンドイッチ頂戴?」


「あげない。なんで見ず知らずの女にやらないといけない」


「えー。けちんぼ」


この女。

思いながら.....周りを見渡す。

死ねという目線を感じる。

このままこの教室に居たらマジにぶっ殺されそうな勢いで有る。

俺は盛大に溜息を吐いた。


何で俺がこんな目に。

思いながら.....糸玉を見る。

糸玉は?を浮かべていた。

俺は聞いてみる。


「.....お前、そういや飯はどうした」


「あ、私は.....だいえ.....じゃ無くて。取り敢えずは要らない」


ダイエットか。

じゃあ何でさっきはサンドイッチを要求した。

意味が分からないんだが。

思いながら真顔で.....糸玉を見る。

気が狂うなコイツと居ると.....マジに、だ。


「.....俺はお前とは知り合いじゃ無い。そしてお前の様な女は知らん」


「えー?ひっどい。そんな言い方無いよー」


「無いよじゃ無くてマジに無い」


「もう!卑屈!」


卑屈とかじゃ無い。

本気で糸玉の事は知らない。

そもそもそんな名前に記憶は無いのだ。

思いながらさっさと食べあげた。

それから外に出ようとしたその袖を糸玉が止める。


「何処行くの?」


「.....お前に知らせてどうする」


「私も行くよ」


「.....お前.....女子とかと話していたら良いじゃ無いか」


それも大切だけど君と一緒に居る事も大切だからね。

幼馴染だしね、とニコッと笑む。

黒縁の四角い眼鏡を外したらマジに美人なんだろうけど。

俺は.....興味は無い。


「申し訳無いけど付いて来るな」


「.....それって裏?」


「.....は?」


「いや、付いて来て良いよって意味?」


ニコニコしながら言う、糸玉。

アホかコイツ?

つうか馬鹿かコイツ?

思いながら.....盛大に溜息を吐く。

それから外に出た。


「待って待って」


「.....お前.....マジに付いて来るのかよ.....」


「当たり前じゃん。ね?」


「.....ね?じゃ無い。お前は.....」


気が狂うんだが。

思いながらも最後は投げやりになった。

もう勝手にしろ、と、だ。

有難う、と付いて来る美少女は周りから相当に視線を浴びせられていた。

本気でアイドルみたいな奴だな、コイツ。


「東次郎くんは優しいね。昔と同じで」


「だからお前の様な奴は知らん」


「絶対に知ってるって。私は君に何度も助けられたんだよ?」


「知らん」


とにかく.....コイツとは距離を置きたい。

思いながら俺は.....どっかでコイツを撒こうか思いながら。

とある場所に向かった。



「ここ何処?」


「.....簡単に言うと此処は見晴らしが良いんだ。桜の道が見える。俺はボッチだから.....外の風景を見るのが好きなんだ」


「え?.....うわー!!!!!確かに!」


中庭。

目の前に桜並木が見える絶景のポイントに来た。

俺は飯を食う度にこの場所に来ては桜並木を眺めるのだ。

何故かって?教室に居ると話し掛けられるから。

特にリア充に、だ。


それがめんどいので外に出る。

のだが、今日は女子が付いて来た。

糸玉だ。

何でコイツは俺の事を幼馴染とこれほど言うのだろうか。

俺は絶対に違う。


「.....糸玉」


「.....うん?何?」


「俺はお前の事はマジに知らない。だから間違いだときっと思う。何故、俺を幼馴染と思うんだ?」


「.....それはね」


君の目だよ。

と歯に噛む、糸玉。

そして満面の笑顔を見せた。

目って.....そこは別人に成長するだろうに.....。

思いながら糸玉を見る。


「でもそれだけじゃ無い。君は輝いていて、優しかった。だから今の君がまさにそうだよね」


「.....何処が輝いているんだ。意味が分からない」


「.....まさに今この瞬間もね」


俺の頬に手を添えてくる、糸玉。

それから俺を見据える。

な、こ、コイツ!?

思いながら.....糸玉を見る。

糸玉は明るい笑顔で俺を柔和に見る。


「私は間違い無く君が幼馴染だと思ってる。君が例え違うって言っても.....私にとっては君が間違い無く幼馴染だから。.....そしていつか君の口から言わせるよ。好きだって」


「.....え?」


「.....何故かって?そうだね。.....私は君が好きだから」


衝撃的な一言を放った。

糸玉はそうして俺から手を退けて。

腰の裏に手を当てて、俺を花が咲き誇る様な再びの満面の笑顔で見てきた。


そして何故か桜吹雪が起こる。

俺は頬に手を当てながら盛大に溜息を吐く。

やっぱり本気のガチで気が狂うと思いながら、だ。

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