タヌキとアライグマの風船
アほリ
タヌキとアライグマの風船
「いいなあー!!いいなあー!!こーんなに風船持ってるなんて!!」
タヌキは、塒からいっぱい引っ張り出してきて口でぷぅ~~~~~!!ぷぅ~~~~~!!と大きく膨らませては、ぽーん!ぽーん!と突いて遊んでいるアライグマを見て、激しく羨ましいがった。
「いいだろーーー!!俺!風船こーんなに持ってるんだぜ!!」
アライグマは羨ましがるタヌキにドヤ顔を言うと、タヌキの顔に向かって、
ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!
と、緑色の風船を口で大きく膨らませた。
「わーーーっ!!割れる割れる割れる割れる割れる割れる!!」
タヌキは、必死に耳を塞いだ。
「ん?」
タヌキは、顔にもろに押し付けられた緑色の風船の中に向こうのアライグマの、鼻の孔をパンパンにして更に、めいいっぱい膨れっ面になった顔を見て思わず、
「ぷーーーーっ!!ぷくくくくく!!」
「何笑ってるんだよ!!」
「だって!!君の顔・・・!!」
「じゃあ、お前も風船膨らませてみ?」
アライグマはタヌキそう言い放つと、吹き口を口から離してタヌキの顔に膨らませた風船を押し付けて、
ぷしゅーーーーーーーー!!ぶおおおおおーーーー!!
と、空気を抜いて萎ませた。
「はい、これ!」
「アライグマの涎・・・付き?」
「おめえ!俺の口付けた風船を膨らませてられんと言うんか?!
・・・ってなんちゃって!!」
アライグマは、おどけて舌を出すとタヌキにまだ膨らませてないピンク色の風船を手渡した。
「この風船膨らませてみて?」
「うん。」
タヌキは深く息を吸い込むと、ピンク色の風船の吹き口をくわえて息をおもいっきり吹き込もうとした。
ぷ・・・ぷぷぷぷ!!
「うわーーっ!!風船よりおめえの顔が膨らんでるじゃん!!まるで、信楽焼のタヌキ・・・」
「うっせーよ!!肺活量がおめえよりどーせ少ないよ!!」
タヌキはぷっ!と膨れっ面をした。
「あ、自己紹介してなかった。俺、アライグマの『アイク』。
タヌキおめえの名前は・・・?
うわっ!!」
ぷぅ~~~~~~~~~~~~!!
アライグマのアイクは、目の前に大きく膨らんだピンク色の風船が迫ってきたのでおもわず仰天した。
「ふぅ・・・僕、こんなにもパンパンにゴム風船を膨らました事はなかっ・・・」
ぱぁーーーーーーーーん!!
「ばたんきゅ~~~~・・・」
タヌキは、突然パンクした風船の破裂音に仰天して思わずタヌキ寝入りしてしまった。
「タヌキ大丈夫?!」
「・・・あ、めんごめんごアライグマさん。ビックリするとつい、『タヌキ寝入り』しちゃうんだ。」
「だから!『アライグマさん』じゃなくて俺は『アイク』だよ。
おめえは?」
「あ、僕は『ボン』だけど?」
「おお、タヌキのボンか。」
アライグマのアイクはタヌキのボンを起こすと、軽く会釈をした。
「アイク・・・」
「なんだい?突然涙目になって・・・?」
「僕と友達にならない?」
「この風船目的?この風船は全部俺の物だから、勝手には・・・」
「それもあるけど・・・僕・・・ずっと孤独なんだ。独りぼっちなんだ。」
タヌキのボンは、持っていた割れたピンク色の風船で目に溢れる涙を拭った。
「な、何ここで泣くんだよ?!」
「僕の父母兄弟は、皆死んじゃったんだ・・・森の食べ物が無くて皆飢え死にしてしまったんだ・・・!!」
「そりゃお可哀想に。」
「そして、この肺活量もままならぬ位の痩せダヌキに・・・うう・・・!!」
・・・今さっき、タヌキは俺の風船を割れるまで膨らましたくせに・・・
「他のタヌキには煙たがれ・・・『番』も出来ずに天涯孤独・・・
このまま独りぼっちで、飢え死にして愛する父母兄弟の居る虹の橋へ渡るのか・・・
と、思ってたら・・・僕の大好きなゴム風船が・・・
そしたら、君・・・アライグマのアイク!!」
「俺?」
タヌキのボンはアライグマのアイクをギュッと抱き締めた。
「僕・・・僕と一緒になってよ!!」
「ボン・・・おめえ・・・」
アライグマのアイクは、その時胸に迫るものを感じた。
「そっか・・・そこまで言うなら。俺だって。」
アライグマのアイクは、青い風船をぷぅ~~~~~~~!!と、一気に大きく口で膨らますと吹き口を爪でギュッと結んでこう言った。
「俺は、何時の間にここに居たんだ。
そう、何時の間に。
『アライグマ』だから、突然放られたこの場所で、全く他の奴等に馴染めず・・・
そんな俺を癒したのはゴム風船だ。
俺の記憶では、ガキの頃によく風船で遊んだ記憶が。
俺の脳裏の記憶に刻まれた、風船の感触に郷愁を感じてな・・・
俺は森で堕ちてたやつとか、人里で人間から失敬してきたやつとか・・・」
アライグマのアイクは、爪に触れて膨らました風船が割れないように前肢の甲で青い風船を突きながら悲しそうに、聞き入るタヌキのボンに言い聞かせた。
「そっか・・・君もそうなんだ・・・」
項垂れたタヌキのボンの目の前に、ぽーん。と青い風船が目の前にやって来た。
「あらよっ!!」
ぽーん。
タヌキのボンは、慌てて青い風船を前肢でアライグマのアイクへトスをした。
「あっ!風船バレーね。君と僕は独りぼっち同士!」
ぽーん。
「一緒に遊ぼう!!」
ぽーん。
「一緒に生きよう!!」
ぽーん!
アライグマとタヌキは、お互い青い風船を突いて遊んでいくうちに仲睦まじくなり、
お互いの想いは風船のようにどんどん膨らみ、
遂にお互い同居する事を決意した。
風船が繋いだ、タヌキとアライグマの仲
風船で一緒に遊び、
風船に囲まれた楽しい日々・・・
ある日の事だった。
「俺の風船、割れちゃったりゴム劣化しちゃったのしか無くなっちゃたから、人里に降りて調達しに行くぞ!
タヌキも付いてこい。」
「僕もっすか?」
「そうだ。元々この風船は俺の物だぞ。」
「解ってます!解ってます!そんな自覚位!!行きますよ!!」
タヌキのボンは渋々、アライグマのアイクに付いていった。
・・・はっ!これは・・・もしかしたらチャンスかも・・・?!
タヌキのボンは一瞬ニヤリとした。
しゅーーーーーー!!
「やっぱり!!人間が風船配ってるよ。」
アライグマのアイクはテントの中へ潜り、店のイベントで人々に風船をプレゼントする為に、ヘリウムガスを入れて風船膨らます光景にキラッと目を光らせた。
抜き脚、さし脚、忍び脚。
・・・しめしめ・・・これだ・・・!!
アライグマのアイクは、まだ膨らませていないゴム風船がいっぱい入っている袋に前肢を突っ込んで失敬しようとした。
にゅっ!!
・・・おっといけねぇ・・・!!
突然、次に膨らます風船を取り出そうと人間の手が出てきたので、アイクはとっさに台の影に隠れた。
「あぶねぇあぶねぇ・・・
おーい!ボン!タヌキ!ちょっと!
其処で人間が来るのを見張って・・・
あれ?居ないぞ・・・?」
アライグマのアイクは、一緒に付いていった『友達』のタヌキのボンの姿が見当たらない事に気付いた。
「あいつ・・・はぐれたんか・・・?」
アライグマのアイクは、テントから一旦出て辺りを見渡した。
「あっ!タヌキだーっ!!」
「タヌキさん可愛いぃー!!」
「タヌキさん♪タヌキさん♪」
・・・あっ・・・こいつ・・・!!
アライグマは、住民達が草葉の影からヒョッコリと現れたタヌキに餌をやっている光景を目撃してワナワナと卒倒した。
「タヌキ・・・こいつ・・・・!!」
アライグマのアイクは、言い知れぬ嫉妬にかられて激しく歯軋りした。
「居たぞーーーー!!アライグマぁーーー!!」
「アライグマぁー!!!外来種のくせにこの野郎ーーー!!」
「?!!!」
狡猾だった。
アライグマのアイクは、人間に見つかってしまったのだった。
「おまえか!!何時も売り物のパンとか盗んでいくのは!!」
「外来種この野郎!!街で悪戯したり糞で汚したり!!御用だ!!」
「保健所呼んだからな。もう観念しろ!!」
そんな捕物劇を、住民にあやされているタヌキのボンはせいせいしたしたり顔で凝視していた。
・・・あららアライグマの奴、人間に召し取られたか・・・いい気味だ・・・!!
・・・アライグマのとこ離れて正解だったな・・・
・・・僕もこいつと同罪になっちまうとこだったよ・・・
・・・そもそも、僕はあのアライグマには相当な怨みがあってな・・・
・・・僕の父母兄弟の食べる筈の森の食べ物を、あいつがやって来たせいでみーんな喰っちまったせいで、飢え死にしたんだよ・・・!!
・・・他の仲間達の分も、悔い荒らしてさあ・・・!!
・・・あの風船もそう・・・!!
・・・アライグマの持ってた風船は、全部僕が人里に来た時に人間に貰った風船だったのに・・・こいつが全部奪いやがって・・・!!
・・・最近は、この森には飽きたらずに人里に降りて失敬してるのを、僕はちゃんと知ってるんだから・・・!!
・・・俺は父母兄弟と、この森の仲間達への復讐の為にアライグマに、親しげに接触したんだよ・・・演技してな・・・!!
・・・僕にはタヌキの血統から遺伝する『悪知恵』があってな・・・!!
・・・復讐するタヌキは怖いぞぉー・・・ふふふ・・・!!
「ぎゃん!!ぎゃん!!ぎゃん!!ぎゃん!!助けて!!助けて!!
もう俺には何処にも居場所なんてないの?!
好きで『外来種』呼ばわりされてねーんだ!!」
・・・あ・・・やっぱりあいつも可哀想だ・・・見てられない・・・!!
・・・やっぱり、あいつ助けに行くか・・・!!
・・・そして、またあのアライグマと風船で森で遊ぼう・・・
~fin~
タヌキとアライグマの風船 アほリ @ahori1970
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます