幼馴染は負けフラグ

広瀬弘樹

幼馴染は負けフラグ

 昨今幼馴染は正ヒロインになれないという。

 日常の象徴、暴力ヒロインの代名詞、開いてしまったスクールカーストet cetera。

 諸々の主張に対して俺はこの身を以って異議を唱えたい。

 この私立久古乃三学園高等部生徒会長にして成績学年トップ。バスケ部主将、国内最大手企業次期雑魚茂グループのトップ。二年連続バレンタインのチョコレート取得数トップにして街に出ればモデルと思われ逆ナンされて目的地にたどり着けない男、雑魚茂笠埜場じゃこもかさのばが幼馴染を正ヒロインにするからだ。

「え、ジャコって佐々木さんのこと好きなんだ」

「やめとけよ佐々木さんはやめとけ」

 ふっ、俺の幼馴染、佐々木京子ささききょうこの魅力が分からない可哀想な奴らめ。

 特に雅樹まさき、お前も幼稚園から一緒だろうが。なんでやめろなんて言うんだ。

 京子は一般家庭で育った料理の上手な三つ編みおさげのかわいい普通の子だ。校則違反のピアスも化粧もしない良い子である。しかも眼鏡。クラッシクな丸眼鏡をお洒落に着こなす文学少女!

 これほどいい子がいるだろうか、いやいない。(反語)

 だってお前ら考えてもみろ。

 親の金のついでに顔と成績目当てで明らかに堅気じゃない女子大生のおねえさんに囲まれる気持ちを!絶対に背後にヤクザかなんかいるぞアイツら!!

「あー」

「そりゃあわかるけどさぁ……」

 しかも京子は俺が三男だからって差別もしない!兄貴たちに色目を使わない!

「ジャコんことの兄ちゃん結局どうしてたっけ?」

「一番上の兄ちゃんが大学院でどっかの島の先住民族を研究しに行ってそのままそこの酋長の娘と結婚&帰化」

「それで次期雑魚茂じゃこもグループの総裁にってなった次男が大学でニューハーフに変身して日本中大騒ぎになってカナダ移住だっけ?」

「苦労してるねぇジャコ」

「だから佐々木さんはやめとけってば」

 くどいぞ雅樹!今日は久古乃三学園七不思議、卒業式の日に伝説の木の下で告白すると願いが叶う日だ!

 当然京子の予定は押さえてある!見てろよ俺が幸せにしてやるぞ京子!

「ごめんなさい!」

 伝説の木の下。桜の花弁が舞い散る中で大きなごめんなさいが周りの卒業生や父兄を驚かせていた。

 好きだという前に京子が謝ってきた。

 どういう事だ。一体全体何がどうなっている?

「ごめんなさい、笠埜場かさのばくん。私もう好きな人がいるの…」

 えっ、そんなそぶり全然なかったじゃないか。いつも一緒に登校…ここ数年、いや高校に入ってからか…兄貴たちのせいで全くできていなかったことに気付く。

 魑魅魍魎ちみもうりょう染みたマスコミ対策で俺は車で送迎されていたのだった。

笠埜場かさのばくんが悪いわけじゃないの、でももう私たち違う世界の人なんだって気づいちゃったんだ…」

「そんなことない!京子は今も大事な幼馴染だ!」

「うん。だからね、ずっと大事な幼馴染でいよう?」

 京子は今までで一番綺麗な笑顔でそう言った。

 そのまま校門の方へ走って行く。その先には卒業生と思しき、際立って顔がいいわけでも頭が良さそうでもない、優しそうな青年が立っていた。

 つまり選ばれなかった幼馴染は俺だったというわけだ…。

「だからやめとけって言ったじゃん」

雅樹まさき……お前、知ってて黙ってたんだな…」

「言えるかよ」

 ジャコが家族のことで大変だったことも、京子ちゃんのこと好きだってのも知ってたからな……。

 ぽつりぽつりと桜の花弁と一緒に雅樹の声が落ちてくる。

 そうか。

「ありがとうな、雅樹まさき

「何もできなかっただけだよ俺は」

 ――そう、ジャコの恋を止めることも、ジャコへの恋を止めることも出来ない臆病者だ。

 何人もの想いを見守ってきた伝説の木は花びらを溢していく。

 それはまるで溢れる恋の様で――

「ん?なにか言ったか?」

「いや何も?それよりも俺達も行こうぜ?バスケ部の先輩たちが待ちくたびれてる」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

幼馴染は負けフラグ 広瀬弘樹 @hiro6636

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ