第1話「会いたかったよみんな!(特にカガリ!)」
「……すっごい久々に会った気がする」
手を貸してもらって立ち上がりつつ言うと、
「そうかもね。
「仁奈は変わってない……よね。相変わらず私より背が高いけど」
「そうだね。私たちは変わらないよ。この場所も」
そういって仁奈は広い公園を振り返った。そこには昔のまんまの枝垂れ桜が周囲を取り囲むように立っている。白いガゼボも、小綺麗なベンチも、すべり台もブランコも、それから匂いも、何もかもが記憶の通りだ。
「カガリたちも元気にしてる?」
「元気も元気。特にカガリちゃんなんか、毎日流歌のこと話さないと気がすまないみたいで」
「なんて言ってる? ──もしかして、死ぬのが遅すぎるって怒ってない?」
「まさか」
仁奈は笑ったけれど、すぐにしんみりとした顔になった。
「怒ってないよ。流歌が成人するまで生きられないのは最初から分かっていたし、だからこそやっぱり、死んじゃったのは残念だと思ってると思うよ。私と同じでね。だからこうして、私たちが招いたんだもの」
「そっか」
私が彼女たちのことを忘れてしまった原因は分からない。けれどこうしてまた思い出すことができて、話ができることを思うと、死ぬのも悪くないのかもと思えてしまう。……まあ、生きているのが嫌だと思ったことはないし、幽霊と関わりを持てる人間なんて稀なのだろうが。
私たちは並んで歩き出した。公園を出ると、生け垣に沿った橙色の煉瓦通りを進む。どこまでもどこまでも、地平線まで伸びる煉瓦通り。辺りには建物がひとつもない。
「死因はなんだったんだろ」
「覚えてないの?」
「うーん……たぶん、覚えてないかも」
どの辺りから記憶が飛んでいるのはか分からないが、少なくとも死にかけて苦しんでいる記憶はない。自覚するまでもなく一瞬で死ねたのだろうか。
「私たちもそこまでは分からないかな。今日まで流歌とつながることもできなかったから」
「そうなの?」
「そういう契約だったの。たぶん、流歌も今まで私たちのこと忘れてたでしょ? あなたをここの管理人として認めるために、テストをしていたの。
「……なるほど」
そういうことだったのか。全く知らなかったが、私はそのテストをクリアしていたというわけだ。どういう条件だったのだろう。
そうこう話していると、不意におかしな風が吹いた。服を着ているはずなのに、生身をそのまま撫でられるような風。──覚えている。空間が切り替わるときに感じる特有の風だ。気がつくとすぐ隣に大きな民家が建っている。
「あの赤煉瓦を越えると空間が変わるの。覚えてる?」
「覚えて……たよ。ちょっとビックリしたけど」
振り返ると、地面に赤煉瓦がきれいに並列している。これがこの世界──通称、箱庭のルールのひとつだ。空間と空間のつなぎ目は赤い煉瓦が目印となっている。いくつかの地区がこの箱庭には存在していて、それらは形の合わないパズルのピースみたいなものだから、こうして強引につなぎ合わせている……みたいなことを教えられた記憶がある。
「いろいろ忘れてるかもだけど、すぐに慣れるよ」
「そうだといいけど」
「──ちょっと、いつまで待たせるのよ」
玄関のガラガラと開く音とともに、聞き覚えのある声が聞こえた。
私は反射的に翻って、その生意気なまでにかわいい顔を見つけた。もはや同じくらいになってしまった身長。気の強そうな声。
けれど優しくて、たぶん、一番私のことを好きな幽霊──。
「──カガリ!」
「あ、こらっ! やめろバカ流歌!」
思わず飛びついたが、すぐに振り払われて地面へとダイブする羽目になった。気の強さは昔以上かもしれない。
「あのね、あんたらのんびり歩きすぎなの。流歌がこっちに来たってのは感覚で分かるわけ。それからどれだけ経ってると思ってんの。待たせすぎ」
「流歌、しばらく寝てたからね。でもカガリちゃんだって、一緒にお迎え行こうって言ったら行かないって……」
「う・る・さ・い! 私は別に、楽しみでもなんでもなかったし」
「カガリちゃんがいつも流歌のこと話してるって、もう教えちゃったけど」
「……仁奈、殺す!!!」
「いやん、私はもう死んでますぅ」
そんな微笑ましいやり取りを見つつ、私は地面に打ち付けた鼻を擦っていた。思い切り打ち付けたが、おそらくこの世界では骨折なぞしないのだろう。
なんとも楽しい生活が始まりそうです。
箱庭の管理人さん 季弘樹梢 @jusho_sue
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。箱庭の管理人さんの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます