箱庭の管理人さん

季弘樹梢

序章

 ──懐かしい匂い、次いで声。


 今から十年近く前、子供だった私は幽霊を見ることができた。


 初めて見たときのことは覚えていないけれど、物心がついた頃にはもうそれが当たり前のようになっていて、自分の境遇に疑問を抱くことすらなかったのは確かだった。彼女たちは大事な友だちで、いつも一緒に遊んでは泥だらけになって笑いあった。


 ──当然、汚れるのは実体のある私だけだったが。


 いつからだろう。彼女たちと遊ばなくなったのは。彼女たちのことを、思い出さなくなったのは。そしてなぜ、今更そんなことを思い出したのだろうか。


 私は馴染んだ匂いを鼻腔に感じつつ、ゆっくりと目を開く。微かに聞こえていた声が鮮明になり、視界が明るくなって──。


「──おかえり、流歌るか


 見覚えのあるきれいな顔が目の前に浮かんだ。


「……ただいま、仁奈にいな


 自然と、そんな言葉が零れた。


 私は、昔の友だちと再会した。真っ赤な枝垂れ桜の咲き乱れる、夕暮れの公園で

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