第4話 二人目の仲間
かぁぁん。
二つ目の鐘が鳴ったのは、待ち合わせ場所であるギルドに着いた直後だった。昨日座った椅子に座り、弾んだ息を整える。落ち着いて息を吐き出すと、じきに動悸もおさまった。
ユリアスはギルドのおじさんと奥で何やら話している。
部屋には他に誰もいない。二つ目の鐘の音でメンバーは集合する予定だったはずだ。他の人達はどこかへ行ってしまったのだろうか。
手持ちぶさたでキョロキョロしていると、ふいに扉が開き、大きな影が現れた。逆光で一瞬わからなかったが、一時の後、それは男性のシルエットであることが分かった。
でかい。
最初に思ったのはそれだった。大概の男と並ぶ身長を持つアーシェラには珍しいことだった。少し見上げなければ目が合わないというのは新鮮な体験だった。
次に目についたのはその黒さだった。後ろで束ねた少し長い髪は漆黒で、肌も地なのか日に焼けてなのかやや浅黒かった。髪と同じ真っ黒な瞳と目が合うと異様な圧力を感じた。
「ど……どうも……」
とりあえず目があったら挨拶をするのが日頃の習慣だったので、アーシェラは軽く頭を下げた。
「……」
しかし、頭頂部に視線を感じるだけで返事は返ってこない。怖い人なんだろうか……?ちらりと目を上げて顔を覗き見ると、無表情のまま男はわずかに顎を引いた。どうやら今のが会釈らしい。
「ふ……」
なんだかその様子が少しおかしくて笑いが込み上げてきた。しかし笑うのは失礼だろう。頑張って笑いを笑顔に昇格させて、ああ、と思った。
「もしかして……ゴーレム退治の……?」
二つ目の鐘でここに来たのだから、もしかしたらパーティーの仲間になる人かもしれない。そう思って切り出すと、男はわずかに目を見開いた。肯定、といったところか。すごく無口な人なのかもしれない。
「アーシェラと言います。よろしくお願いします」
右手を差し出すと、
「グラウス」
と彼は短く答えた。
文脈的にそれが彼の名前だと考えていいのだろう。しかし、宙に浮いた右手を掴むものはなかった。
行き場のなくなった右手を仕方なく頭に持っていき、ぽりぽりと掻いていると、「おお!」という声と共におじさんがこちらに向かってきた。
「戻ってきたか。すまなかったな、使いに走らせちまって」
おじさんの言葉に、彼……グラウスは首を横に振った。
「構わない、いつも世話になっているからな」
どうやら文脈から、彼は待ち時間の間おじさんのお使いに行っていたらしい。なるほど、これで時間に皆が揃っていない理由がつく。しかし、メンバーはあと2人いるはず。その人たちは一体どこへ行ってしまったのだろうか。
「あの……他の人たちはもう出発してしまったのでしょうか」
おずおずと問いかけると、そうそう今ユリアスにその話をしていたところなんだが、と断って、おじさんは一枚の紙を机に広げた。図と文字が組み合わされたその紙はどうやら地図であるらしかった。
おじさんは現在地らしい場所と国境にあたるある一ヵ所を交互に指差して、君たちに行ってもらうのはここだと説明した。
「だがな、ちょっと問題がおこっちまったんだよ」
おじさんはそこで机に乗っていたペンを地図を流れる大きな川の上に置いた。
「橋が……?」
川に平行に置かれたペンは橋を真ん中で分断しているように見えた。アーシェラの問いにおじさんは頷いた。
「そう、橋が落とされたんだ」
今度はグラウスが眉をしかめる番だった。
「『落とされた』……?」
おじさんの言葉尻に妙にこだわったその様子に内心首をかしげたが、しかし今日の天気を思い直してなるほどと思った。
「……今日はいい天気ですね。増水で流れたってわけでもないんだ」
おじさんの顔に一瞬複雑な表情が浮かんだ。
「……橋が落ちた理由は……自分達で調べるんだな。問題は、そのせいでとなり町……リングルにいる他のメンバーがこっちに合流できなくなっちまったってことだ」
地図の上にその地名を探すと、確かにこちらの街に来るにはその橋を渡るしかなさそうだった。
「だが幸い、リングルから目的地へは山を迂回すれば行けるんだな。ここから行くのとは川を挟んで全く逆のルートになっちまうが」
おじさんが指でなぞった道は、なるほど川を境にこれからアーシェラ達が歩む道を鏡に映したような弧を描いて目的地へと向かっていた。しかし、あちら側には大きな山があり、それを避けて行くせいでここからよりもかなり遠回りになりそうだった。
「本来なら川を渡って一旦こっち側に来た方が近道なんだが……今回の場合は仕方あるまい。昨日のうちに現地集合の連絡を飛ばしておいたから、そのように頼む」
「わかりました」
「ま、そういうわけだからしばらくは三人ってわけね。よろしく、えーっと……」
ユリアスがちらりと目をやると、男の片眉がはね上がった。
「あ……グラウス……さんというそうです」
続いてこちらを見られたので、アーシェラはつい紹介を行ってしまった。自分も先程名前を聞いたばかりだというのになんで紹介を行っているのだろうと釈然としなかったが、意図した結果だったのかグラウスはひとつ満足そうに(とは言っても無表情に変わりはなかったが)頷いたので、そこは気にしないことにした。
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