新居

僕が連れて来られたのは、王都に有る一軒の食堂の、二階の部屋だった。

ジュネルは、近くの龍舎?に預けて、ここまでは徒歩で来た。

そう言っても、ここから1分ほどの所にジュネル専用の場所が有ったんだ。


「ん~~、やっとルーファと二人っきりだ。

嬉しい!」


ジルはそう言って僕を抱きしめる。


「ここがジルのお家なの?」


「そうとも言う。」


聞けば、元々ここは旅籠だったみたいだけれど、

この店の二階に住んでいれば、食事の心配もしなくてもいいし、

旅籠だけあって、風呂も付いているらしい。


「だからここを俺の部屋にした。」


「俺の部屋にしたって…、そんな我儘したら、この店の人が困るだろ。」


「大丈夫さ、ちゃんと言ったもの。」


「ジル、もしかして旅をしている時もこの部屋はジルの物だったの?」


「当たり前だろ、俺のいない間もキープしておかないと、

お前が見つかった時、住む家が無くなるじゃないか。」


つまり、僕が見つかる前からそのつもりだったんだ。

でも宿泊費を毎日払うなら、アパートの方が得じゃないだろうか。

昔はあんなにお金の事を気にしていたのに、

この金銭感覚の変化は一体どういう訳なんだ?


「ねぇジル、旅籠に住むってやっぱり勿体ないよ。

王都にいなきゃならないのなら、もっと安いアパートに移ろうよ。

それとも、ずっとここに暮らすなら、小さな家を持った方が安いのかなぁ。」


でも家ってメチャクチャ高い筈だよね。

やっぱりアパートに住んだ方がいいのかな?


「ねぇ、ジルの時間が空いた時、二人でアパートを探しに行こうよ。」


「アパートか?

でも、それってあまりいい噂を聞かないぞ。

壁が薄くて隣の音が筒抜けとか、満足な設備が無いとか、

やたらと高い家賃を取られるって。」


「でも、ここの宿泊費を払うよりは安いだろ?」


「宿泊費?そんな物払ってない。」


へ?

今、宿泊費を払っていないって言った?


「そんな筈ないだろう。

旅籠に泊まるには、お金を払わなければ泊まれないんだぞ。」


「そんな事無い。

俺がここに住むぞって言ったら、

ここのおやじ、はい、分かりましたって言った。

金だって請求されてない。」


それって、勇者のジルが怖いからじゃないか。

何、馬鹿な事やっているんだよ。


え~と、確か旅籠に泊まるには、最低3,000ゼラぐらい掛かるって聞いた。


「ジル、君ここにどれぐらい住んでるの?」


「そんなの覚えちゃいない。」


「もうっ!それなら、魔族をやっつけに出発したのって、何年ぐらい前なの。」


「そうだなぁ、2年ぐらい前かな。」


二年以上前からお金払っていないの?勘弁してよ~~~。

3,000ゼラを一年とすると……、それじゃぁ、留守にしていた2年間だけだって……、

安くて2,000,000ゼラ以上じゃないか、

僕にも係わる事だから、僕にも責任があると思うんだけど、

僕の手持ちじゃ全然足りない。

これ以上聞くのが怖い。


「ジル、やっぱりお金は払おうよ。

この宿の人に悪いよ。

ジル、今いくら持っているの?

足りない分は仕事をさせてもらって……。」


「今か?今ある分はこれだけだ。」


そう言ってジルはポケットからジャラジャラとお金を出した。

小銭に混じって、金貨も有る。

でも、とてもじゃないけど、足りそうもない。


「50,083ゼラか…。

全然足りない。」


「足りない?

ルーファはもっと金が欲しいのか?

それなら城に行けばあるぞ。」


城に行けばって、まさかお城から奪ってくる気じゃないよね。


「違う々。

俺のは邪魔だから城に置いてあるんだ。」


「城に置いてあるって、いくら位あるの?」


二つの意味で、恐る々聞いてみた。


「分らない。今まで数えた事無いから。」


だ~~~~~っ。

聞いても無駄だったか。

とにかく宿には一回ちゃんと清算しなくちゃ。


「ジル、そのお金欲しいんだけど、いくら有る確かめられない?」


「城に行かなきゃ確かめられないな。

ここのおやじに頼むか。」


「そんな、ダメだよ。

ご主人だって忙しいんだもの。」


「だって、いつも使いっ走りしてくれるぞ。」


「とにかくダメ!

お城に行こう?

僕はお城の外で待っているから、ジルが確かめてきて。」


でも、お城はかなり遠くに見えている。

半日ぐらい掛かるかな。


「外で待ってるなんてダメだ。

ルーファを一人にしておくのは危ない。

いつ誰がルーファを攫って行くかもしれないし、

何をするか分かったもんじゃない。」


「ジル、君は僕を買いかぶってるよ。

僕みたいなやつを攫う人なんていないよ。

それに僕は魔族だ。

お城に入るのはまずいだろ?」


「魔族じゃなくて魔王だろ。

王なら城に入って当然だ。


意味が違うんですけど。

とにかく僕なんて薄汚れていて、顔だって良くないし、

髪だって伸ばしたい放題でボサボサだ。

こんな格好じゃお城に何て入れないよ。


「お前、自分の事を見た事無いのか。」


「毎朝鏡で見てるよ。ちゃんと顔も洗うし。」


「それなら何故そんな事を言うんだ。

ルーファほどきれいな奴は、この世にはいないぞ。」


そりゃ、ジルの買い被りだ。


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