怖がりと甘やかしたがり

 雷が鳴るとベッドが狭くなる。

 震えながら枕を抱えて入ってくる姿を見るや否や、姉のりゅうこは困ったもんだと苦笑するけれど、妹のややにとっては笑い事ではない。雷が落ちるということは文字通り、生きるか死ぬかの狭間なのである。響き渡る雷鳴は恐ろしい巨人の足音のよう。いつ家ごと踏みつけられるか分かったものではない。そういうわけで、どうせ死ぬならりゅうこと一緒がいいと、ややは大真面目に考えていたのだった。

 可愛らしい訪問者を追い払うことなどりゅうこにはできない。それどころか他の誰でもなく、真っ先に自分のところにきてくれるということに、言いようのない優越感を覚えるのだった。

 りゅうこはベッドの片側を空けると、「おいで」とジェスチャーした。ややは母親を見つけた迷子よろしく飛び込んで、頭を隠すよう胸に顔をうずめた。りゅうこはそんなややを優しく抱きしめる。闇夜をつんざく音と光が、いたいけなこの子から少しでも遠ざかりますようにと願いながら。

 ある休日の朝、りゅうこは友達と出かける準備をしていた。今日は朝からキャナルに行って、夕ごはんも外で済ませてくる予定だった。両親の姿はすでになく、出かけてきますとコーヒーテーブルの上に書き置きされていた。りゅうこは後ろ髪をひかれながらも、お寝坊のややを一目見てから家を出た。

 友達と合流して最寄りの駅に着いたとき、ちょうどりゅうこの携帯が鳴った。りゅうこはハッとしてとんぼ返りすると、妹と手をつなぎながら駅へと戻ってきた。こういうことはよくあったから、友達も慣れっこだった。

 仲睦まじい姉妹の姿を両親は微笑ましく思っていたけれど、それもややが中学生になるころには複雑な表情へと変化した。ややの怖がりは年齢とともに悪化していって、今や一人で眠ることさえ嫌がった。

 姉妹に一部屋づつあてがわれた部屋も、今では片方しか使われなくなった。高校生になっていたりゅうこは友人よりも妹のややを優先して、なるたけ一緒にいた。ややはりゅうこと一緒にいるときは必ず体を触れ合わせるようにしていた。そうすれば落ち着くのだとややは言った。

 ある晩、雷がなった。最初から二人は同じベッドに潜っていた。どうせ死ぬならりゅうこと一緒がいいと、ややは大真面目に考えていた。

 だけど、どうせ生きるならりゅうこと一緒がいいとも考えるようになっていた。無垢な想いはどこまで許されるだろう。

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姉妹、それぞれ 季弘樹梢 @jusho_sue

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