人生選び

人生選び

 「お母さん!」「ばあちゃん!」と私を呼ぶ声のなか、走馬灯のように今までの人生が思い起こされる。

そして私は眠るように息を引き取った。


 「あー!なかなか良い人生だった!」

と私は死んだ次の瞬間に大きくノビをして言った。

「やあ、今回はけっこう頑張ったね。」

と声がかけられた。

私担当の管理人だ。

「でしょう。84歳まで生きて息子や孫に看取られて最期を迎えるなんて、死に方としては私の今までの人生8回の中じゃ最高よね。」

と私が自慢気味にいうと

「うむ。死に方という評価項目はないが、家族点としては高評価かな。」

管理人は久しぶりに褒めてくれた。

 前に褒められたのは、たしか人間として3回目の人生。あの時は、わざわざ弱めの肉体を選んで、それをなんとか20歳まで生き延びさせるという頑張りを見せてやったのだ。ただ、生きる事に頑張りすぎて人間関係がおざなりになり、社会性の評価が低めになってしまったけど。

 全てをバランス良くという人生はなかなか難しい。

「今回はアレだな。子どもが良かったな。」

管理人が言ったことに私も同意した。

「そうだね。良い子たちだったよね。あれ、あの長男、何回目なの?」

「あれね12回目。あの魂はお前より経験あるわ。今回の人生もボランティアやら仕事やら頑張とるし、来来来世あたり教祖様ぐらいやれるかもな。やりたいと思えばだけど」

 うーん…そういえば幼い時から妙に落ち着いた子だったなぁと今回の長男だった人間を思い出していると

「んで、他の魂の事はいいから、自分の次の人生どうするかだけど?」

と管理人。

「うーん…ちょっと、ちょっと待って。じっくり選びたい。」

と熟考に入ろうとしたら

「まあ、今回で家族ランクは6まで上がったけどね。」

と管理人から不本意な台詞。

「え⁈ ランク6? なんで?いい家族出来てたやん。」

思わず反論。

「まあ、終わりだけみたらランク8ぐらいだけど、最初からハードルの低い人生を選んでたからランクアップは少ないよ。今回は子どもの良さによる所が大きいしな。」

と言われた。

「えー!…だって、だって、イジメられてイジケそうになってたあの子を上手になぐさめて真っ当な人生に導いてやったのは私よ!それから、それから…」

と、思い返してみると、他にあの子の事で自分が頑張ったことが思い出せない。

「それだけだろ。あとは大した事はしてないよ。次男の反抗期にはちょっと干渉し過ぎたぐらいだしね。だからランクは6どまり。3から上がったんだから大したものだよ。」

うーん…厳しい。

 たしかに、苦行が大きければ大きいほどランクアップは大きくなるけど…。今回は自分に甘すぎたか。次はもっとランクアップを目指したいが…あんまり辛い人生だと死にたくなってしまう可能性もるし…自死だけは避けたい。


 さてどうするか…と周りを見る。周りでは多くの魂が、やはり担当管理人と相談をしている。

 ここには死んだ時の姿形でくるから年寄りが多い。だがここに来るまでの人生は時代も国も性別も身体もバラバラだから、なかなかにバラエティに富んでいる。

 中世ヨーロッパの騎士風若者もいれば日本のサムライ姿や十二単衣じゅうにひとえを引きずっている女性の姿もある。あとずーっと未来なのか服とは言えないような恥ずかしい姿の人間も…。その横に縄文時代人の姿があるのはなかなか面白い。

 ふとみると少し離れた場所に生まれて間もない姿で管理人と話している魂がいた。

「にゃにも…にゃにも…にゃにもでぇきぃにゃいにょにょにょ…」

と、よく回らない口調で管理人に訴え、泣いている。

「まあまあ…しゃーないよ。おまえは、まだ人間1回目なうえに、つらさ強度の人生を選んだ人の子どもとして生まれてしまったんだからな。まあ、生まれてすぐの手術に耐えて、親に泣き声を聞かせてやれたんだから頑張ったと言えるよ。ランクアップは間違いない。だから…次はもうちょい頑張る力も強くなっておるよ。」

相手の管理人が必死でなだめている。

 人間1回目かぁ。私も小動物から人間に変わったばかりの時は大変だったなぁと思う。生まれてすぐに死ぬことはなかったけど、身体的障害持ってたからな。イジメられたりして…結局は6歳で交通事故で人生終了って…親も泣いたよなぁ。

 ダメだ。思い出すと泣けてくるわ。

…で、ふと思いついて管理人に聞いてみる。

「あのさ、子どもって選べるんだっけ?」

「ああ、子どもはある程度選べるよ。まあ、子どもが出来るまで頑張って生きたら…の話しだけどな。例えば…身体だけは頑丈なヤツとか、音楽の才能あふれるヤツとかな。ただ、その才能に気が付かずに育ててしまう事がほとんどだし、何かにひいででいる人間は他のところが欠如けつじょしてたりで苦労することも多いから…あまりおすすめしないな。子どもは運を天に任せるのがいいと思うぞ。天はほどほどに適した子どもを与えてくるからな。それを虐待したり捨てたりするのは天に歯向かう者として認定される。そしたら…ランクダウン…下手すると動物や単細胞に戻される」

なるほど…子どもってそんな感じなのね。8回目で初めて聞いたわ。しかし…

「じゃあさ、私、あの子がいい!人生2回目になるあの子!」

と、先ほど泣いていた赤ん坊を指さした。

と、それに気がついて赤ん坊とその管理人がこちらに近寄ってきた。

「いた…いてゃい…にゃにゃにゃに〜〜…」

「いったい何事?私がなにか?といってるが。私も聞きたい。何故なぜにこちらを指さした?」

「いやね、今度はその子を子どもにして子育てがしたいと思って…」

と私が言うと私の管理人が

「こやつは次でまだ人生2回目だぞ。いいのか?1回目ほどではないが、何かと育ち始めが遅く…ひょっとして、なにかしら障害を持っていくかもしれんぞ?」

と心配そうに言う。

「うにゅな…みゅん…み…いっちょちょちょちゃななななにゅにょ…」

「うるさいな…そんなのみんな1回目や2回目は同じではないかと…」

「障害?そんなものドンとこいよ!」

私は胸をたたいた。そして赤ん坊の方を真剣に見て言った。

「さっきまでの人生で、やっと家族の良さがわかってきたんだ。今度は自分の力で、もっと良い家族にしてやるって思うんだわ。だから…多少の障害の大きさは大丈夫!まあ、途中で少しはメゲることもあるかもしれないけど…でも、何とかやれる!君がどんな風に生まれてきても、絶対に途中で見放さない!幸せにするために頑張る! だから私の所に生まれておいで」

内心、"それにこれがうまくいったら大幅にランクアップ間違いないし〜"と思うが、それは口には出さない。

 赤ん坊は私の真剣なまなざしに少し照れたように

「しょしょしょんにゃににゃににゅうにやにやにや…いぇんえんんん…」

「そんなに言うなら、別に貴方の子どもに生まれても…と言ってます。まあ、どうせここのシステムでは子どもは選べても親は選べませんからね。貴方が望めばこの子は貴方の子どもとして生まれることになりましょう。」

赤ん坊の管理人は仕方ないといった感じで溜め息をつくと続けて言った。

「ただし!私は一瞬も目を離さずに見ていますからね!親としての貴方をしっかり評価させていたますから、覚悟してくださいね」

ハハハ…と思わずひきった笑い顔で応える。

「では、私達は手続きに行きましょう。2回目の人生…選べる幅は少ないですがね。」

「んにゃにゃ…にょにょににゅたゃまみま…」

最後のは「では、よろしくお願いします」かな?管理人の訳がなくても何となく分かったのは、やはり親子として相性が良いに違いない!と自分に言い聞かせ、2人の後ろ姿を見送った。

「ホントに大丈夫ですかねー。」

と私を見るこちらの管理人。

「まあ、4回目くらいの人生で"楽天家"の性格を習得してるから…それをうまく使えれば…大丈夫…じゃな…い…かな…ハハハ…」

と思わず管理人から目をそらす。

「それじゃあ、他のことも色々決めにいきましょう。あちらに資料がありますから。性別は女でいいんですね。それから家族の"子育て"が修行のメインテーマね。あとは…」

と言いながら歩き出した管理人。

「あ、あとは…経済面とかは、出来ればハードル低めで…国も争いとかはちょっと…」

と私は、思わず頭低めで後に続いた。


さて…9回目の人生、最後までやり切ってみせましょう! 

赤ん坊よ…待ってるよ!お手柔らかに頼むわ!そして…


 んぎやー!と私は新しい大気を吸い込んだ。




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