小判を拾おうとしたら、2つの千両箱が落ちてきた
伊崎夢玖
第1話
「俺と付き合ってください」
「え……無理……」
俺の人生初の告白は無残にも散った。
◆ ◇ ◆ ◇
所謂腐れ縁というやつで、犬猿の仲。
顔を突き合わせれば些細な喧嘩が始まる。
それをクラスの奴らは何を思っているのか『おしどり夫婦』と茶化してくる。
どこを見れば『おしどり夫婦』に見えるのか。
俺には到底理解できなかった。
しかし、そんな喧嘩を続けていると、いつからか朱音を恋愛対象として見ている自分がいた。
最初は勘違いだと言い聞かせていたが、朱音と喧嘩しているといつもの調子が出ない。
恋と自覚するのに、多くの時間は要しなかった。
いつ告白しようか悩んでいた時、チャンスがやってきた。
修学旅行だ。
うちの学校は五月に九州に行くことになっている。
来年は受験生。
『二人きりになれた時に告白しよう』と決めた。
◆ ◇ ◆ ◇
そしてたった今全力で振られた。
まるで汚物を見るような目で俺を見る朱音。
居たたまれなくて今すぐにでも逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
「朱音?」
沈黙を破ったのは俺の幼馴染であり、校内一のモテ男、
180センチを超える長身で、男から見てもかっこいいと思うルックス。
サッカー部主将で、学年トップの頭脳。
文武両道な圭一を女子生徒が放置するわけがなかった。
しかし、そんなモテ男の圭一は彼女を作らなかった。
『ずっと年上の彼女がいる』とか『女子には興味がない』とか、根も葉もない噂が飛び交う始末だった。
今俺は真実を知った。
「圭一……」
圭一を見る朱音の顔は彼女のそれで、朱音を見る圭一の顔は彼氏のそれだった。
改めて聞かなくても分かる。
二人は付き合っている、と。
二人共校内では、そんな素振りは一切見せなかった。
だから誰も気付かなかった。
「け、圭一…?」
「えっと…このこと、誰にも言わないでくれないか?」
「…分かった」
「恩に着る」
「誰かに喋ったらあることないこと言いふらしてやるんだからね!」
二人は人目を忍ぶようにそれぞれ別々の方向へ去っていった。
残されたのは、俺一人。
虚しさと切なさと心細さと、いろんな感情が自分の中をぐるぐると駆け巡った。
「そろそろ集合時間だが…?」
虚ろな目で声のする方へ振り返ると、そこにいたのは
亜弥は女版圭一そのもの。
175センチの女子にしては高めの身長、クールビューティーなルックス。
弓道部に所属し、部を全国大会に導く程の腕前。
極めつけは我が校の生徒会長なのだ。
弥生は亜弥とは真逆のタイプ。
145センチの小柄な背で、ふわふわの栗毛が彼女のかわいさを増長させていた。
料理同好会に入っていて、その腕前はプロ級らしい。
亜弥と共に生徒会副会長を務めていて、亜弥のサポートをしている。
そんな二人は従姉妹だった。
「聞いているのか?」
「時間なんだろ。間に合うように行くから今は放っておいてくれ」
「でも…」
「ちゃんと行くから!」
つい苛ついて語気を強めてしまったせいで、弥生は肩をびくつかせてしまった。
「ごめん。驚かせるつもりはなくて…」
「うぅん、大丈夫」
「それで私達は君に話があるんだ。手短に済ませるから」
「何?」
「君が好きだ」
「あなたが好きです」
美少女二人からの同時に告白された。
夢を見ているのかも…と思って頬を抓ってみるが、見事に痛い。
今は現実だ。夢じゃない。
『双子はよく好みが似るというが、従姉妹もかぁ…』なんて馬鹿みたいなことを考えてしまった。
「冗談は止めてくれ」
「冗談じゃない」
「私達は本気です」
「本当に?」
「「本当に」」
その後は驚いて何も言えなかった。
好きな女に振られたその後に、よりハイスペックな女二人に告白された。
人生いつどこで大どんでん返しが待ってるか分からない。
そのチャンスを逃してはならない。
でもどちらと付き合えばいいのか、俺が決めるにはあまりにも難易度が高すぎる問題が残っていた。
小判を拾おうとしたら、2つの千両箱が落ちてきた 伊崎夢玖 @mkmk_69
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます