僕の逆襲

シュタ・カリーナ

第1話

 魔王――世界征服を目論み、人類の敵とされている。近年魔王軍による襲撃が増えてきており、僕たち勇者パーティーが魔王討伐のために魔王城へと向かっていた。

 僕はそんな勇者パーティーの荷物持ちをしている。


 爽やか、イケメン、優しい、強い……それが勇者の評価だろう。

 他の仲間も同じような評価を受けている。

 実際、街が魔族の襲撃に遭った時もいち早くかけつけ魔族を撃退していた。


 しかし実際のところかなり性格が悪い。

 傲慢で怠惰で強欲で、ロクでもないのが彼らの側にいる僕からの評価だ。

 僕に、あれしろこれしろと命令してきたり、何でこんなことができないんだ、これだからお前はなどと罵られたりしてきた。


 そんな勇者は魔王を倒して名声と女と金を得て世界を征服したいらしい。

 もはや魔王より魔王らしい。


「だから何度言ったらわかるんだ!」


 魔王城に向けて歩を進めている途中のことだ。

 戦闘中、僕も役割を当てられているのだが少しミスってしまって敵の攻撃が勇者に当たったのだ。


「かすり傷が付いただろう!」


 勇者にはかすり傷一つしかついていないがこの騒ぎようである。

 俺の顔が汚れた、かすり傷がついたなどといつもうるさい。


 他の仲間はというと……


「ちょっと、そんなことはどうでもいいから早く行きましょう」


 女賢者は勇者と同じく汚れるのが大嫌いでさっさと先に行こうとする。

 今日の進むべきところまでは行ってくれるのでそこは助かっているが、おそらく早く魔王を倒して帰りたいのだろう。


「ルーシ、お前が全部悪いんだぞ? なんでお前がこのパーティーにいるのか不思議なんだが」


 筋骨隆々とした戦士の男は何もかも僕のせいにしてくる。そしてなにかしらの悪口を言ってくる。そして暴力を振るうこともある。

 ちなみにルーシとは僕のことである。


「ちょっと、ルー君が可哀想だよぉ」


 このパーティーの中で唯一のまともな人が女神官だ。常識を弁えており、とても優しい。ただ、ちょっと天然なのだがそれがまたいい。


 各々が自分の目標のために動いている。

 勇者パーティーは魔王城へと歩を進める。


 ◇◇◇


 能ある鷹は爪を隠す。

 この言葉は、実力のあるものは、いたずらにそれを誇示することはないということをたとえた言葉だ。

 僕もある目的のために今まで力を隠していた。

 そのせいで勇者に罵られようが構わなかった。


 勇者たちは僕は最弱だと言っていたが、実際はこの世界では魔王に次ぐ実力を持っている。

 それすら見極められない勇者の実力などたかが知れている。


 僕は今まである目的のために勇者たちを欺いてきた。

 僕は弱い、荷物持ちしか能がないなどと思わせてきた。勇者たちも馬鹿だったので僕の目的に気が付かずにいた。


 いよいよ僕の目的が達成される。


 ◇◇◇


 僕たち勇者パーティーは魔王城へと到着した。

 勇者たちは真剣な表情になり戦闘モードへとなる。こういうときだけ勇者している。

 いつもこうならよかったのに。


 僕たちは魔王城へと足を踏み入れ魔王の間へと進んでいく。

 道中敵の本拠地であるにも関わらず敵は一切出てこなかった。


 そして、魔王の間へとたどり着く。

 扉が開かれると、いかにもな魔王の玉座に腰掛ける魔王、そしてそばに控える四天王たち。さらには通路を挟むように立ち整列している多くの魔族たちがいた。


「なんだよ、これっ!」


 異様な光景に勇者たちは魔王の間へ入るのを躊躇っていた。

 しかし僕は魔王の間へと足を踏み入れる。


「おいっ!」

「あんた!」

「馬鹿なことをするなっ」

「ルー君、危ないよっ!」


 勇者たちが僕を止める。だが僕はそんな声を無視して魔王の前へと出ていく。通路を挟んで整列していた魔族たちが僕に向かって敬礼をする。

 そして僕は片膝をつき――


「お待たせていたしました、魔王様」

「うむご苦労であったよ」

「はっ」


 僕は顔を上げ魔王様の隣へ移動する。

 その際、四天王たちが頭を下げる。


「おい、ルーシ! これはどういうことだ!」


 勇者は訳がわからず僕に声を上げる。


「見ての通りだよ」

「……裏切ったのかよ」

「違うよ? 僕は元から魔王軍の参謀、魔王様の命を受けて勇者パーティーにいたの」

「「「なっ!?」」」


 僕の告白に勇者たちは驚きの声を上げる。


「魔王様、女の神官以外は殺してかまいません。ただのクズです」

「そうかわかった」

「神官は僕がもらってもよろしいですか?」

「ああ、構わんぞ」

「ありがとうございます」


 僕は神官へと目を向ける。彼女はビクッと肩を震わせる。


「変なこと言ってんじゃねーよ!!」


 勇者は僕に向かって斬りつけようとするが……


「すぐ感情的になるのがダメだよ」

「……は?」

「いつも感情に任せて切ろうとしてるよね」

「なっ!?」


 僕は勇者の後ろに移動して神官を攫う。

 勇者が振り返ったときには魔王様のもとへ移動している。


「えっ、ルー君!?」

「あ、あと僕の名前ルシファーね」

「……」

「大丈夫、ここで僕の使用人として働いてもらうだけだから」


 僕は驚いている神官に声をかけて安心させる――が、道具として使われることを想像したのか怯えて僕の拘束から逃れようとする。

 説明が面倒なので終わるまで眠っていよう。

 彼女はゆっくりと眠りにつく。


「皆のもの、やれ」


 その日、勇者パーティーは壊滅し、魔王軍が世界を征服し世界は平和になったとさ。

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