乙女ゲームのヒロインになったので悪役令嬢ちゃんと婚約者をくっつけようと思います
真兎颯也
遂に彼らが結ばれる日がやってきた
私が物心ついた時、この世界が前世でプレイしていた乙女ゲームそっくりであることに気づいた。
そして、自分がそのゲームのヒロインであることにも。
それに気づいた時の私は、喜び半分絶望半分だった。
乙女ゲームのイケメン達に会えるのは良い。
三次元で間近で見られるなんて、良い目の保養だから。
でも、自分がそんな彼らと恋愛するというのはいただけない。
私は第三者視点で他人の恋愛を見るのが好きなのであって、自分が疑似恋愛したいがために乙女ゲームをやっていたわけではない。
自分は恋愛したくない&他人の恋愛が見たいという思考の末、私は攻略対象達になるべく接触せず、彼らの恋愛模様を見守ることにした。
が、私はここで重大なことに気づいた。
この乙女ゲーム、大体の攻略対象に婚約者がいて、彼女達がライバルになる。
で、バッドエンドでは攻略対象は婚約者と結ばれるんだけど……一人だけ、他とは違うエンディングを迎える攻略対象がいる。
攻略対象の一人、この国の第一王子であるウィリアム様だけは、バッドエンドでも婚約者と結ばれることは無い。
ていうか、ウィリアム様の婚約者である公爵令嬢ハンナ様はどのエンドでも悲惨な最後を迎える。
「制作スタッフ、ハンナ様のこと嫌いすぎじゃない?」っていうくらい、どのエンドでも報われない。
つまり、私が暖かく見守っていても、彼らは結ばれない可能性が高い。
……これは、私が動くべきなのでは?
というわけで、私は彼らに接触し始めた。
まあ、男爵令嬢であるヒロインと公爵令嬢のハンナ様が接触するには学園に入学するのを待つしか無かったんだけども。
学園入学と同時にゲームは始まる。
つまり、ゲームと同じ時間軸で親しくしていかなくてはいけない。
ま、ゲームと同じようにイケメンを攻略するべく動く必要は無い。
私は心おきなくハンナ様との仲を深めていった。
ハンナ様は普通の恋愛というものに疎かったので、私はこの世界の恋愛小説を貸した。
「それは普通の恋愛とは違うのでは?」と思われるような作品も貸したけど、まあ、大丈夫でしょ。
ウィリアム様との関係についてもさりげなく探りを入れつつ、彼らの関係が良好なものになるよう努めた。
そうして迎えた、卒業記念パーティーの日。
ゲームのラストを飾るこのイベントは、ウィリアム様ルートのハッピーエンドであればハンナ様が今までヒロインに対して行ってきた嫌がらせの数々への断罪と、ハンナ様への婚約破棄が言い渡される。
いわゆる「断罪イベント」ってやつだ。
でも、この世界のハンナ様は私をいじめてなんかないし、むしろ私と親しくしていることはこの学園に通っている全生徒と先生が知っていることだ。
「公爵令嬢に気に入られた男爵令嬢」として私の名前が広まってしまうほどに仲良くなったからね。
私としては、他人の恋愛を「デュフフ」と観察しながら平穏な学園生活を送りたかったのだが。
おっと、私の話は置いておいて。
今、私の目の前ではウィリアム様とハンナ様が向かい合っている。
まるで、断罪イベントのワンシーンのように。
しかし、ヒロインである私はウィリアム様の隣にはいない。
彼らを囲む外野の一人としてこの場にいる。
ついでに言うと、ウィリアム様の隣には誰もいないし、もちろんハンナ様の隣にも誰もいない。
彼らは二人っきりで向かい合っており、それを大勢の人が囲んでいる。
彼らの周囲はしんっと静まり返っており、何事かと近寄ってくる人々の声が雑音のように聞こえてくる。
「……ハンナ。君に伝えなければならないことがある」
ウィリアム様がそう口を開いた。
そして、まっすぐにハンナ様を見つめて、言った。
「私は君が好きだ。改めて、私と結婚してはもらえないだろうか?」
私は誰にもばれないよう小さくガッツポーズをした。
婚約関係は解消されていないのにその言い方はおかしいと思うが、これこそ私が望んでいた展開だ。
彼らはこれでイチャイチャラブラブのカップルになってくれる。
そして良き国王夫妻としてこの国を治めていくのだろう――。
「……残念ですが、そのお誘いには乗れませんわ」
ハンナ様ははっきりと、良く通る凜とした声でそう告げた。
……ん? 今、何て?
周囲がざわつきだした。
彼女は騒がしくなる周囲など気にもとめず、さらなる爆弾を投下した。
「
はああああああ!?
いや、何それ、ウィリアム様の他に好きな人がいるとか私知らないんですけど!?
「……それは、誰だ?」
ウィリアム様は努めて冷静に聞いているが、動揺が隠し切れていない。
「ウィリアム様もよくご存じの方ですわ」
そう言ってハンナ様が微笑むと、急にこちらを向いた。
「イリーナ・ローズライト! こちらに来てちょうだい」
突然、彼女は私の名前を呼んだ。
は……え? 何で今私を呼ぶんですか?
混乱しながらも私は彼女のそばに近寄った。
「彼女こそ、私の好きな方ですわ」
――んんんん??
彼女は一体何を言ってるんですかね?
私の幻聴かな?
「彼女は私の心をわかってくださる唯一の方ですわ。それに、私の見識を広めてくださった方でもあります。私は婚約者がいる身ではありますが、彼女に惚れてしまったのです」
「だが、彼女は君と同じ女性で」
「それがなんだというのですか。愛さえあれば身分も年齢も性別も種族も関係ありませんわ」
ハンナ様が自信満々にそう言った。
Oh……これ、もしかして私やっちゃいました?
もしかしなくてもやってるよねこれ。
「それに……ウィリアム様もご自分の気持ちに嘘をつくのはよろしくありませんわよ?」
「っ!」
ハンナ様にそう言われたウィリアム様の顔が強ばる。
え、まじで?
「ご自分の気持ちには正直になった方がよろしくてよ?」
「……」
険しい顔をしていたウィリアム様が、急に背後を振り返った。
その視線の先には、彼の護衛騎士である青年がいた。
その青年もウィリアム様と同じく学園に入学しており、卒業生の一人であるため剣は持っているもののパーティー用の装いをしていた。
ちなみに、その護衛騎士はゲームではモブで、立ち絵はあるが見た目はフツメンだ。
「カイン、こっちに来てくれ」
「……は」
突然名前を呼ばれ戸惑いながらも、その護衛騎士はウィリアム様のそばに寄った。
「お前は常日頃、私の隣で護衛として良くやってくれている。それに、心許せる友としても、お前は私にとって無くてはならない存在だ」
「……もったいないお言葉です」
「だが、私は、それ以上の感情をお前に抱いてしまっている」
「それは、どういうことでしょうか?」
「私はお前が好きだ。友としてではなく、恋人に向けるような愛を、お前に抱いてしまっている」
カインは目を丸くしていた。
そりゃそうだ。今まで仕えていた相手にそんな感情を抱かれていたなんて知ったら驚かないわけがない。
「同性だからと言う理由で心の奥底に仕舞っていたが……ハンナの言葉に気づかされたよ。愛に性別も身分も関係はないと。障害になり得るかもしれないが、愛があれば乗り越えられると信じている」
ウィリアム様はそこで言葉を切った。
そして、ゲームではヒロインに向けていた優しい微笑みをカインに向けた。
「好きだ。私とつきあって欲しい」
一瞬の静寂。
周囲はカインが口を開くのを待った。
彼は酷く動揺し、顔を赤らめて視線をさまよわせていたが、やがて何かを決心したようにウィリアム様へと向き直る。
「……私などでよろしければ、あなた様のそばにいさせてください」
カインがそう告げた瞬間、ウィリアム様が花開くように笑った。
それと同時に、周囲から歓声が上がる。
なんだ、両想いだったんだね。いやー、良かった良かった……。
「さて、次は私たちの番ですわよ」
その声に、私の思考は現実へと引き戻される。
そうでした。
私もこのよくわからない展開に巻き込まれている張本人でしたね。
「あなたが私に友愛以上の感情を抱いていないのはわかってますし、正直こんな告白を受けるのも予想外だったでしょう」
「そ、それがわかっているならどうして……」
「この機会を逃したら、この想いを告げることなどできないと思ったからよ」
できれば、一生告げないでいてくれた方がありがたかった。
「安心してちょうだい。今はまだ私をそういった対象に見られないでしょうけれど、私を愛してくださるように努力いたしますわ」
「いや、私にはそう言った趣味は……」
「あなたを手に入れるために外堀は埋めましたし、邪魔する者達を排除する準備もしてありますわ」
「何それ物騒」
私がハンナ様の言葉に引いていると、彼女は女神様のように美しい笑顔を浮かべた。
「私、愛している方を手に入れるためならどんなことでもしますの。私から逃れられるなんて甘い幻想は抱かない方がよろしくてよ?」
顔は慈愛に満ちた微笑みを浮かべているのに、言っている内容は悪魔のそれだ。
恐らく公爵家の権力と財力を使って何かしているのだろう。
それに男爵家が太刀打ちできるはずがない。
後で聞いた話では、ウィリアム様との婚約もそのうち破棄するつもりらしい。
そして、同性では結婚できないこの国の法律を変え、同性婚も認めさせるつもりらしい。
ウィリアム様もその計画に乗り気らしく、近いうちに認められるだろうと言っていた。
本当にどんどん外堀を埋められている感じがして、私は心底恐ろしくなった。
とはいえ、逃げ出してもハンナ様は地の底まで追いかけてくるだろう。
完全に詰みである。
私にはもうハンナ様と結ばれる以外の未来が残されていない。
――私の人生、どうしてこうなったんだよーーー!?
乙女ゲームのヒロインになったので悪役令嬢ちゃんと婚約者をくっつけようと思います 真兎颯也 @souya_mato
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