第3話 故郷
俺達は日本のとある山にある集落に帰ってきていた。
「城谷のおばさん、ただいま。お邪魔するよー?」
「けいちゃん~? どうぞご自由に~」
俺が声を掛けると家の奥から女性の声が聞こえてきた。
家の中に入り、見慣れた日本家屋の内装を辿りながら居間に入って座る。
すると、おばさんがお茶を持ってきた。
「おばさん、結衣は何処に行ったの?」
「結衣なら山奥で【ラピッドストリーム】を使った立体機動の練習をするんだーって出て行ったわよ?」
ああ、確かに。あいつ、風系統の魔術、苦手だったもんな。
「どれぐらいで帰ってくるかって分かります?」
「んー、そうねぇ……朝に出たからもうそろそろ帰ってくると思うわ」
「分かりました。それじゃあ、待たせてもらいますね」
「寛いでいってね~」
「はい」
おばさんが出ていく。
さて、結衣が帰ってくるまで暇だな。何をしようか……。
「師匠」
そんなことを考えているとリアが声を掛けてきた。
師匠って言ったってことは、魔術絡みかな?
「どうした? 何か質問か?」
「はいっ! 師匠はどんな魔術も使ってるように見えますけど、得意なもの、苦手なものはあるのでしょうか!」
うーん、そう来たか。
「得意なのは炎熱系、光集束系、
俺はそこで区切ってからこう唱える。
「《炎在れ》」
人差し指の先に炎が灯り、揺らめく。
「はい、リア。魔術を使ってみて?」
俺がそう言うと、リアは【アトモスフィア】を唱え始めた。
「《阻め大気よ・その大いなる
リアが詠唱を完成させるも、術が起動する素振りを見せない。
「え、なんで? 確かに〝魔術の発現〟までの処理がされてるのに……」
「一応、これも幻術の一種かな。正確には、精神支配なんだけど。炎って、元々、人を魅了する力があるから、それを利用してリアの
「でも、ちゃんと、行使の最終工程の〝魔術の発現〟までの処理がされていますよ? それだと辻褄が合わないんじゃないですか?」
リアの疑問も尤もだな。
「俺が掌握したのは〝霊体設計図〟だぞ? 表層意識や深層意識を掌握して妨害したわけじゃないから、魔術の行使工程はちゃんと処理される。だけど、それに係る基礎データを霊体設計図から引き出すことが出来ないから、魔術の発現には至らない。簡単に言えば、パソコンのCPUは処理をしているのに、必要なデータが存在しないからその処理を終了出来ずにエラーを吐いてる感じだな」
「それだとかなり強いんじゃないですか? 私が炎を一瞬見ただけで霊体設計図を掌握したってことですよね?」
「そんなに強くない……かな。第一に、リアが俺に心を許していて俺の事を警戒していないから掌握が簡単だった。第二に、一度幻術だとバレたら簡単に
「えっと……《世の理を均衡に保ちし世界の意思よ・今此処に我を呪縛から解き放ち給え》ふぅ……《阻め大気よ・その多いなる風霊に於いて・我を守り給え》」
すると、彼女が改変し、防御力を上げた【アトモスフィア】が起動した。……態々改変呪文なんて使わなくてもいいのに……。
「おお、本当に起動した……。確かに、一度看破されてしまうと厄介ですね……」
「まぁ、まだ奥の手があるけど、それは企業秘密。魔術師は常に複数個の
臨時講義を終えると、玄関の方から女性の声が聞こえてくる。
『おかあさーん、ただいまー! あれ? もしかして慶伊が来てるの?』
『おかえりなさい。けいちゃんは居間に居るわよ』
『はーい!』
そろそろ来るか。
「さて、講義は終わり。んじゃ、形式的な挨拶をするかぁ」
そう考えていると居間の襖が開き、黒い手袋を着けた長い黒髪の女性が姿を表す。
「城谷家当主様。お久しぶりで御座います」
男性魔術師の最敬礼に値する、右手を胸に当てながら約十度で礼をする様式で挨拶をする。
隣のリアはスカートの裾を摘んでカーテシーを行う。これは女性魔術師の最敬礼だ。……にしても、流石、元王族ってとこか? 相変わらず綺麗なカーテシーをするなぁ。
「もう、慶伊ったら。そんな形式的なことをされると私もやり返さないといけないじゃない。八雲家当主様。こちらこそ、お久しぶりで御座います」
そう言ってスカートの裾を摘む振りをしながらカーテシーを行う。
「んじゃ、形式的なことはここまでで。結衣、今までうちの集落も面倒を見てくれてありがとな」
「ううん。今までってことは、此処に残るの?」
「ああ。ちょっと任務で失敗して、盟主様に大目玉くらっちゃって」
「それで暫くこっちに居るのね。了解」
結衣が微笑む。
「あー、あれだ、アイツらの様子はどうだ? 俺が居なくてもやっていけそうか?」
「ん? ……ああ、あの子達? 私が教えるのにも限界があるのよね。私、魔術師と言っても錬金系と光集束系しか得意じゃないし……」
「風に至っては暴発する始末だもんな」
結衣の頬がぷくっと膨れる。……ん?
「【ラピッドストリーム】を使ってた割には汚れてないような……」
「ふふん、どう? 凄いでしょ? 私、遂に【ラピッドストリーム】の継続行使に成功したのよ!」
胡散くせぇ……。
「慶伊、今胡散臭いって思ったわよね?」
結衣がジト目で見てくる。てか、こいつ俺の思考を読みやがった……。
「あのなぁ、結衣。人の思考を勝手に読むのはマナー違反だと思うぞ?」
素直に文句を述べてやると隣からジト目のリアが「慶伊くん、特大ブーメランが頭に刺さってますよ」と言ってきた。失礼な。
「ねぇ、セシリアちゃん。前から気になってたんだけど、なんで慶伊のことを君付けで呼んでるの? 確か、慶伊が二十二歳でセシリアちゃんが十六歳だったわよね?」
「んー、そんなにおかしいですか?」
「……慶伊はそれでいいの?」
「それでいいも何も、ちゃんとしたところでは師匠って呼ぶしいいかなって」
「あんたねぇ……そんなんだから
「へいへい。あいつらにはその内、自分の弱さを知ってもらうから。如何に自分達が井の中の蛙な存在か思い知ったら少しはちゃんとするでしょ」
結衣がジト目を向けてくる。……なんだよ。
「はぁ、まぁ、あなたがそれでいいのなら、いいわ。用事はそれだけ?」
「ああ。……今日は疲れたから授業は明日からにするわ。今日は結衣が行っといて~」
「はぁ、はいはい。それじゃあね」
結衣の見送りを受け、俺たちは結衣の家を出た。
さて、明日からは謹慎生活だな……。ま、久しぶりにリアとのんびり過ごすのも悪くないか。
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