彗星の夜

静海しず

きらめき

「帰ってきたわ」


 きらきら、きらきら。


 星をまとう彼女が僕の前に降り立った。


「小さな坊やだと思っていたのに」


 ベンチに座る僕を見下ろして、少女はこてりと首を傾げた。


「70年、経ってますから。……あなたは変わらないですね。僕は、すっかりおじいさんになってしまいました」


 彼女は小さな手で僕の指先をそっと包んだ。


「……冷たいわ」


「春とはいえ、まだまだ夜は冷えますからねぇ」


 風が広場を吹き抜け、桜の花びらが舞いあがった。


「もう一度会いたいと、ずっと願っていました」


 ふわりと、僕の体が宙に浮きあがる。


「70年間、この時を待っていました」


「あら……あらあら! まあ! あなた、ここから離れられないんじゃなかったの?」


「あなたが来てくれたから……もう、いいのです」


「いいの?」


「いいんです。僕の役目はおわったのです」


 彼女が切なく微笑んだ。


「さみしいわね」


「さみしくなんてありませんよ。ちょっとの間、お別れするだけです。70年後、またここに帰ってきましょう」


 彼女と手をつないで、高く、高く空へのぼる。街の明かりが小さくなって、やがて見えなくなった。僕と彼女は虚空をとびつづける。

 振り返ると、僕と彼女の軌跡が輝いて見えた。


 きらきら、きらきら


 きっと帰ってくるから。待っていて。その時まで、さようなら。

 星の輝きは、生まれては闇にとけ、そしてまた生まれる。


 きらきら、きらきら


 季節はめぐる。時はめぐる。

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彗星の夜 静海しず @Shizmy

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