第39話:ぐぅうぅぅぅぅぅっ
「ただい──「お帰りなさいケンジさんっ」」
イルクの背から飛び降りてすぐ、セレナが飛び込んできた。
「ケンジ、お帰り……おか……」
クローディアは俺の腕に絡みつくようにして顔を埋める。
そして魔人王は──
「お帰りなのじゃーっ」
背後から抱き着いて来た。
「ケンジ! 生きてやがったのか。お前って奴は……お前って奴は……」
「オッズさん……なんでそんな、しんみりしているんです」
「なんでってお前ぇ。自分を犠牲にして、俺たちを救おうとしたじゃねーかっ」
俺が俺を犠牲に?
なぜそんなことになった。
セレナもクローディアも、肩を震わせすすり泣く。後ろの魔人王は泣きじゃくって、顔をぐりぐり押し当てている。痛い。
「お、おい、ちょっと待ってくれ。もしかしてみんな、俺が死ににいったとか思っていたのか?」
「だって、火山ですよ? 噴火を止めるなんて……普通はできないんですよっ」
「や、俺もそう思ったさ」
「じゃあどうして!」
面を上げて叫ぶセレナの目元は、赤く腫れあがっているようにも見えた。
ずっと……泣いてくれていたのか?
「ごめん……」
「あ、謝らないでくださいっ。その……怒鳴ったりして、私のほうこそごめんなさい。ケンジさんが……ケンジさ「ケンジがひとりで逝ってしまうんじゃないかって、ずっと不安だったんだ」」
「そうだぞケンジィー。火山の噴火なんで、本当は妾でも怖いのじゃー」
「は、はは。ほんとごめんって。俺も噴火を止めるのは無理だと思っていたんだよ」
「ケンジさん……じゃあどうして行ったんですかぁ」
「いやそれは──」
噴火は止められなくても、溶岩の流れは止められる。
噴火は止められなくても、火を消すことは出来る。
噴火で飛来する火山岩だって、火口を防御結界で囲めば外に出すことなく防げる。
「だから行ったんだよ」
「……か、考えがあったのなら、手伝わせてくれたって──」
「ふん、セレナは馬鹿だな」
「む、どういうことですクロちゃん」
「お前や、それにボクもだが。行ったところで何を手伝える? 燃え盛る炎の中に入って行って、桶の水でも撒くのか?」
「うっ」
クローディアの言う通り。
残念だが、今回の件では彼女らに手伝って貰えることは何もなかった。
ちょっとしたボヤとは違うんだ。危険な目に会わせるわけにはいかない。
まぁ結果として──
「噴火を止めることもできたし、邪竜も倒せたんだ。よしとしよう」
「……え……ケンジさん、今なんて仰いました?」
「おおおお、おお、お、おまっ。じ、邪竜と言ったか!?」
「じ、邪竜は邪神が創造したドラゴンなのじゃ。この世界最強の竜なのじゃぞっ」
「いやぁ、さすがに俺に禁忌の魔法まで使わせただけのことはある。うん──ん?」
なぜだろう。
みんなが何か痛々しいモノでも見るような視線を向けるのは。
「え、俺なんか変なことでも言ったか?」
セレナが、クローディアが俺からそっと離れ、それから大きなため息を吐きだす。
「こやつはやっぱりおかしいのじゃ。規格外なのじゃ」
「そうですね。なんだか心配したのが勿体ないほどです」
「ふんっ。ずっとめそめそしていたくせに、今さら何を言う」
にやりと笑うクローディアの言葉に、セレナが顔を真っ赤にさせた。
「ク、クロちゃんだって一緒に泣いていたじゃないですかっ」
「バ、バババババカッ。ボ、ボクは泣いてなんかいないぞっ」
今度はクローディアだ。
ほんと、二人には心配を掛けさせてしまっ──
「ケンジさん!?」
「ケンジ!?」
「ケンジィー!?」
視界がぐにゃりと揺れバランスを崩す。
すぐに三人が支えてくれたが、これは……。
──ぐぅうぅぅぅぅぅっ。
俺を心配して駆けつけようとしてくれていたオッズさんや他の村人たち。
そして真っ青な顔で俺を支える三人の表情が固まった。
「い、いやぁ……は、はは」
鳴ったのは俺の腹の虫。
「……ぷっ……ふふ……し、信じられないです。もう、どうしてそこでお腹が鳴るんですかぁ。あははははは」
「わ、笑うなよ。魔法っていうのはなー、案外エネルギーの消費が激しいんだぞ」
「かぁー、心配して損した。おーい、皆の衆。解散だかいさーん」
「母ちゃんお腹空いたよぉ」
「そうね。夕飯途中だったものねぇ」
「帰って飯にするかぁ」
「晩飯はもう終わったが、なんか腹減ったなぁ」
わいのわいのとみんなが家へと戻っていく。
俺も腹が減ったな。
ちらりとセレナを見ると、笑みを浮かべて頷く。
「夕食にしましょうか」
「お、やったね!」
「妾もぺこぺこなのじゃ~」
「も、もやしを採って来るっ」
クローディアがもやし栽培場へと駆けて行き、俺たちはセレナの家へと向かった。
今夜も美味い飯が食えそうだ。
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