第37話:……え、そこ?
「"天の瞬き、闇を貫く孤高の星々よ──我が召喚に応じ、絶対なる破壊の力にて敵を滅せよっ!
『毎度まいど話を聞かぬ奴めえぇぇっ』
空に分厚い雲が集まり、そして雷鳴が轟く。
時空の狭間にいた時は、この定番演出もなかったなぁ。
ゴロゴロと雷が轟く中に、ゴゴゴゴゴォォという重低音が混ざる。その音は徐々に近づいてきて、それに合わせて雲の向こう側に赤く光る物が見え始めた。
来た。
雲を切り裂き現れたのは、直径30メートルほどの隕石。
隕石のサイズの10倍の大きさのクレーターが出来るハズだ。
炎を帯びた隕石が眼下に衝突──しながらクレーターを形成しその爆風が周囲に影響を及ぼす瞬間に、次の魔法を発動させる。
「"
ありとあらゆる攻撃を防ぐ結界。
本来外からの攻撃を防ぐこれを、逆にして効果を発揮させる。
以前は暴走する魔力で、仲間を傷つけないようにするために、自分自身を閉じ込めるのに使っていた魔法だ。
こんな所で役に立つとはなぁ。
直径500メートルほどのドームの中だけで隕石が爆ぜ、そして巨大なクレーターが完成した。
(ハムスター、深さはどんなものだ?)
『ついに隠そうともしなくなったな主よ……。深さは50メートルぐらいじゃ。クレーターの大きさはきっちり500メートル。火山への影響は、結界のおかげでゼロ』
『見事にコントロールしたっぴ。ちょっとだけ山が消滅するかもと思ったっぴが、素晴らしい集中力っぴな』
「ふぅ。じゃああとはクレーターに溶岩がちゃんと流れるように、壁を作って誘導しようか。"大地創造"!」
精霊の力を借りて、自在に土を隆起させることが出来る魔法。
これで今流れている溶岩の通り道を作る。全てがクレーターに流れるようにだ。
「溶岩はこれで良しっと。次は火災の鎮火だ。"クラーケン"」
『イ……あっちぃーっ!』
うん。まぁ火口の近くだし、下の方は溶岩流れてきてるし暑いな。というか熱いのほうか。
「"
『アッ、アッ、天国ぅ~』
「イカーッ! 成仏するなあぁぁっ。する前に働けぇっ」
『イカッ!? な、なんてイカ使いの荒い……』
「俺は西と北側をやる。クラーケンは東と南を頼む。イルク、まずは西だ!」
『っぴーっ』
『主よぉぉぉぉぉ、我はどうすればいいんじゃあぁぁぁぁっ』
「てきとー!」
羽ばたくことすらせず、自由に大空を舞う白フクロウ。その背から眼下を覗くと、既に山のあちこちで火災が発生していた。
クラーケンは別の方角の消火を頼んでいるので、今は水の精霊力は使えない。使えばクラーケンの消火能力が下がる。
ここは水属性か氷属性の魔法を使うしかないな。
魔法は精霊魔法と違って自由度が低いんだよなぁ。
さっきの『氷結の槍』は、周囲が高温だったから溶けて雨になっていただけ。
なら今度は直接水だ。
「"生命の源なる水、大いなる流れ。猛き炎を飲み込み、大地に潤いを与えんっ──
普段より多めに魔力を込め、全長数百メートルの水の龍を作り出す。
うねりを上げて水龍が地表すれすれを飛び、だばだばと大粒の雨を降らせた。
あちこちからジューっという音が聞こえ、火を消した際に上る白煙が立ち上る。
あっちでも、こっちでも。
「よし、次だ!」
『……お主は無茶苦茶っぴ。今までこんな魔力量の魔導師は見たことないっぴ』
「まぁ俺は賢者だからな!」
『……そんな賢者も見たことないっぴよ。次はあっちに行くぞ』
ぴーっと鳴いて、次はやや北側へと向かう。
ここでも水龍砲弾で火災を鎮火。
『ケンジよ、火口から再び膨大な熱エネルギーが噴出しようとしているっぴよ』
「膨大な? 溶岩噴火か!?」
いや、水をばら撒いているから、もしかすると水蒸気爆発かもしれない!?
「進路を火口に!」
『ぴっ! は、羽が焦げるっぴなぁ……ぴえぇーっ!』
文句を言いながらも火口に向かって進路を変えてくれる奴だ。
瞬きを数度する間に火口近くまで戻って来ると、黒煙の中で何かが蠢くのが見えた。
『ぴっ。あ、あれは──』
「溶岩か? いや、溶岩は羽ばたかないよな」
ぶわぁっと大きな翼を広げて、火口の縁に現れたのは──赤黒く燃えるドラゴンだ。
落ちたのか?
『ケンジよ。あれは邪竜っぴ。邪悪な神によって創られた、災いを招くモノ。永き眠りから覚めたのだろう』
「な……にぃ。じゃああれが噴火の原因なのか!? 寝起きが悪いにもほどがある!!」
『……え、そこ?』
今まさに羽ばたこうとする邪竜。
飛ばれるのは厄介だ。
「イルク。奴の翼を削ぎ落すぞ」
『承知』
風の精霊力と俺の魔力を練り上げ、そして──
「"
利き手を大きく振り払うと、その動きに合わせて三日月型の巨大な風の刃が発生。
邪竜もそれに気づいて翼を羽ばたかせるが、その程度の風力で精霊王の力を借りた刃を吹き飛ばせるわけもなく。
『ンギョオアアァァァァッ』
耳を塞ぎたくなるような悲鳴があがった。
だが奴もすぐに反撃へと転じる。
一切のモーションもなく、その口から青白い閃光──ブレスを発射したのだ。
「"
『あぶなっっぴ』
攻撃を完全に防ぐ防御結界がギリギリで展開し、そのブレスは結界に弾かれ角度を変え空へと消えた。
あっぶな。地面のほうに向かって角度が変わらなくて良かったよ。
今あんなのが火口近くの大地を貫通なんかしたら、噴火第二弾が起こるぞ。
「一帯の山々を吹き飛ばす気か!」
『笑止。スベテヲハカイスル。ソレガワレノソンザイイギナリ』
くっ。念話か。
伝わってくるのは声だけにあらず。
まるで奴のような──魔王のような邪悪な意思!
あれは生かしていてはダメだ。
「奴をここで倒す」
『倒せるものか! 奴はそんじょそこらのドラゴンではないのだぞっ』
「関係ない! 俺の──楽しい開拓スローライフを邪魔する邪悪なモノなら、例え魔王だろうとぶっ倒す!!」
『カタハライタイワ。ヤレルモノナラ、ヤッテミルガイイ』
あぁ、やってやるさ!
奴を倒すついでに、この噴火──止めて見せる!
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