第23話:必殺膝カックン!

 洞窟の規模は思った以上に大きかった。

 だが迷うような洞窟ではない。

 広い通路と、そこから左右に伸びる通路とがあり、左右の通路は100メートルほどで行き止まりになる。

 途中からは明かりを飛ばして通路の先が行き止まりであることを確認するだけで、進むのは止めた。


 その真ん中の通路をひたすら歩けば、今度が下へと伸びる螺旋階段が見つかる。

 下へ降りて、また同じ構造。

 さらにまた下へ。


 この間、何度かデーモンが襲ってきたが他の魔物の姿はない。

 二人に聖属性を付与しているおかげで、正直俺の出る幕もないぐらいだ。


「セレナは弓の腕を上げたな」

「い、いえ。まだまだケンジさんの足元にも及びませんよ」

「いやいや。俺は弓とか扱えないし、絶対勝てないって」

「……そ、そういう意味じゃなかったのですが……。でも少しはお役に立てて嬉しいです」


 にっこり微笑むセレナ。そこにクローディアが割って入って「ボクだって強いだろう!」と主張する。

 確かにクローディアは強い。

 エルフ特有の耳の良さで敵の位置を察知し、奴らの攻撃も軽々躱す。

 俺にはできない芸当だ。


 何より二人の連携もできている。


 クローディアが敵を見つけその位置を報告。そこにセレナが矢を打ち込み、敵を炙り出す。

 発見されたと悟ったデーモンは怒り狂って飛び出してくるが、その時には既にクローディアが奴の顎下に。

 小柄な体躯を利用し、視界の真下から短剣を突き上げデーモンの口を塞ぐ。

 魔法が得意な敵だと教えていたのもあるのだろうな。それをさせないために、顎から脳天に向かって短剣を突き刺していた。


 デーモンがこの程度で倒れるなんてことはない。

 クローディアの追撃、そしてセレナの二矢目が飛んでデーモンは倒れる。


 複数体来た時には俺も加勢するつもりだが、奴らに協調性というものはないのだろう。

 今のところ、単独のデーモンしか見ていない。


「まだ下がありそうだ。下りてしまう前に、少し休もう」

「え? まだ平気だぞ」

「わ、私もです」


 二人はそう言うが、実はさっきから肩で息をしている。

 この洞窟が何階層なのか分からない。次がもし最後だとしても、そこにはおそらく上位のデーモンがいるだろう。

 ちょっと考えたくはないが、魔人王デーモン・ロードもいるかもしれない。

 上位はまだいいとして、魔人王はさすがに俺も手を焼く。

 二人には万全の態勢で挑んで欲しい。


 ということで──


「あっ」


 っと言って来た道を指さす。


「え?」

「なんだ?」


 二人が釣られてそちらに視線を向けた瞬間、彼女らの背後に回り込んで──

 必殺膝カックン!


「ふえぇっ」

「ひぅっ」

「ほら見ろ。ここまで見事な膝カックンをするんだ。足だって疲れているんだろう」

「「うぅぅぅぅっ」」


 恨めしそうに俺を見つめるが、ここで折れたりはしない。

 せっせと空間倉庫からテントや調理器具、それから食材を取り出した。


「さ、ここで休むぞ」

「け、けどここは、敵のアジトだぞ!」

「ん、そうだけど、それがどうした?」

「ど、どうしたって……こんな所で休んでいたら、デーモンに襲われるだろう!」

「あぁ、そうだな。けど大丈夫だ。結界を張るから」


 テキパキと作業に入る俺を、クローディアは何故か残念そうな顔で見つめる。

 その隣でセレナが彼女の肩をぽんっと叩く。

 俺が何かしたか?


「クロちゃん、仕方ないから休みましょう」

「だ、大丈夫なのか? ほんとに? え?」

「大丈夫。ケンジさんだもの」

「そ、そうか。うん、あいつだもんな。分かった」

「え、そこで納得してくれるのか?」


 俺だから──その納得のされ方は、信用されているからと思えばいいのだろうか。


 さて、休憩所の作成だが、俺は一つ忘れていたことがある。

 テントというのはロープを張って、それを地面に固定するためにペグと呼ばれる短い棒に括りつけ、それを地面に打ち付けるのだが……。


「ふ……この石畳の回廊にペグは刺さらないな」

「あぁー……そうですねぇ」


 ペグと床とを見つめて諦めると、テントを畳んでそれを敷物として使った。






『グギイィィィ』

「はい、ケンジさん」

「お、ありがとう」

『ギギギギッ』

「なんだか変な気分だ。こんな迷宮内で温かいスープが食べられるなんて」

「そうねぇ」

『ギョアアァアァァァッ!』

「……ケンジさん。アレ、どうにかしませんか?」

「ん。やっぱり五月蠅いか。分かった」


 俺たちの食事風景を見ようと、ギャラリーがやって来たのだ。

 否、俺たちを襲おうとして、デーモンがやって来たのだ。

 一度は結界に張り付いたものの、ダメージを食らうと知って一度下がり、そこから必死に火球の魔法をぶつけまくっている。

 だが息切れしているのか、だいぶん肩が上下していた。


「火球の精度が低いんだよ、お前は。もっと一点集中するイメージで、こう撃つ。"火焔の槍フレア・ランス"」


 結界内から唱えた無詠唱魔法は、一本の炎の槍を生み出す。

 すぐには撃たず魔力をみっちり収束させ、めらめらと燃える炎の形がハッキリと槍へと変わっていく。

 高濃度の炎の槍──それを「ほいっ」と指さしで奴に投げつける。


 俺自身の結界は、俺の魔力を通すことができる。

 まぁズルいと言われれば、少しズルいかもしれないな。


 結界から飛び出した火焔の槍がデーモンの胸に突き刺さる──が、槍はそのまま貫通して、後ろの壁も破壊してしまった。

 槍が貫通した穴は、直径50センチをゆうに超える。

 

「こうだ。分かったか?」


 ……返事がない。


「もう死んでるぞ」

「……なんて根性のないデーモンだ!」

「さ、静かになりましたし、ご飯の続きをしましょう」

「そうだな。よし、肉大盛!」


 楽しい食事のあとは、俺、それから女性陣二人で交代で睡眠を取った。

 先に彼女らを休ませ、俺がその後で。

 目を覚ましたときには、二人の足元には魔石がいくつも転がっていて、その上疲れた様子だった。


「群れで来たのか?」

「は、はい……」

「あいつら、急に数体単位で襲ってくるようになって……せっかく休んだのに、また疲れた」

「はは。じゃあ代わるから、もう一休みするといい」


 単体では勝てないと悟ったか。

 

 二人はすぐに熟睡し、目を覚ましたのは3時間ほど後のこと。


「少しは疲れは癒せたか?」

「はい。もう大丈夫です」

「うん。下を目指そう」

「よし、行くか。その前に──」


 結界に張り付いているデーモン5体を葬ろう。

 


 

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