第24話:よってらっしゃい、みてらっしゃい!
*朝6時にも更新しています。そちらをまだお読みでない場合は1話前に戻ってお読みください。
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「こ、これで何階ですかケンジさん?」
「んー、15階か?」
「もうここで三泊しているのだ」
「そうだなぁ。迷宮内での連泊だと、俺は30連泊までやったことあるぞぉ」
「「さんじゅう!?」」
魔王城へ行くために、地下迷宮を越える道しかなかったからなぁ。
ただでさえ巨大迷宮なのに、下って上ってまた下って上ってだったからなぁ。
あの時はさすがにげんなりしたもんさ。後半は俺も含めて全員が、風呂やベッドの幻覚を見始めていたからな。あとラーメン。
それに比べれば三泊なんて、遠足みたいなものさ。
ただおやつは無いけれど。
「ま、目的地には到着したようだし、あとは片付けるものを片付けたら、あとは帰るだけだ。さ、元気出して行こう!」
「目的──な、なんですかあれ!?」
15階まで下りてきた地下迷宮。俺たちの前方にその終着点がある。
何故そう思うかと言うと、この階だけ通路が一本しかないからだ。
左右に枝分かれした通路はなく、階段を折りてから真っすぐ伸びるそれ一本のみ。
そして前方には、
「む、無理だ。あんなの無理──」
「二人とも下がって。前方のあいつらは俺が倒す。二人は後ろを警戒してくれ」
「ケンジさん……わ、分かりました! ケンジさんの背中は、私が守ってみせます」
「頼もしいな。よろしく頼むぞ」
と言っても後ろの敵は既に排除してある。襲ってくるものなどもういない。
それでも二人を下がらせたのは、一発でケリをつけるために大技を出すからだ。
セレナは俺と同じ後衛だからいいものの、クローディアがデーモンと対峙していてはぶっ放せないような魔法だ。
「"混沌なる異空──全てを吸い込む闇──星の光、星の闇──開け、
幾何学模様を描くように両手を動かし、そして魔法陣を完成させる。
収束する魔力の気配に気づいたデーモン軍団が、一斉にこちらへと駆けてくる。
おびき寄せる手間が省けていいな。
目前に作り出された魔法陣を、トンっと軽く押して前へ。
その魔法陣に縦のラインが生まれ、扉のように開く。
魔法陣が完全に開くと、俺の視界には暗黒の渦が映るように。
『ンゲッ』
『ゲゴバボォ』
「さぁさぁ、よってらっしゃい、みてらっしゃい! そのまま入ってらっしゃ~い!」
『ゴゲエェェッ』
吸引力がいつまでも衰えない掃除機っていうのは、こういうのを言うんだよな。
異界の門とカッコつけた魔法名だが、要はブラックホールだ。
あぁそうそう。
前の異世界で最後に使った時空の扉と似てはいるが、あれとは違う。
まぁ時空の扉がそもそも、この異界の門に手を加えた魔王オリジナルのものだろう。
しゅぽんしゅぽぽぽんっと吸い込まれていくデーモン軍団。
その最後の一体を吸い込んだのを確認してから指パッチン。
門を召喚していた魔法陣が消え、同時に異界の門も消滅した。
「……ダークエルフ族は誓うぞ。決してケンジを裏切らないと」
「凄いですケンジさん! 魔法一つであんなに怖そうなデーモンを、いっぺんにやっつけちゃうなんて」
「いやいや。相手がこちらに気づく前に動けたからさ」
そうでなければ、デーモンの攻撃を躱しながら呪文の詠唱をしなきゃならなかったからな。そんな面倒くさいのは、俺嫌いなんだよ。
戦闘が長引くのも嫌だし、だから一発で仕留められるような魔法が楽でいい。
そんなことを仲間に話したら、よく「お前は大雑把過ぎるよな」と言われたものだ。
「さ、あとはあの部屋だけだ。まぁデーモンはもういないだろうけどな」
「集落の人、残っている人はもういないのでしょうか?」
「この三日間でドッペルゲンガーは9体倒したな。人数は合わないが……ドッペルゲンガー以外のデーモンに襲われた者は、姿を奪われることもないからね」
それはすなわち、奴らの腹に収まったということ。
ドッペルゲンガー以外のデーモンは、捕食した生物の姿に体を似せるなんてことはない。
擬態するのはドッペルゲンガーのみだ。
残りは全員、食われたと判断したほうがいいだろう。
この先に生存者がいる可能性も、ないとは言い切れないが。
真っすぐ伸びた通路の先。邪魔する者のいないそこは、学校の教室ほどの広さの部屋になっていた。
薄暗いその部屋に魔法の明かりを飛ばすが、入り口で魔法が弾かれた。
「結界か。ちょっと時間をくれ。解除する」
「はい。じゃあ後ろの警戒をしますね」
「もう襲ってくる奴らはいないけどな」
結界に触れその構造を分析する。
闇属性に──混沌の力を加えて──悪魔言語と古代語、それに精霊語を織り交ぜた結界魔法か。
闇と混沌は光で打ち砕ける。解除の言葉をそれぞれの言語で唱え、あとは力比べだ。
バチバチと部屋の入口で火花が散る。
数秒ほどして、今度はガラスが割れるような音が響いて──
「解除完了っと」
「え? も、もうですか? 本当にちょっとでしたね……」
「いやいや、苦労したほうだぞ。誰だ、あんな面倒くさそうな結界を張ったのは」
その誰かが中にいるのか、それともいないのか。
とにかく警戒するに越したことはない。
もう一度明かりを中へと投げ込み、今度こそ周囲を照らした。
「隠れてっ」
「は、はい」
「う、うん」
俺の言葉に二人は即座に反応する。
隠れろと言っても、実際身を隠す場所などない。
二人はすぐさま俺の背後でしゃがみ込み、じっと息を殺した。
二人に隠れろと言ったのは、実は室内に惨たらしい遺体でもあったらと思って、それを見せないためだったのだが。
「子供?」
「え、子供がいたんですか?」
「あ、いや……どうだろう?」
部屋の中央にある石の台座。その上には誰かが横たわっているが、体の大きさからして明らかに子供のように見える。
いやだがこんな所に子供?
奴らの食糧として運ばれてきたにしては、どこにも血痕はないし、無傷のようだ。
じゃあこの子は、何かの生贄?
『──れじゃ』
「!?」
突如膨れ上がる魔力。
その源は台座の上に横たわる子供からのもの。
『誰じゃ。わらわの眠りを妨げるモノは』
「二人とも、下がれ」
「ケ、ケンジ、さ……ん」
「マズいのだ。あれは……絶対、ダメなのだ」
二人とも既にアレの魔力に当てられ、本能的に危険を察知しているな。
それが分かるだけでも、十分大したものだ。
「"
室内をよく見渡せるように、追加の明かりを投げ込む。
そこでハッキリと分かった。
台座に横たわっていたモノが起き上がったからなのもある。
漆黒の波打つ髪の幼い少女だ。
肌には生気が感じられず、血のように赤い目だけが爛々と輝く。
魔人王には他のデーモンどもと違って、肉体が存在しない。
あのドッペルゲンガーでさえ、一応全身のっぺらぼうのような肉体がある。
だが魔人王には自らの肉体はなく、この世界に具現化するには受肉するしかない。
受肉とは誰かの肉体へ憑依するということだ。
そして魔人王が受肉するための器となるのは、生命力に溢れた処女であること──というのが以前の異世界でのことだったが。
もし同じであるならば、あれは魔人王であり、そして魂を食われた人間の少女……。
「お前は
こちらがそう尋ねると、少女はそうだと言わんばかりに小さく頷いた。
その口元は歪み、狂気すら感じた。
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