第15話:エグいです

「なんで君が案内役?」

「ボ、ボクだと不満だと言うのか!?」


 案内役として選ばれたのは、何故かあのダークエルフの女だ。

 この女性、俺たちの監視をしていたし、デーモンの居場所を知らないだろ?

 年の頃は──まぁ外見での判断になるが、セレナよりやや年上っぽく見える。20か、21か。実際はそんな年齢ではないだろうけどな。

 ただ体の起伏に関しては、非常に残念なボディラインをしている。


「し、心配するな。奴らの居場所なら、しっかり聞いてある」

「でもなぁ」

「奴らがその場所から移動していたら、ロキヌにだってどこに行ったか分からないだろっ」


 そう言われてしまっては、返す言葉もない。その通りだから。

 

「それよりも、そっちの女は大丈夫なのか? どことなく、弱そうだな」

「よ、よわっ。ううぅ、そりゃあケンジさんに比べれば、私なんて雑魚の雑魚ですけど」

「セレナは決して弱くはない……が、相手は悪魔だ。俺の傍から離れるんじゃないぞ」

「は、はい……お傍にいます」


 うん。それがいい。

 本当はひとりで行きたかったんだけども、彼女がどうしてもというし。それに里のダークエルフの、彼女を見る視線が厳しかったのもある。

 ハーフとはいえエルフの血の混ざったセレナだ。ダークエルフとしてはあまり好ましくないのだろう。


 まぁひとり二人なら『聖領域』でどうにでもできる。


「じゃあ案内よろしく頼むよ。えぇっと、君の名前は?」

「むっ」


 唇を尖らせ、ぷいっとそっぽを向くダークエルフの女。

 

「クローディア」


 それだけ言うと、彼女──クローディアは走り出した。






 速度増加でブーストした走りは三分程度で終わった。

 里から東に進んですぐの所に、悪魔種の魔物が数体見えた。


「よし、じゃあ二人は──」

「ボクは戦うっ」

「わ、私だって」


 いや、出来れば大人しくしていて欲しいのだけれど。

 二人が張り切って本気出す前に、サクっと終わらせようか。


『ンゲゲ』

「おっと、見つかったか」


 下位悪魔レッサーデーモンが九体、中位悪魔アークデーモン三体。そして上位悪魔グレーター・デーモンは聞いた通り二体だな。

 まずは魔法を妨害──「"静寂サイレンス"」。


『──!?』

「声は封じさせてもらった。では次、"混沌たる海、漆黒の闇。星々の引力をこの手に──重力球グラビティ・ホール"」


 重力を操作して、目標地点の周辺に強力な圧を掛ける魔法だ。

 たいていの形あるものは、この魔法でアメーバーになる。


 ぐいっと握りこぶしを作れば、ぐしゃっという不快な音を立てて悪魔たちが潰れた。


「あばばばばばばばばっ。な、なんてことっ」

「こ、今度のはまた……エグいです」

「あ、悪い。見えないようにスモークで覆えばよかったな」


 けどまぁ、悪魔種は倒せば死体は残らない。

 もともとが魔力の集合体みたいなものなので、倒せば光となって四散する。

 

「た、たった一発の魔法で、デーモンどもを倒してしまった……」

「ケンジさんはそういう方です。凄いでしょ?」


 何故かドヤ顔なのはセレナで、その言葉を聞いたクローディアはこくこくと何度も頷いていた。


 他にデーモンがいないか周辺を『索敵』する。

 俺を中心に半径500メートル範囲内の魔物全てを感知するが、その中からデーモンを見つけるのはそう難しくはない。

 俺が感知できるのは気配や相手の魔力だ。デーモンは魔物の中でも特に魔力が高い存在。


「うん。近くにデーモンはいないようだ」

「わ、分かるのか?」

「索敵魔法を使えば分かる」

「……さ、索敵魔法? そんな魔法があるのか?」


 首を傾げるクローディアの隣で、セレナも一緒に首を傾げる。

 なんだろう……二人で並んであぁやっていると、おバカな姉妹に見えてしまう。


「と、とにかくダークエルフの里に帰ろう。早くデーモンを倒したことを知らせた方が、全員落ち着くだろうし」

「そ、そうだな!」

「また走るのですか? あれ、体の感覚が変になりそうで……」

「あぁ、じゃあ空間転移の魔法で飛ぶか」

「はいっ」


 返事をしてすぐ、セレナが俺の腕を抱え込んだ。

 おっふ。当たる、凄い当たる!


「く、空間転移……わ、分かった。こうすればいいのかっ」

「おうっ──近い、お前も近いって」

「術者に触れていないと、その場に残されてしまうじゃないかっ」


 いやそうだけど、だからって腰に腕を回してしがみつく必要はないだろう。

 せめて服を掴むとか、その程度でいいんだぞ?


「むぅ」

「ぬぅ」


 しかもなぜ二人は火花を散らし合っているんだ。


「い、行くぞ」

「はぁい」「おう」


 窮屈な思いをしながら空間転移を使って、ダークエルフの里へと飛んだ。

 俺たちが里へ戻ると、それに気づいたダークエルフが他の仲間に声をかける。

 すぐに長老がやってきて、彼にデーモンを倒したことを報告した。


「凄いのです長老! この男、たった一つの魔法でデーモンどもを屠ったのですよ!」

「なんと!? 魔法一発でか?」

「そうです! めっっっっっっっ──ちゃくちゃ強いのですよ!」


 随分と溜めたなぁ。

 しかし、クローディアの態度の変わりような、なんだろうな。


「ありがたい。そういえば賢者よ、名前を聞いていなかったな。私はゾルダ。この里の長を務めている」


 そう言って里長ゾルダが手を差し出した。


「俺は賢志ケンジです」

「そうか。ケンジよ、改めて礼を言おう。ありがとう」

「いえ。さっきも言いましたが、森を破壊されるのはこちらも困るので。それに、デーモンなんていたんじゃ、こちらの村も襲われる可能性がありますから」

「村か……最近はまた人間がこの地にやってくるようになったようだが」


 開拓のことは知らないのか。

 これは説明しておいた方がいいだろう。


 俺より当事者であるセレナが、ダークエルフたちに開拓移民の話を分かりやすく丁寧に説明。

 先ほどまでと違って、彼女を見るダークエルフたちも、幾分かマシになったようだ。

 全ての説明が終わると、里長は小さなため息を吐いた。


「ダークエルフに無断で、この地に村を築いたのはマズかったでしょうか?」

「いや、我らは森で暮らす者。外のことはどうでもよい」

「それはよかった」

「だが森を汚されるのは困るし、木の伐採や獲物を狩りつくされるのも、やはり困る」


 そこは心配ないと念を押し、木を伐採することがあれば苗木を植林すると約束をした。

 獲物もそうだ。狩りつくせば後々の食糧に困るし、そのつもりはない。

 

「何か礼をしなければな。開拓移民だというなら、いろいろ物入りだろう。他に欲しいものがあれば言うがいい」

「じ、じゃあ──」


 小麦の種、それから果物の若木を何種類か。そして村で今栽培できていない野菜の種など、たくさん貰うことができた。



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