第16話:お前の傍にいてやる

「という訳で、東の森に住むダークエルフたちと友好関係を築けることになりました」


 ダークエルフの里で一晩休ませてもらい、翌朝になってすぐ村へと帰って来た。

 何故かクローディアも一緒だ。


「友好関係を結ぶ証として、お前さんが嫁を貰って来たのか……」

「いやいや、待ってくださいオッズさん」

「よ、嫁だと!? こ、このボクがこいつの嫁だというのか!」

「そうだ、言ってやれ。違うと──」


 不機嫌そうに叫んだクローディアは、俺の隣で頬を染めもじもじしていた。


「そ、そういうことにしてやらんことも、ないぞ?」

「俺に聞くな」


 なんでそうなるんだ、まったく。


「ううぅぅぅ。クロちゃんは早くお家に帰りなさいっ」

「ふんっ。だが断るっ」

「むうぅぅぅ」

「はっはっは。ケンジはモテモテだな」

「からかわないでくださいよオッズさん」


 やれやれと頭を抱え睨み合う二人を見た。

 白く透き通った肌に金髪碧眼の美少女セレナ。まぁ少女と呼ぶには微妙な年齢だが。

 それでも外見は17、8歳と言ったところ。


 対するクローディアは褐色の肌に銀髪緑目。外見的な年齢は20歳ぐらいの美女だ。

 一人称がボクなため、喋っているときは若干幼くも見える。


 二人は肌の色も髪の色も対照的だ。

 しかもセレナはグラマラスなボディラインの持ち主だが、クローディアはよく言えばスレンダー。悪く言えば幼児体形。グラマーとは無縁のラインの持ち主だ。

 種族という意味でも、仲は悪くなってしまうのかねぇ。


「それでクローディア。お前、このままこっちの村にいるつもりなのか?」

「お前の傍にいてやる」

「遠慮します。どうぞお帰りください」

「なぜだ! ボクがいてやるって言っているんだぞっ」


 いて貰う必要性が、まずない。

 そう素直に話すと、クローディアは自分で「がーんっ」と言いながら項垂れた。


 彼女のことは横に置いて、オッズさんとこれからのことを話し合う。

 まずダークエルフから提示された内容を伝え、それに同意してもらう必要があった。


「むやみに木の伐採をするな、か。むしろ今は木が増えてるところだがな」

「ま、まぁそれはそれ、これはこれということで」

「獲物の乱獲の禁止。んなこたぁ当たり前だ。取り過ぎて絶滅でもされたら、それこそ肉が食えなくなる」


 ダークエルフから提示された内容の同意には、それぞれの代表者によって誓約を交わすことになっていた。

 オッズさんにはその代表として出て貰わなきゃならないのだが、その前に知りたいことがある。


「オッズさん。この村は何村と言うんです?」

「何村ってのは、どういう意味だ?」

「いやだから、村の名前ですよ」


 誓約はただの口約束ではなく、紙面でとり行われる。そこに村の名前を記載することになっているが、ダークエルフの長老は「形式的なものだから、適当でいい」と言ってはくれた。

 だけどこの際だ、名前が決まっていないのなら、決めるのもありじゃないかと思って。


「なるほど。村の名前か。うん、ねーな」

「あぁやっぱり。じゃあ、決めませんか? こうして人が増えたことですし」


 もともと30人だった村の人口は、東の集落から16人加わって今は46人。俺も入れて47人だ。

 決して多くはないが、これからのことを考えれば名前はあっていいと思う。


「そうだな。食料問題もじょじょに回復しているし、ここらで村らしくなってみるか。それで、どうやって決める?」


 こういうことを言うってことは、何も考えがないってことだな。

 まぁそういうことなら……。


「クローディア。君は文字の読み書きはできる……よな?」

「あ、当たり前だ! ダークエルフを見くびるなっ」

「よし。なら手伝って欲しいことがある」


 彼女にもし犬耳と尻尾があったなら──きっと耳はピンと立ち、尻尾はぶんぶん振っているだろう。

 そんな顔を見せた。

 反対にセレナはしゅんとしている。


「わ、私じゃダメなんですか?」

「うん。セレナはこの村の住民だから、村の名前を考えて貰う立場だからね」

「え? わ、私も村の名前を考えるんですか!?」

「そう。ここの村人全員でね」






 まず村人全員に木片を配った。

 紙がよかったのだが、それはこの村には無い。そのうち錬成魔法で大量生産しておかなきゃな。


 自分で考えた村の名前を、その木片に炭で書いて提出。

 名前が思い浮かばなければ何も書かなくてもいいから、提出だけはする。

 誰が何を書いたのか分からないようにするために、俺の家に村人がひとりずつ入って、家の中で書いて箱の中に入れて貰うようにした。


 全員が提出し終えたら、木片に書かれた村の名前案をクローディアが看板に書き写す。

 あとは村人全員で、これがいいと思う名前に投票して、もっとも票の多かった名前に決定する。


「──という感じにやろうと思っているんだ」

「なるほど。投票制なら、そりゃあ誰も文句を言わねえだろう」

「クローディアは木片提出の場にも立ち会って欲しい。複数の木片を入れたり、他の人の木片を見たり捨てたりしないか、見張っていて欲しいんだ」

「ヨシ、任せろ!」


 では準備だ。


 まず木片だ。

 建築資材の残りがいくらでもある。もちろん無駄に残しているのではなく、冬に備えた暖炉用の薪にするためだ。

 その一部を貰って、かまぼこ板のようなものを村人の数だけ作る。


「"風切りエア"──もういっちょ"風切りエア"」


 風の魔法でシュパパパパと木材を切り刻む。

 そしてあっという間に47枚のかまぼこ板が完成。

 それを村人全員に配って回り、提出は明日のお昼過ぎから夕食までの間とする。

 明後日の朝からクローディアに書きだして貰った村の名前案の一覧を家の前に置いて、昼から投票開始だ。


「ケンジさんも何か考えるんのですか?」

「貴様が考えた名前を目立つところに書いてやるぞ」

「それがズルになるから、止めてくれ。というか、誰にも教えない」


 かまぼこ板を一枚持って、俺は家へと帰った。

 そこにクローディアが着いてくる。


「ク、クロちゃんはダメぇっ」

「くっ、何故だ! 何故邪魔をするっ」

「邪魔をしているのはクロちゃんの方でしょ」

「貴様のほうこそ邪魔なのだーっ」


 うん、仲良さそうだからセレナに任せよう。


 ひとりで自宅へと戻って、かまぼこ板と向かい合う。


 名前……自分であんな案を出しておいてなんだが、村の名前なんてさっぱり思い浮かばない。

 こういう時は、日本の記憶に頼ろう。


 何かのゲームにあった村の名前とか、思い出せないか?

 思い出すならRPGだな。MMOでもいい。

 うぅん……うぅ……ん?


 そういえば、こんなのあったな。

 人々が行きかい、交差する絆の物語──とか、そんな感じのゲームだったはず。

 ゲームのタイトルは、クロイス物語──だっけか。


 クロスを捩ったものだとかなんとか、開発スタッフのコメントで見た気がする。


 人々が行きかい、交差する……か。

 よし!

 竈に行って炭を──炭──うん。この家で料理なんてしたことないもんな。ある訳ない。


 それならばとセレナの家で貰おうと尋ねていくと──


「ふふふ。彼が初めて出会ったのは、私なのですっ」

「くっ。で、出会いが早いほうが勝ちではない! 先に愛された方が勝ちなのだ!」

「うっ、そ、それはそうだけどぉ」


 なんの勝負をしているのだ、いったい。

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