第11話:さっそく素材発見

「セレナも行くのかい?」


 翌朝、森へ出かける支度をしていると、家の戸をノックする音が。

 戸を開けて立っていたのはセレナで、しっかりと装備を整えた姿だった。


「ケンジさんはとてもお強いです。だからきっと、おひとりで行かれても危なくないんだろうなって思います」

「んー。ま、まぁ平気かなとは思うけど。でもそう思うなら何故?」


 俺の言葉に瞳を輝かせたセレナは、ふんすと鼻を鳴らしてぐいっと一歩踏み出した。

 なので近い。彼女の顔が非常に近い。


「ケンジさん。途中の食事はどうされるんですか?」

「あ……」

「ふふふ。私がいれば、その場でご飯が食べられますよ?」

「くっ。なるほど、その通りだ。よし、一緒に行こう!」

「はいっ」


 パンがないのでサンドイッチとか、そういった弁当を作って貰うこともできない。

 野菜炒めを弁当にするにしても、皿ごと運ぶことになる。

 彼女に来てもらって、森で料理してもらうのもありだな。


 料理器具も準備していたセレナ。それを受け取って空間倉庫に突っ込み、家を出た。

 オッズさんに挨拶して森へ行くことを告げると、昨日この村に移住してきた男がやって来た。


「森へ行くと聞いた。あまり奥へは行かないほうがいい」

「え? 何かあるんですか?」


 むしろ奥へ行こうと思っているのだが。


「俺たちの集落でも、食料や魔石確保で森へ狩りに行くことがあった。俺も何度か行ったことがある」


 数人のグループに分かれ、交代で森へ入っていたと彼は言う。

 それぞれのグループは、森へ入る前に事前にどの方角で狩りをするか話し合うのだそうだ。


「それでだ。森の奥に向かったグループが、帰ってこなかったんだ」

「行方不明ということですか?」


 彼は頷き、探しに向かった別グループもまた、戻ってこなかった……と。


「だから森の奥には行くな」

「……分かりました」


 麦を手に入れるため、森の奥へはどうしても行かなきゃならない。

 だが心配して言ってくれたのだろう。今はそう返事をするしかなかった。






「っと、まずはここからスタートだ」

「は、はい」


 相変わらず、お姫さま抱っこで頬を染めるセレナを地面へと下ろし、戦闘準備を整える。


「ケンジさん、森の奥へは……」

「目的は二つ。一つは魔石集めだ」

「はい」

「もう一つは麦だ。小麦を栽培するためには、どうしても種が必要になる」

「そう、ですね」


 町へ買いに行くという手段もある。

 魔石は町に持っていけば売れるというし、野菜に余裕ができればそれを売ることもできる。

 むしろ野菜のほうが高額かもしれないとまで、オッズさんは言っていた。

 持ち運びは俺の空間倉庫が使える。


 問題があるとすれば、最寄りの町まで一カ月の距離ということか。

 帰りは空間転移があるからいいが、行きは俺が知らない土地なので歩くしかない。

 野菜だってすぐに人さまに売れるほど、収穫できるわけでもない。


 だったら自生している小麦を見つけてきた方が早いし、何よりタダだ。

 タダより安いものはない!


「さっきの方が仰っていた、狩りに行った人が帰ってこないというの……なんだと思います?」


 セレナはだいぶん不安そうだな。

 まぁ考えられるのは──


「高ランクの魔物がいる……とかかな?」

「や、やっぱりそうなりますよね……」

「うん。まぁ大丈夫だと思うよ」

「へ?」


 彼女の不安を拭うために、その頭にぽんっと手を載せ撫でてやる。


「君だって弓の腕はかなりいいほうだ。俺の友人に弓使いがいるが、彼女の次ぐらいにはいい腕だと思う」

「かの──じょ、女性の方なんですか?」

「ん、そうだけど」


 セレナが真っ白になった。

 どうしたんだ、突然。


「こ、ここ、こ、こ」

「だ、大丈夫かセレナ?」

「だだ、だ大丈夫です。そ、それより、ここ、こ、恋人だったんですか!?」


 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ?


 誰と誰が?

 首を傾げていると、セレナが「違うんですか?」と再び尋ねてくる。

 もしかして弓使いの友人──弓華のことか?


「いやいやないない。もしそんな噂が少しでも立ったりしたら、一騎に殺されてしまう」

「こ、これされっ」

「あ、一騎っていうのも俺の友人でね。その弓使いの彼氏さ」

「え……じ、じゃあ……その弓使いの女性は、ただのご友人なのですか?」

「そうだけど。友人って言ったはずだけど、言わなかった?」


 セレナは慌てて首を左右に振る。

 ぷるぷる振るもんだから、あっちもぷるぷるしちゃって。

 だから目のやり場に困るんだって。


「ふ、ふふ。さぁケンジさん! 頑張って狩りましょう!」

「お、おー?」


 突然張り切りだすセレナに、俺はやや困惑しながら彼女に付与を施す。


「"始原の根源たるマナよ。我が内なる魔力よ。敵意ある力を阻む、見えざる盾となれ──魔力付与防盾エンチャント・シールド"」

「はわっ。な、なんですか?」

「俺の魔力で作った見えない盾を付与した。これで物理と魔法、両方の攻撃を防げる」


 それから彼女の持つ弓矢に火属性効果を付与。

 森の魔物は動物タイプや植物タイプが多い。これらの弱点は火だ。


「あとは矢だな」

「矢ならありますけど?」


 確かにセレナの背中には矢筒がある。

 中にはだいたい20本弱の矢が入ってて、彼女は獲物を狩ったあとに矢を回収している。

 だけど折れることもあるので、出会ったときから比べると、本数は確実に減っている。


「必要なのは矢じりに使える石と、羽根。まぁ棒はその辺にいくらでも落ちているからいいとして──お、さっそく素材発見」

「え? え? そ、素材ですか?」


 そう。矢の素材──羽根だ!


『クワァアァァッ』

「"紫電ボルト"」


 必要なのは羽根。故に相性のいい火属性魔法や風魔法で仕留める訳にはいかない。


『グワッ』

「よし。羽根を傷つけず仕留められたな」


 落下してくる体長2メートルほどの鳥をキャッチ。

 矢に使う羽根はこれで十分か。

 次は矢じりに使う石だが……。


「セレナ、矢を一本見せてくれないか」

「矢、ですか? どうするんです」

「それをお手本に、矢を量産するんだ」

「りょ、量産?」


 ふんふん、こんな形だな。


 石を手のひらに載せ、魔力を鋭利に研ぎ澄ませて石にぶつけていく。

 そうして出来上がった矢じりと、風の魔法で伐採した枝、そして羽根を──「"錬金魔法アルケミストマジック"」で組み合わせる。


「ざっとこんなものかな」

「ええぇぇぇっ!? ざ、ざっとって……100本以上あるじゃないですかぁ」


 じゃあ次は空間収納機能のある矢筒を作るか。

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