名探偵は子供の頃何をしていたか?

山岡咲美

名探偵は子供の頃何をしていたか?

 あの頃の僕には全てが手の中に有るように思えた。


その日は雨が降っていた、小学校6年2組の教室は暖房が強く効いておりその教室には6人の生徒がいたが内5人が上着を椅子に掛けシャツの袖を捲る程暑かった。


「つまりさ、ペットボトルの蓋を元に戻すのは可能なんだよ」


僕は友人の女の子アイコちゃんに1度開けたペットボトルの蓋を2つのペットボトルを使い元に戻すというトリックのアイデアを話して居た、アイコちゃんは寒がりで唯一袖を捲らなかった生徒だ。


「へーそんな方法が有るんだ」


「そうなんだ製造課程を考えれば誰でも思いつく事だよ」


僕は得意気にアイコちゃんに話しアイコちゃんはその話を楽しそうに聞いていた。


僕は小学校当時推理小説家に成りたいとか言っていた、警察は人海戦術だし探偵は事件捜査しないって事を既に知ってしまっていたからだ。


「毒とか入れ放題だね!」


「確かにそうなんだけど、問題は監視カメラだ、例えばスーパーマーケットやコンビニエンスストアには監視カメラがあるから毒を容れて戻すのは難しいし自動販売機に入れるには業者の人しか無理でしかも記録が残る」


「取り出し口に入れとけば?」


「同じ商品を偶然買われ無いと難しいし2つ有ったら怪しいと思われるよ」


「私ならラッキーって思っちゃうけど」


「そんな運まかせの犯罪なんて推理小説としてダメだよ」


「じゃ普通に買ったって事にしてパーティーとかで飲ませるのは?」


「基本、身の回りの人に危害をくわえれば真っ先に犯人と疑われるよ、だから無作為の方が捜査線上に浮かびにくいんだ」


「愉快犯ね」


「そ、愉快犯を探偵、予定では警察組織に弾かれた科学捜査の研究者が犯人を追うって話になる予定なんだ」


「どんな所が狙われるの?」


「例えばアイコちゃんのうちとかだよ」


「うち?」


「そう、アイコちゃんのうちはチッサイ商店だけど」


「チッサイ言うな」


「ごめん」


「回りにお店が無いから客の入りはいい、更に国道に面して居て知らないお客がフラッと立ち寄る」


「あっ、愉快犯!」


「そう、見ず知らずの犯人が監視カメラの無い所で犯行を行えるんだ」


(本当はもうちょと……)


***


起こりうる最悪の事態は必ず起こるらしい。


学校は毒入りペットボトル事件の話でもちきりだった。


「教室に居たのは6人です、僕とアイコちゃん、たぶん刑事さんにその事を話したアズキちゃんとその友達のミキちゃんユウキちゃん、あとはずっと本読んでた二階堂さんです、そのペットボトルトリックの話をしたのはその日だけでそこ以外では話していません、アイコちゃんのうちには何度か行きましたがお店の中には入ってません、いつのアリバイが必要ですか?」


「……」「……」


「何ですか?」


男女の刑事さんは顔を見合せたあと、男の刑事さんが僕に質問の続きをした。


「イヤ…9日前の日曜日だよ、その日は何を?」


「2つ前の日曜日ならアイコちゃんのうちに行きましたがさっき話した通りお店には入ってません、アイコちゃんの部屋でサイダーを飲んでライトノベル小説の話をしていました、チッサイ…かわいい感じのお店なので入ればおじさんかおばさん、アイコちゃんの両親が気づくと思います」


「サイダーはペットボトルで飲んだ?」


女の刑事さんがそう聞いて来た。


「ええ、そうですけど…」


次の日鑑識の人が来て僕の指紋を取っていった。


警察はバカじゃ無い、当然僕は第一容疑者だったが僕のトリック話を聞いた全員に容疑がかかった筈だ、タイミング的に外部犯の可能性は低い(確率論の話だ)。


アズキちゃんはやっぱ迂闊な人だな…ウッキウキで僕が犯人だと警察に言ったのだろうけど自分にも疑いがかかるとは思わなかったのか?巻き込まれたミキちゃんとユウキちゃんがかわいそう…僕を困らせようといつも画策してるが裏目だよ。


二階堂さんはどうだろう?興味無さそうにはしてたけど、二階堂さんも結構推理小説マニアだし可能性はあるかも?


次の日僕はアイコちゃんに聞いた、アイコちゃんは家の事で大変なのに学校へ来ていた。


「ねーアイコちゃん、二階堂さん僕と同じ日にお店に来た?」


「うん朝来たよ、近所だからジュースとか良く買ってくれるの、サイダーとか」


アイコちゃんは休みの日、良くお店のお手伝いをしていた…。


***


警察の答え


「僕の指紋がペットボトルに残って居たんですか…」


この前の刑事さん達が家に来て僕にそう話した、本来なら警察所か児童相談所で取り調べがあってしかるできだろうが彼等の見立ては違っていた、確認作業だった。


「犯人は彼女ですね…」


「……」「……」


警察の見解も同じだった、警察は最初に回収したペットボトルから出た小さな指紋から未成年者の犯行を予測、慎重な捜査をしていたらしい。


安戸あどアイコは逮捕(補導)された。


容疑は自宅商店においてペットボトル飲料に農薬を混ぜ販売し客に飲ませた殺人未遂だ。


***


この物語にどんでん返しはありうるか?


「シオンくん…もしかしてシオンくんは最初から私が犯人たって解ってたの?」


潰れた店舗兼住宅を離れ親戚の家に引き取られる日、見送る僕にアイコちゃんはそう言ってきた。


「いや最初はアイコちゃん、アズキちゃん、二階堂さん、少ないけどミキちゃんとユウキちゃんの可能性もあったと思って居たよ」


「あの場所に居た全員が探偵のあなたを引き立てる容疑者だったんだね」


「探偵なんて馬鹿げた商売無いよ」


「ねえもしかしてシオンくんは誰かがあのトリックを…」


アイコちゃんはそう言い掛けて止めた。


「私がした事が無くなる訳じゃないのにね」


「アイコちゃん僕言ったろ?運まかせの犯罪なんて推理小説としてはダメだって」


僕は少し笑って見せた。


「メールして良いかな?」


アイコちゃんは申し訳無さそうにそう言った。


「もちろん!」


僕は少しの下心と共にそう言った。


アイコちゃんは親戚のおじさんの車でこの街をさっていった。


***


名探偵を目指す少年は何を思う?


「もしあるとしたらアイコちゃんだと思ったよ、でもアイコちゃんが僕のフィクションを別の犯人にミスリードさせ警察を真犯人アイコちゃんから遠ざけるって言う新しい要素を足してくれるとはね…」



「あ、僕なら気づくと信じてたのか!」



アイコちゃんだけが強い動機があった、なぜアイコちゃんは寒がりなのか?


ボクは穂高ほだかシオン、彼と同じイニシャルってだけで名探偵に憧れ友達あのひとを失ったバカな男である。


アイコちゃんの罪も僕の失態も消える事は無い。



メールは帰って来なかった…

                END

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