第17話

「あ、あれは!?」


前回、倉庫から運び出された器具を見てタクが叫んだところまで進んだ。


『夏の大会に向けて、体育館オールで使いたいから貸してくれんかね?バトル』はバスケ部、卓球部がそれぞれ相手の競技で勝ち星をあげるという白熱の展開、勝負は運命の3本目のバトルまでもつれ込んだ。


「あ、あれって...」「ゲーセンとかボーリング場にあるやつだよなぁ...」「はい、ありがとうございますー」


運び出してくれた友人達に礼を言うとぼくはその遊具を前にしてみんなに第3本目の勝負を発表した。


「最後のバトルはエアーホッケー対決~!卓球台の外見を持ち、パックを奪い合って攻撃をするバスケの両方の特性を持ち合わせたこの台で勝負だ!プレーヤーを決めてくれ~!」



「エアホッケーかよ...」「これどっから出したんだ?」「去年学祭の出店であったろ?補助電源、ケーブル繋いで!」「はいはいー」


ぼくが友人達に主電源をとってもらうとエアホッケー台のスイッチを起動した。


ブワー、と強烈なエアーが台から噴出されて、パックと呼ばれる黄色い円の球が浮かび上がった。


エアホッケーはこれをマレットという、プラスチックのラケットのようなもので打ち合う。


対戦ルールとしては基本的にプレーヤーは2対2で7点先取した方の勝ちとなる。


「なつかしー。これホンジャマカが月曜日にやってたヤツだよね!?」泉先パイが年甲斐もなくはしゃぎだした。


「エアホッケーかー。なんとなく予想してたけどいいアイデアだね」

「えっ、予想してたんすか?マツ部長!?」


「あ、オレ審判やりたい。関口忍、なんつってね」そう言うとマツ部長がぼくから司会のポジションを奪い取った。


「最後の戦いなんだし、発案者のふたりが闘うべきなんじゃないかな?」「そ、そうですね!」「ホーホッホ!その眼鏡を私の指紋でベタベタにしてあげるわ!」「なにを!」


ぼくと里奈がホッケー台越しに睨み合った。すると背後に大きな気配が近づいてきた。


「モリア、オレを覚えているか...?」ゴゴゴ、という巨大なオーラに振り返るとそこにはTシャツ一枚の坊主頭の生徒が立っていた。


「お、おまえは!?」ぼくが声をあげると少年は怒りのこもった声でぼくに向けて啖呵をきった。


「オレの名前は神谷陽一郎!おまえの嘘の証言によって合宿中、ブスの部屋に夜這いを仕掛け、それをそこの田中いすずに録画されてバスケ部を謹慎されるハメになった男だ!!

本田モリア!田中いすず!オレと勝負しろ!!」


「神谷、おまえ...」「謹慎処分になったんか...」「そんなの知りませんよ!自分が悪いんじゃないですかっ!」「うっせー!オレはあの部屋に三菱さんがいるって聞いてたんだよ!!」


「ねー、なんのはなしー?」「い、いや!こっちの話っすよ!コッチのハナシ...」


綾香さんのまっすぐな視線をみて神谷は視線を落とした。「とにかく!オレと勝負してもらうからな!これでオレが勝ったらオレをもう一度バスケ部員として迎え入れろ!おまえら!」



「えー、どうする?」「嫌じゃね?」「こら!そこ!...じゃあ分かった!オレが勝ったら卓球部の女子マネひとりがバスケ部に入るってのはどうだ!?」



「...ん?.........うおぉぉぉおォォ!神谷、おまえ、天才!!」「俺ら、お前を応援するぜ!」



バスケ部連中が一気に手のひらを返し始めた。まるで手首にモーターでも付いてるようだ。そして彼らの視線はもちろん綾香先パイの体に注がれた。


「おーし、おーし。お前らの言いたい事はよく分かる。三菱綾香さんがバスケ部に入ったらこのユニフォームを着てもらってマネジメントに勤しんでもらう!」


「え、うそ?」「おー!神谷!よく言った!」神谷が背中から出したバスケ部のユニフォームは大きく胸元が開いた丈の短いタンクトップ型で、脇の下にも大きなスペースが空いていた。


「上からも、横からも、下からも!陸海空、おっぱい大爆撃!!!」


「ヒャッハー!」「カミヤさまぁ!カミヤさまぁぁ!!」


「ちょっと、大変な事になってるケド...」「あいつら、勝手な事言いやがって」タクが拳を握ると綾香さんが恥ずかしそうにうつむいて呟いた。


「わたし、卓球部のマネージャー、辞めたくない」


ぼくは短くため息をついた。こんな勝負、受けられるワケがない。練習量が増えないのは残念だけど、その分あたまを使って工夫して、濃密な練習をしよう。



「その勝負、受けてたとう」「まじで!」「うっひょー!セクシーマネジカモーン!」「ちょっと、何言ってんすか!?」


腕組みをしてこの勝負を承諾したのは初台先パイだった。


「ま、負けたら綾香先パイがバスケ部のマネージャーになっちゃうんですよ!?そんなんじゃダメだ!もっと他の方法が...!」


「大丈夫だ。モリア心配するな」「なにを根拠に...!」ぼくはすっかりテンパってしまった。このゴリラ顔の先パイはいきなり何を言い出すのか。バナナを食っていない禁断症状でも起こってるのではないだろうか?


「モリちゃん、人はなんで車に乗ると思う?」壁に背をつけたマツ部長がぼくに問うた。


「そ、そんな事急に言われても!」「便利だからですか?」空気を読まずに田中が質問に答えた。


「正解は複数ある。すずちゃんの答えも正解。たぶんハツが言おうとしてる答えも正解。事故を恐れてちゃ車に乗る事はできない。

素晴らしい景色に出会う事は二度とない。だから恐れずにこの勝負うけるべきだと思うよ。きっとそのあとには素敵な風景が広がってるはずだから」


「部長、詩人っすね...おれ、感激したっす!」「たく、なんだよ、この人達は」


マツ部長のポエミーな表現に目をキラめかせるケンジを見てぼくは悪態をついた。彼らは事の重大さをわかっていない。


「だって!負けたら綾香先パイが!」「わかってるモリア。もう言うな」そう言うと初台先パイが笑みを浮かべてホッケー台を見下ろした。


「このゲームには必勝法がある」「え!?なんだって!?」



☆難聴のモリア!またしても続く!!

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