第16話
放課後の体育館、更衣室の前に卓球部員全員とバスケ部員が集まり、提案者であるぼくの発言を待っていた。
頃合を見計らうとぼくはみんなに向けて声を張った。
「皆さんに集まってもらったのは、今後の体育館の使用についてです!ぼく達卓球部は夏のゼンチュー大会に向けてガッツリ練習したい!
だから、土曜日と水曜日、オールコートで練習させてください!!」
「それはダメよ!」ぼくの声を聞いてバスケ部のマネージャー小松里奈が挙手をする。同じ女子マネの七海さんが心配そうにその姿を見守る。
「私達は合宿の打ち上げで決めたの。バスケ部として夏の大会ではみんなで練習して10年ぶりの初勝利をあげましょう、って。
ウチらはバレー部なんかと違ってみんなやる気なの。そうでしょ?みんな?」
里奈が部員達を振り返った。「ま、まあ」「そうだよな」顔を見合わせながら口々に部員達はそう呟く。
「ふたつ意見がぶつかったとなりゃあ、争いは避けらんめぇ。こいつぁ、ひとつ、勝負と行きませんかねぇ、先パイガタ~」
歌舞伎のカタのようなべらんめぇ口調でトヨケンが啖呵を切った。台本通りだ。タクが勢い良くステージに上がって黒幕を引き、ぼくは書道部に書かせた掛け軸を読み上げた。
「第一回、チキチキ、バスケ部対卓球部、3本対決~」ドンドンドン、パフパフ、バシャーン!
「おおっ」「なんだっ!」
2階の観客席から吹奏楽部による効果音が響く。ぼくがそこに手を上げると吹奏楽部の二川君がウインクを返した。
廊下で練習していた彼らに効果音、及びSEとして応援要請を出したのだった。
「3本対決、って何をするんだぁ?」呆れた顔をしたバスケ部員達にぼくは競技を説明した。
「お互いが得意な競技で決めましょう!」「ってことはバスケと卓球か?」
「でも、そのまま1on1やダブルスをしたところで勝負は決まってる。だからハンデ、すなわち限定バトルをしようって事でしょ?」
「その通り!」「いいから競技を決めなさいよ」
福岡のお笑い芸人のように目をひん剥いて見せたぼくをみて里奈は鼻で笑った。
「3本勝負、1本目はフリースロー対決~!」
「イ、イエ~」「ホントにやんのかよ...」
イマイチ乗り切れていない両部員達を仕切りながらぼくは声を張り上げてゴール下についた。
「今からバスケ部、卓球部で交互にフリースローを投げて頂きます。
決めて当然のバスケ部は1点。卓球部は2点です。時間の都合で
「それじゃあ、卓球部が先に2本決めたらその時点で勝ちじゃねーか!」「キタネーぞ、モリアー!」「ホモメガネー!」「金返せー!」
「だーかーらー、話を最後まで聞けっつの...」ぼくは呆れながら文句を言い出すバスケ部員達を見て髪をかきあげた。
「オレ達の方が得点的に有利だから、投擲者をお前らの方で決めていい」
「おれ達の方で対戦相手、決めていいって事だな!?」「おれ達がタイセンしたい相手といえば~?」「おお~~」「な、なんだ!?」
男子バスケ部員達はひとつの固まりになるとまるでホームランを打った阪神タイガースのベンチのような構えを見せ、そこから一気に両指でひとりの生徒を指差した。
「おっぱいバスケ、三菱綾香~!」「え?わたし?」「ウヒョォォォォォ!!」「...たく、これだから男子部員は...」
バスケ部マネの里奈と七海さんが頭を抱えた。
「え?わたしでいいの?」「...オッス、おねがいしまーす」ぼくがバスケットボールを手渡すと綾香先パイのタンクトップの両房が大きく揺れ上がった。
それを見てバスケ部員共がヒョォォォォォ!!と野蛮人のような奇声をあげる。
「それでは、三菱綾香選手、よろしくお願いしますっ!」「選手だなんて、そんな」フィ、と吹奏楽部が笛を吹いた。「頼みますよー三菱先パーイ」「おっパーイ」
フリースローラインで飛び跳ねる綾香さん、大きく上下に揺れる胸、飛び上がるバスケ部員、拳を握って雄叫びをあげる居残ったバレー部員。
綾香さんの一連の動きはまるで体育館中の時間をスローに変えてしまうだけの魅力があった。思わずぼくも息をのんでいた。
ガコン!ボールが枠にぶつかり、そのままネットに吸い込まれた。
「うしょー!やったぜ!」なぜか歓声をあげたのはバスケ部員達だった。
「こら!あんた達!相手が得点したのになんで喜んでんのよ!」すかさず里奈がツッコミを入れるが男子部員達のテンションは留まるところをしらない。
「ささ、三菱さん、もう一球!」「今のコツ、忘れないで!」「え?もう一球?」バスケ部員が綾香先パイにボールを手渡した。やれやれ、という風にぼくは司会を続けた。
「それじゃー、3球続けて綾香選手には投げてもらいまーす!」「うほぉぉおおおお!!」「さっすがぁー、モリアさま、話がわかるッ」
「じゃ、いっくよー?」「どうぞー」ゴクッ 「くるぞ...くるぞ...」
「キタ――!」
さっきと同じようにどよめくバスケ部員、弾む綾香先パイの体。ネットに収まるボール。うん?ネットに収まるボール。吹奏楽部がフィ、と笛を吹いた。
「えー、これで綾香選手、トータル4点獲得という事で...この勝負、卓球部の勝利~」「ええ?ちょっと待ってよ!?」
「いよー!三菱さん!いいもん見せてもらったぜー!」「ありがとう..ありがとうっ..」「神に感謝」
里奈がぼくに食い下がったがバスケ部員達は綾香先パイを拝むようにして見つめている。
「へへっ、勝っちゃった!」「おめでとー」「ナイスですよ!三菱先パイ!」同じ卓球部の女子マネである泉先パイと田中がハイタッチで彼女を迎え入れた。
ひとり、納得のいかない里奈がバスケ部員達に怒気をぶつけた。
「ちょっと、アンタ達!素人のおんなに負けて悔しくないの!?バスケ部として毎日ゴールに向かってシュートしてるってトコ、見せてやりなさいよ!」
「えっ?おれ?」里奈に指名させて『くの字』のままの男子部員がフリースローラインからシュートをうった。もちろん入らなかった。
「3本勝負、2本目は限定、卓球対決~!」「オウイエ~!アハーン!」「だれだバンプ歌ってるヤツー?」「ギャハハ!」
1試合目の『ビッグボムの衝撃』以降、がぜん盛り上がる参加者一同。吹奏楽部による演奏が終わるとぼくはルールをみんなに説明した。
「2本目は卓球で対決をつけてもらいます。時間の都合で11点先取の1ゲーム勝負。ちなみに2対2のダブルス。交互に打ってもらいます。
卓球部が絶対有利なので、今回もバスケ部員が対戦相手を決めてください」
「卓球だってよ...」「卓球、得意なヤツいる?」急にバスケ部達が長めの相談タイムを始めた。「はよ決めーや」なぜか関西弁でタクが連中をあおる。
「じゃ、じゃあ私が」バスケ部マネージャーの七海さんが小さく挙手をした。「おっ、まさかのマネージャー対決か?」「負けませんよ!」
普段から卓球ウェアの田中が鼻から息を吐く。
「えっと、早川くん、一緒に組んでくれる?」「え?おれ?いいけど」背の高い2年生エースが立ち上がった。
「ん?私じゃないのー?」意外そうな顔をする里奈を横目に七海さんはもじもじしながら対戦相手を指名した。
「私が勝負したいのは...1年生の赤星すばるくんですっ!」
「おおー」「女子の特権、大胆な告白キタ━!」「ちょっと、アンタ達、冷やかすのやめなさいよ」
「えっ?ぼく?」一番驚いたのは指名されたすばるだった。ちなみに今日は本人的にOFFな為、中ニモードではない。
「なんでぼくなんだろ?あの人とは一度も話したことないはずなのに...」「たく、イケメン君は鈍感だなー」
「もうひとりは、松田忍さんでお願いしますっ!」「おおー」バスケ部員が白々しく声をあげる。
この場にいた誰もが思っただろう。『ああ、この人、面食いだ』って。無論そんな野暮な事は誰も口には出さなかった。
「ご指名ありがとね!でもゴメン、オレお腹痛いから、この勝負パス」「ひゃは、そ、そうなんですか。病弱設定もあるだなんてますます尊敬しちゃいますっ」「はぁ...」
「じゃ、ケンジ、おまえでいいや」「な、なんすか!?その投げやりな決め方!」
そういう事で、2本目の卓球勝負の挑戦者はバスケ部 早川&七海ペア、卓球部 すばる&ケンジペアに決まった。
「よっしゃ!やってやるっすよ」「なんか新鮮だなー、卓球部以外の人と卓球するの」
やる気満々のふたりにぼくはある道具を手渡した。
「よし、卓球部のふたりはラケットの代わりにこれを使ってくれ」「こ、これは?」「そうだ、これが限定卓球。今回のハンデアイテムだ」
「すばるにはご飯をよそう『しゃもじ』」「うわ、なんかイボイボが付いてるー」
「ケンジには...マンホールのフタな」
「重っ!てかこんなのどっから持ってきたんすか...」
「はい、試合開始ー」ピー
「いっくよーすばるきゅん!」「うわっちょっと!」「重てぇー!」
吹奏楽部がゲームを盛り上げる。しかし、1年ペアは試合の経験不足とハンデの大きさからどんどんと失点を重ねていく。
「うふふ、すごーい。卓球って面白ーい」七海さんがひとり嬉々としてラケットを優雅に振り回していた。
「はい...!11対3でバスケ部の勝利~」「やったー!勝ったよ~」「お、おう」背景に花を咲かせる七海さんをバスケ部員達が生暖かく迎え入れた。
「これで1勝1敗か...」「お互いの得意分野で負けてるなんてだらしねぇな」「どーすんだ、モリア?」
タクに問われてぼくは倉庫でスタンバイしている生徒達に向けて口笛を吹いた。
「こういう事もあろうかと、3本目の勝負も決めてある!あれを見よ~!」
ガラガラガラ!勇ましく吹奏楽部のロッキーのテーマが鳴る中、倉庫のドアが開くと第3本目のバトルで使用される器具が運び込まれた。
「あ、あれは!?」タクをはじめとする部員達の声が体育館中にこだました。
☆まだ続きます。お突き合いお願いします。
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