僕らの体育館戦争
第14話
「なに!?練習日を今の週3から週6に増やしたいじゃと!?」
「はい、そういうことです。よろしくお願いします」
ぼくが卓球部の顧問である2年の国語教師、竹岡センセイに練習量の増加を求めたのは合宿が終わった次の日の放課後だった。
終業後の職員室の一角には、ぼくとタクと竹岡センセイ、少し離れた場所に卓球部部長のマツ先パイが立っていた。
吸っていたタバコの煙でむせる竹岡センセにぼくは話を続ける。
「今の練習量じゃ全国に出るレベルの選手とは戦えません。もっと練習してうまくならなきゃゼンチューなんて出られる訳がない。
今以上に効率的なトレーニング方法を取り入れて練習時間を増やす必要がある。そのために体育館の使用許可をお願いします」
「えっと、おまえら今、週何回、体育館使っとる?」
「はい!体育館での練習日は月・火・金の週3日。土曜日に自由参加で技術室横の廊下で壁と階段を使った練習をしてまーす」
数学教師と授業の問題点を話しあっていた田中がメモ帳を開きながら竹岡センセに答えた。
「それじゃ足りんのか?本田?」タバコの吸殻を灰皿に押し当てながら竹岡センセはぼくに問うた。口から吐く息がとても苦く、ヤニ臭い。
「はい。最低でも週に二日はオールコートで足を使った練習やロビングの打球に対する戦い方を覚えていかないと。それじゃないとこの先やっていけませんから」
「おー、モリア、まじでやる気じゃん」ぼくの横でタクが驚いたように、少しバカにしたようにおどけた。マツ部長はいつもの細目からぼくをニヤリとした表情で見つめていた。
竹岡センセは新しいタバコに火をつけると、大きく煙を吐き出しながらぼくに言った。
「お前なぁ...体育館は卓球部の他にもバレー部、バスケ部もつかっとるんじゃ。いくらおまえさんのやる気が満ち溢れとると言っても急に練習場所は確保できんよ。
それにオールコートで練習したいといったな?お前ら部員、選手は何人じゃ?」
「7人です」田中が即答する。「倉庫に卓球台は何台ある?」「3台です」「じゃったらハーフコートで練習出来るじゃろ。ゼータクいっちゃいかんよ」
「で、でも!...」「えー、体育館の使用のことでしたら...」食い下がるぼくを見返るようにバレー部の根津センセイがぼくらに声をかけた。
バレー部らしくない、小柄な教育者で丸眼鏡をかけた気の弱そうな30代のセンセイだ。
「月曜日、私達バレー部も体育館使ってて、いや、オールコートで練習してるんですが、月曜日ということもあってかなかなか部員の集まりが悪いんですよね~。部員のなかには『月曜日は休養日』、なんていう部員も出てくる始末で...いや、だからバレー部はこれから月曜日は休みにしちゃおーかなー、なんて考えてるワケでして...」
「ほんとうですか!?」思わず根津センセイの両手を握りしめていた。
「モリア行動早っ!」「目がキラキラしてますよ!モリアさん!」
「えっ、いや、まだ仮定の話で...決まりってワケじゃないけど...」「いーじゃないですか!休養歓迎!じゃんじゃん休んじゃいましょう!」
「フフ...どうやらホントにやる気になったみたいだね」マツ部長は壁にもたれ掛かってニヤリと微笑んだ。
合宿での練習試合で港内中の山破ショージという2年生に敗れてからぼくの心に火がついた。
ぼくは彼との対戦で1点も取ることが出来なかった。それはぼくの短い卓球人生の中で一番の屈辱で挫折だった。
彼に借りを返したい。始めて『卓球が上手くなりたい』と思わされた。
全国には彼と同じかそれ以上のプレーヤーがわんさかいるに違いない。彼らと同じ舞台で闘うには今まで以上の練習量、経験が不可欠という事を実感し、体育館の使用許可を得に職員室に申し出に来たのであった。
「えっと、じゃー月曜日がオールコート、それと木曜日もハーフコートで体育館を使わせてもらえるという事で、よろしいんでしょうか?根津センセイ?」
「はは、キミ達の熱意には負けたよ。ウチのバレー部もそれくらいやる気を出してもらえればありがたいんだが」
「よし!これで週5で練習が出来る!オールコートも1日使えるし、これで練習量を格段に増やせる!根津センセイありがとうございまーす!」
「はは...まだ確定ではないけどね。部員達に話してみるよ」頭をかく根津センセイの横で田中がスケジュール表にペンを走らせた。
「思ったよりもスムーズにいったね?」
職員室を出て廊下を歩いているとマツ部長がぼくに言った。「やれやれ。これで週5回で練習か...文字通り卓球漬けの青春ってワケね...さよなら、カラオケと寄り道の日々よ」
タクが観念したように頭の後ろで腕を組んだ。「いや、まだこれじゃ足りない。土曜日も体育館使いたいし、水曜日もオールコートで練習したい」「ふぁ!?」
「おい、モリア」タクが恐れおののいた表情でぼくに訊ねた。「おまえさっき、バレー部の顧問に『休養も大事』とかいってなかったか?」
「それは建前だっつの!やる気のない連中に場所を貸してやる必要はなし!」
「フフ...厳しいねモリア君は」
「えっと、水曜日と土曜日に体育館を使ってるのは...」
田中が眼鏡を押し上げながらスケジュール表を確認した。ぼくは体育館のドアを大きく開いて、中にいる部員達に大声で叫んだ!
「バスケ部!今すぐ練習やめてくれーーー!!」
一斉に振り返るバスケ部員達。体育館、場所確保なるか?続く。
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