第10話
「よろしくお願いしますっ!」
「...たく、どいつもこいつも...」
ぼくがラリーをひと通り終えると港内中の他の部員がテーブルの向いに立った。
みんな眼鏡をかけた似たようなオタク顔で見分けがつかない。卓球をやってるヤツはぱっとしない顔のヤツが多いのだろうか。
「エッス、じゃあ俺からサーブで」
「おねシャース」
ぼくがサーブを打ち込んで相手の眼鏡くんが対角線に打ち返す。コン、こんという打球音が体育館のあちこちから響いている。
4往復目のラリーで相手の打球がテーブルを避けて床に落ち、「すいません!」と相手の声が球を拾いに行ったぼくの背中に響く。
「ありがとうございました!」
「どうも、こちらこそ」
するとすぐに他の部員がテーブル脇に駆けてきた。「頑張ろうぜ!」「おう、そうだな」
南こうせつの後にさだまさしが出てきた。こいつらは朝まで生で音楽祭でもするつもりなのだろうか。
・・・
「はい!ラリーはもうおしまい!試合やるぞ!試合!!」
泉先パイにちょいちょいちょっかいを出していたむこうのカントク、茸村が部員達に向かって手を叩いた。
「いよいよ、か...」
ぼく達は自前の黒のジャージを床に脱ぎ捨てた。
「ちょ、ちょっと先パイ!」後輩のケンジがちょん、とぼくの肩を突いた。
「ホントにこのウェアでやるんすか?」「ああ、ミーティングで決めただろ?」
ケンジが恥ずかしそうにジッパーを降ろした。穀山中のアウェーユニフォームは黄色地で胸に白と黒の牛柄が描かれている。
「なんか...戦隊モノのヒーローみたいっす...」「だろ?カッケーだろ?」すでに下も脱いだタクがケンジを冷やかすように言った。
「よし!円陣組むぞ!」
初台先パイがみんなに呼びかけると6人が肩を組みひとつの輪になった。
「ほら、マネージャーも早く来てー」「えっ?あたしらも?」「えへ?いいんですかぁ~?」
泉先パイと田中も輪に加わった。田中のニヘラ笑いが止まらない。「そ、そんな...一度に7人も相手するなんて...らめっ」「この馬鹿...」「(あたしもカウントされてる...恐ろしい子...!)」
部員達が気合の入ったコールを始める。
「おら!気合入れろ!」「田中ァ!ヘラヘラすんな!」「ヒ、ハ、ハイ!」「そんなんじゃ勝てねーぞ」「ウス!」
「勝とうね、みんな」「まずは一本取ってこうぜ!」
「よっしゃ!イクゾー!!」「ホモ卓ぅー?・・・」「オイ!」「オイ!」「オイ!」「うおらー!!!」
輪がバラけるとぼくら穀山中卓球部は天井めがけて人差し指を突き上げた。円陣の暑苦しさだけだったら県内でもウチの卓球部が一番だと思う。
「松田!メンバー票を早く出せ!」「はいはーい、メンバーはこの通りでーす」
マツ先パイから対戦順の書かれた紙を受け取ると竹岡センセと茸村カントクがそれぞれのメンバー票を交換した。
「今から今日の試合のメンバーを読み上げる!心して聞くように!」「ハイ!」
メンバー票を右手で振りながら竹岡センセが声を張り上げる。
「先鋒、鈴木拓馬!」「ハイ!」
「次鋒、初台正義」「おっしゃぁあ!!」
「ダブルス1、豊田ケンジ!と、赤星すばる!」「ウス!」「御意...」
「シングル3、本田森亜!」「あ、はい」
「ダブルス2、松田忍、初台正義」「はーい」「よし!勝とう!」
「マツ先パイ」「ん、どったの?」「今日は俺がシングル3なんですか?」
ぼくが訊ねるとうーん、と首を傾げた後、「そう、頑張って」とぼくの肩を叩いた。
「なんだ、部長がシングルスのトリじゃねーのか。舐められたもんだぜ」
浅黒い肌をした背の高い相手部員がぼく達に話しかけてきた。「なんだよ、俺じゃ不満なのかよ」「モリちゃん」
マツ先パイがぼくに耳打ちをした。「さっきラリーやったけど、彼強いよ」「大丈夫です、勝ちますよ。ぼくは」
タクが勢い良くベンチから飛び上がった。「よーっし!ここはホモ中の切り込み隊長、タク様が一勝あげてやるぜ!」
「任せたぞタク!」ぼくがタクの背中に声をかける。「打てよ、強打。真っ赤な情熱たぎらせてー 頼むぞ我らが核弾頭、鈴木タクー!」
昨日の夜考えたタクのチャンステーマをマネージャーと1年が大声で張り上げる。相手の茸村カントクがまゆを八の字にしてそっちを向いた。
「そこ、うるさい」「あっ、すいません」一気にトーンダウンするホモ中ベンチ。「急にだまりこくるなっつーの!」
ラリーが終わるとタクが審判からボールを受け取った。「いまから穀山中と港内中の練習試合を始めます。レディ!」
審判が試合開始の合図を二人に出した。「ラブオール!」「いよいよ始まるぜ...!」タクが勢い良くオレンジのピン球を空中に投げ入れた。
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