踊る大腸検査~出血は肛門じゃない、大腸で起きてるんだ!!
ロックウェル・イワイ
一話完結
朝、排便後に尻を拭いたところ、トイレットペーパーにブルーベリージャム状の血便が付着しました。
肛門に痛みは無く、明らかに体内から出たものでした。
怖くなり、急いで、私は、市内の総合病院に向かいました。
受付で内科に回され、出てきた医者に症状を伝えました。
「取り敢えず、そこに横になってください」
医者に促され診察台にうつ伏せになりました。
ズボンと下着を膝まで下ろしたら、「そんなに下げなくていいですよ」と側にいた看護師に言われてしまいました。
人前でズボンを下ろすのが初めてだったので、加減が分かりませんでした。恥ずかしさについ、赤面してしまいました。
診察台に横になると行きなり医者の太い人差し指が肛門に挿入されました。
「んうっ……」
初めての感覚。
医者は空かさず直腸の辺りで指を1回転させました。
痛くて、思わず腰が浮いてしまいました。
「ふーん。なるほどね」
なにが、「なるほど」なんでしょう? 訊きたいような、怖いような……。
「こんな便ですか?」
医者は指先に着いたうんこを私に見せて訊きました。
「はい……」
私は小声で答えました。
医者が見せてくれたものは、朝、私から出た便の名残でした。
「血便の原因としては、胃から出るものと大腸や十二指腸からでるものが考えられます。小腸に関しては、あまり病気の多い臓器ではないので心配ないと思います。
痔もありましたけど、取り敢えず、胃のほうから検査してみますか」と、医者。
「はい」と私。
「それじゃ、胃カメラ検査をしますので、準備が出来しだいお呼びします。一旦、外でお待ちください」
「はい」
そんなわけで、看護師に促されて私は一度、待合室に戻りました。
初めての胃の内視鏡検査になり、不安で仕方がありません。
その後、検査室の前に誘導され、そこでも20~30分程待たされました。
ようやく看護師が現れたと思ったら、胃の動きを抑える薬を飲まされ、その後、口の中に麻酔薬を注入されました。それからまた、しばらく待たされました。
検査室に入ると、検査技師の女医と若い看護師とが待っていました。
先程、私に麻酔薬をふくませた看護師に促され検査台の上で横向きに寝ました。
看護師は私の傍らに立ち、肩に筋肉注射を射ちました。
それから口にプラスチックのわっぱを銜えさせ口が閉まらないように固定しました。
「唾液が出ても飲み込まないで全部外に出してくださいね」と看護師が言いました。
いよいよ女医が胃カメラを手に持ち、私の口の中に差し込もうとにじり寄って来ました。
いくら細くてやわらかいと言っても、喉をカメラが通る時には、さすがに苦しみました。ごっくん、しても途切れる事無く、カメラのケーブルが差し込まれるのだから当然です。
それでも暴れ、もがき苦しむ私の体を看護師が押さえ付け、ゲホゲホ吐きながらもカメラはなんとか通って行きました。
「初めてにしてはお上手ですよ」と看護師に誉められましたが、私は何もしていません。なすがままに身を委ねただけでした。
食道を通過し胃にカメラが入っていく感触が何となくわかりました。
映像を見やすくするためか、カメラのケーブルを通して体内に空気も送られています。
口の中に唾液が溜まって行きますが、飲み込んではいけないと言われていたのでダラダラと情けなく口から垂れ流すだけです。
十二指腸の辺りまで検査され、その間、何枚か写真も撮られました。
入れる時に比べると、カメラを喉から抜く時はそれほど苦しくはありませんでした。
検査終了後、検査技師の女医からパソコンの画面を使って、胃の内部などを見せられました。
「ポリープが十数個ありますが、悪いものではないです」と言われ、少し安心しました。
結局、胃カメラで見る範囲には出血の原因はありませんでした。
お土産にプリントアウトした写真をもらいました。
主治医のところに戻り、改めて胃には異常がないことを告げられました。
「大腸の内視鏡検査をしたいと思いますが、明日以降で都合の良い日はありますか?」と医者が訊きました。
私はさっさと済ませたかったので、「明日、お願いします」と答えました。
看護師から説明を受け、下剤と腸の中を綺麗にするという腸管洗浄剤をたっぷりもらい、帰宅しました。
この日は夜の9時から絶食し、下剤を飲んで寝ました。
次の日、朝から2時間かけて腸管洗浄剤2リットルを200ccずつに分けて飲みました。
10分おきに飲むのですが、1時間経過した辺りから急激に便意が襲って来ます。
慌ててトイレに駆け込むと、パンツを下ろしきる間も無く、ずびびびーっ、と強烈な腹痛と共に叩きつけるような軟便が肛門から飛び出しました。
その後も腸管洗浄剤を飲み干す度に肛門がはち切れんばかりの下痢便が飛び散りました。
最後の方は尿のような透明なお湯が出て行きました。
恐るべし腸を綺麗にする薬、です。
約束の12時30分。病院に到着しました。
名前を呼ばれ前室で、年配の看護師に簡単な問診と血圧検査を受けました。
それが終わると服を脱いで裸になり、紙製でおしりの部分が開くパンツと検査着に着替えます。
いつもの調子で割れてる方を前にして紙パンツを穿くと、「後ろ前、逆ですよー」とたしなめられました。
よく見るとちんこが割れ目から飛び出してました。
そんなこんなで、いよいよ、大腸内視鏡検査の始まりです。
検査室に入ると若い看護師が検査の準備をしていました。
こんな若い女性にも肛門を見せなければならないのか……。流石に萎縮しました。
前室から誘導してくれた年配の看護師に促され検査台の上で横向きに寝ました。
腸の動きを抑える注射を腕に打たれ、検査中、自動的にスイッチが入るという血圧計も巻かれました。
ようやく主治医登場です。
「それじゃあ、始めますよ」
肛門の周りにゼリーを塗られ、「じゃ、いきまーす」の声とともにカメラの先端が当たりました。
「お尻の力を抜いてくださーい。カメラと喧嘩しちゃいますよー」
怖くて体が強ばり、思うようにカメラを肛門内に受け入れる事ができません。
何とか力ずくで肛門の力を抜きました。
その瞬間、ぐにゅっとカメラが侵入してきました。
いくら細くて柔らかいと言っても、普段、排泄専門に使っているところへ逆進してくるのですからその違和感は例えようがありません。
直腸の辺りを観察し、「ん、この辺には特に何も無いですねー」と主治医。
そこでパシャリと写真を撮られました。
さらにカメラは大腸へと進んで行きます。
「痛かったり、苦しかったりしたら言ってくださいねー」と主治医。
カメラの進行に伴い、同時に空気も入れられていましたので、お腹が張っていました。しかし、「大丈夫でーす」と弱弱しい声で答えました。
下剤も効いてるせいか、油断すると何かが尻から出そうになります。必死にこらえます。
「はい、仰向けになってくださーい」
大腸のカーブをカメラが通過するために体の向きを変えさせられました。
「ん?! 何かあるぞ。うーん、赤くなってる。血管拡張ですね。見えますか?」
主治医が枕元にあるモニターを指しました。
「はい……」
「ここからは出血はしませんから。一応、写真、撮っておきましょう」
パシャ。
さらにカメラは進みます。
「お! また、なんかあった。大腸憩室ですね。腸にできた窪みです。見えますか?」
「はい」
モニターを見ると、何やら腸壁に窪みを確認出来ました。恐いです。
「ここから出血することがあるんですよ。なかなか検査中に出血しているところに出くわすことはないですけどね。以前に、検査した人でたまたまピューって血が吹いていたのを見たことありましたけど」
「そうですか……」
更にカメラは小腸へ向かって進みます。
「また、ありますね。憩室。あ~、丁度、憩室に黒い便が詰まってますね。これが痕跡かな。写真、撮っておきまししょう」
パシャ。
そんな具合で小腸まで到着。
「他には特に変なものはないですね。小腸も大丈夫そうですね。それじゃ、カメラ戻します。」
カメラが戻る感じもまたすこぶる気色が悪いのです。
「直腸でカメラを1回転させますねー」
パシャ。
検査が終わりました。
主治医の診断によりますと、大腸憩室からの出血があったらしく、これは病気の内に入らないそうです。
当然、薬も出ませんでした。
診断後、別室にて30分ほど寝かされましたが、腹から空気が抜け切らないまま、帰路に着いたのでした。
費用は、2日で1万円を超えました。
室井さん、出血は肛門じゃない、大腸で起きてるんだ!!
翌朝、おしっこをすると、尿道からマーマレードが出てきました。
おしまい
踊る大腸検査~出血は肛門じゃない、大腸で起きてるんだ!! ロックウェル・イワイ @waragei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます