とある小説投稿サイトの真実

阿尾鈴悟

とある小説投稿サイトの真実

 ついに書籍化のオファーを貰った。

 ずっと抱き続けて来た夢が、もうすぐ現実になろうとしている。


 書き始めてから、一体、何年が経っただろう……。

 ああじゃない、こうじゃないと、思い通りに行かない言葉と向き合う日々が苦しさだけになってから、一体、何年だろう……。


 新人賞で歯牙にもかからず、ストックだけが出来たので、小説投稿サイトにアップを始めた。


 しかし、無名の作者の作品など読んで貰えるはずはなく、『人気ランキング』や『注目の作品』に選ばれるのは、すでにファンが付いている有名な作者、または、SNS上で影響力のある作者の作品ばかり。


 それでも、書き、新人賞に応募、落選し、サイトにアップし、誰からも反応を貰えずに挫け、そのままの精神こころで再び書き始める。

 改めて考えると、まるで自傷行為だ。


 そうやって、笑えているのも、ついに書籍化のオファーを貰ったからに違いない。



『夢売る仕事の黒い現実! とある小説投稿サイトの真実!』


 電車の吊り広告で、私の書いた記事の見出しが揺れている。

 あそこまで目立つ位置に来たのは初めてのことだ。




 SNS上でとある大手出版社が運営する小説投稿サイトに関する噂を見かけたのは、ちょうど一年前。


「長くても一気に読んでしまうほど面白い!」と評判の作品と、「最初の数話で読むのを止めた」なんて感想が多い作品。


 人気ランキングの上位に位置しているのは、何故か、後者だという。『注目の作品』も同様だ。

 さらには、後者に属す作品ばかりが書籍化しているというから、何かがおかしい。


 小説投稿サイトでは、日に何百、何千、もしかすると、何万という小説がアップ、または更新される。

 だから、面白い作品が埋もれてしまうことは良くある話だ。


 しかし、この噂で重要なのは、『SNSで評判』という点である。


 私のような小説に疎く、世間の動向を探っているような人間の元にも回ってくる程の評判だ。

 見かけた人の一割──いや、一厘が読んだとしても、かなりの人数になる。


 それなのに、人気ランキングに入るのは、SNSでの感想が、最初の数話で読むのを止めてしまうような作品。


 違いは何か。


 分かってみれば、簡単な話。


 だから、だ。


 小説投稿サイトからと書籍化した、とある作家さんは語る。

「そもそもが逆なんです。僕は新人賞に応募して、偶々、担当さんが見つけてくれたんです。そうして一緒に作り上げて、書籍化が決まったところで、担当さんが小説投稿サイトにアップするように言われました。要するに、出版社のプロモーションですよ」


 小説──自分の好きなことだけで食べて行く。


 それは、誰しもが一度は見る儚い夢だ。


 しかし、その椅子に座れるのは、ほんの一握りに過ぎない。


 すでにその一握りの人で席が埋まっている小説投稿サイトで、今日も作家の卵たちが夢を追っている。




 週刊誌で書くようになってから、一体、何年が経っただろう……。

 ああじゃない、こうじゃないと、思い通りに行かない言葉と向き合う日々が苦しさだけになって、一体、何年だろう……。


 広告の目立つ位置に来たのは初めてのことだ。


 ずっと抱き続けて来た目標が、ようやく現実のものになった。



『とある小説投稿サイトの真実』


 いつも作品をアップしている小説投稿サイトの期間賞で話題になった私は、徐々に他の作品も読まれるようになり、ついに書籍化のオファーを貰った。


 ようやく、自傷の日々が報われる。

 ようやく、小説──自分の好きなことだけで食べて行くための一歩を踏み出す。

 ようやく、ようやく……。


 ずっと抱き続けて来た夢が、もうすぐ現実になろうとしている。


 泣きながらも笑えているのは、きっと書籍化のオファーを貰ったからに違いない。

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