ごめんちゃーいあなたの息子さんを人格が失われた木偶人形にしちゃいましたの~♪
「だ、大丈夫ですの真名人!?」
「
「間に挟まりてぇ~」
「ま、真名人が……チャラ男になっている!?」
哀れ無残、百合魔神のゆりまお波によって紅顔の美少年であった愛田 真名人は目に不自然な影が差している一山いくらのチャラ男になっていた。
「真名人……私がわかりますか?」
「いいじゃねえか俺も混ぜてくれよ~」
「だ、駄目です。意思疎通がまるでできませんわ!」
「でぇじょうぶ。おめえが命令すればそいつは言うことを聞くはずだ」
「えっと……三回回ってワンと言ってください」
「いいじゃねえか俺も混ぜてくれよ~」
そう言ったあと、チャラ男と化した真名人は言われた通りその場で三回回りワンと吠えた。
「私の言っていること分かるなら普通にしゃべってくださいよ~真名人~」
「男は嫌だとかつべこべ言ってこないで間に挟まらせてくれよ~」
そう言って真名人は首を横に振った。どうやら今の発言は否定のニュアンスを示しているらしい。
「ううう……泣きたい。なんなんですのこれは!? 百合魔神様」
「おめえが言った通り百合間男にしてやっただけだ。なんか文句あんのか?」
「ありすぎですわ。まずなんで真名人が目の部分に不自然に影が差しているチャラ男になっているんですの!?」
「あいつは男前すぎたからなぁ。百合間男にはちょっと向かねぇんでいじくらせてもらった」
「そんな……ひどい……! 発言もおかしくなっているし」
「百合間男にゃあ人格はねぇからな。会話は定型的なものしか返してくれねえぞ」
「えっ……!?」
「なんだおめぇ知らなかったのか? 百合間男になると元の人格は失われるぞ」
「う、嘘でしょ!?」
こともなげに恐ろしい発言をした百合魔神に思わず麻由里は詰め寄った。
「嘘じゃねえって。百合間男は百合を邪魔しないために余計な人格は消された木偶人形なんだよ」
「えっええ……!?」
「よくわかってなかったみてぇだから、一から説明してやっか。いいかまず百合間男ってのはだな、百合の下位に当たる概念なんだよ」
「ど、どういうことですの?」
「百合間男あるところに必ず百合あり。しかして百合ある所に百合間男必ずしも無しってやつだ。百合間男ってのは百合が無いと存在できないか弱い概念なのに対して、百合は百合間男無しでも存在できる強い概念でよ。それゆえに百合間男は百合という概念に奉仕する宿命を背負っているんだ」
「は、はぁ……?」
「で、だ。百合ってのは女同士のてぇてぇ関係性ってのが基本だろ?」
「まぁ……」
「百合間男っちゅうのはそこに割り込んでくるわけだが……さっきも言ったように百合間男は百合という概念抜きには存在できねえから間違っても百合間男は百合を壊すわけにはいかねぇ」
「ま、待ってください! 真名人は今だれとの百合に挟まっているんですか? 消えてしまったら大変ですの!」
「焦るなって、あいつは逆説的に利用するための百合間男だ。自動的になんらかに百合を見出してあいつは存続するから
「間に挟まりてぇ~」
「ほっ」
訳の分からないことを言ってはいるものの真名人は確かにそこに存在し、消える様子はなさそうだったので麻由里は一安心した。
「話に戻るぞ。で、百合を壊さねぇためには間に挟まる以上の余計な関係性を百合間男はつくっちゃいけねぇんだな。そこで人格を失くし、百合に挟まる以上の機能を喪失するってわけだ。一応他の事ができるように見せかけることもできるが、それらはすべて張りぼて。なんというかそうだな……百合の間に入り込む男というより、男の形をした百合を包む肉の布団って言った方が実態に近けぇかもしれねぇな。わかったか?」
「は、はぁ……つまりあれですわね。真名人が人格を失くしたのは、百合間男になっているからということですか? なんとか……その……元の真名人に戻せませんの、百合魔神様?」
正直な所、麻由里は百合魔神の言っていることは半分も理解できなかったが、どうやら真名人がおかしなことになってしまったのは自分のせいだということはわかった。
「うーん、そいつはちょっと難しいな……一回やっちまたことはなかなか戻せねぇんだよなぁ……」
「そ、そんなこと言われても、こんな風になった真名人をどうご両親に説明すればいいんですの!? ごめんちゃーいあなたの息子さんを人格が失われた木偶人形にしちゃいましたの~♪ なんて言ったら殺されますわよ!?」
「ああ、そこんところはでぇじょうぶだ。うまいこと周りの人間を洗脳して疑問を抱かせないようになっているから、
「い、いやそういうことじゃなくて……」
「だいたい元に戻す必要あんのか? そいつがそのままなら百合間男を利用して、ありとあらゆる女と百合になりたいというおめえの望みはかなうじゃねえか」
「な、なぜそれを……?」
「オラは神様だからな。それぐらい知っているぞ。おめえが女と仲良くなれねぇ理由も半分はそいつのせいだってのもな」
「え?」
「まぁもう半分はおめぇの性格のせいでもあるがよ。そいつが男前すぎて、仲良くしているおめえは周りの女からやっかまれているんだよ。そんな状態で女と仲良くしていこうとしてもうまくいくわけがねぇ。そいつはおめえの敵だ」
「……」
麻由里は黙りこくった。
なんとなくそんな気はしていたのだ。
ナンデオマエナンカガマナトクント
そんなことを言っている視線が時々こちらを突き刺すのは感じてはいたのだ。
麻由里はそのたびに真名人にほんの少しだけ筋違いな憎しみを抱き、そのたびに自意識過剰だと思って心の隅にそれらを追いやって考えないようにしていたのだが……やはりあの視線はそう言っていたのだ。
「そんなそいつも百合間男になればおめえの敵じゃなくて味方になる。こんないいこともそうそうねえと思うんだがなぁ。真名人だったっけか? おめえもそう思うよなぁ?」
「いいじゃねえか俺も混ぜてくれよ~」
「……」
麻由里の中に邪念が沸き上がる。
そうだ、このままにしてしまおう。戻すのは難しいらしいししょうがない。真名人もいいって言ってくれている。構うことはない。バレないのだ。
麻由里は冬だというのにも関わらずじっとりと汗をかき、こぶしをぎゅっと握った。
どんどんと真名人との嫌な思い出が湧いてくる。
あの時、真名人に遊びの誘いを断られた。ダイエット中にうまそうにお菓子を食べていた。真名人に対戦ゲームで煽られた。ずっと真名人に女の子と仲良くなるのを邪魔されてきた。
もうあんな思いは嫌だ。そうだこれは正当な報いだ、ずっと真名人が私のそばで私を邪魔してきた報いだ。ずっと私のそばで……そばで……
「……友達でいてくれましたわね」
麻由里はふぅっと息を吐き、穏やかにそう言った。
「百合魔神様、申し訳ありません。そいつは私の敵じゃありまんの。仮に敵だとしても友達ですの。なんとか元に戻してください。お願いします。私にできる事ならなんでもいたします。ですから、どうかお願いします。真名人を元に戻してください」
美しい所作で麻由里は百合魔神に土下座をした。
「……間にはさまりてぇ~」
人格のない百合間男と化したはずの真名人もどういうわけか土下座した。
「おめえらてぇてぇなぁ~。オラは百合が好きだけど男女もいけるタイプだし……よし、いっちょやってみっか! オラの言うことをよく聞けよ」
「あ、ありがとうございます! それでどうしたらいいのですか?」
「うむ、おめぇが百合の敵になりゃいい」
「百合の敵?」
「そうだ。オラは百合の味方だからな。百合の敵には過去未来現在を通して力を貸せねえことになっている。つまりおめぇが百合の敵になればあいつは元に戻る」
「わ、わかりました。百合カップルを引き裂いたりすればいいんですの?」
「いいやちげえ。オラが思う真の百合の敵はだな、私は女の子が好きな百合っ子なの~ってオーラを出しておきながら男といい雰囲気になってくっつく奴だ。女同士のてぇてぇ関係性を期待していた読者を裏切る罪はおめぇ」
「まぁ……諸説あるとは思いますがなんか納得できますわね。それに私がなれと?」
「まぁそうだな。よしちょうどチャラ男っぽくなっているし、ここには滝もある。ここはあれだな。FF10の名場面である天下一純粋な口づけをしてくれ。そうすればおめえを百合の敵認定してやる」
「ああ、
「オラだってDQばかりじゃなくてたまにはFFもやりたくなるんだよ! それよりさっさとキスしておくれ! ほら、キース! キース!」
百合魔神は手のような棒で柏手を打った。
「まぁいいですけど……結構百合魔神様ノリノリですわね、百合の敵になるのに」
「オラは関係性に興奮するタイプだからな。百合を司るという仕事上は敵対しねえといけねえけど、プライベートでは結構百合の敵は好きだったりするぞ」
「はぁ……そうですか」
まぁ百合間男なんか作るぐらいだからなと麻由里は納得した。
「じゃあ行きますわよ。真名人ついてきてください」
「いいじゃねえか俺も混ぜてくれよ~」
そう言うと二人は滝の方へと向かっていった。
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