百合間男は使いよう?~百合の間に挟まる男になって私を百合にしろと幼馴染から突然言われました~

鯨骨岬静太郎

百合間男、いわゆる恋愛関係にある女の子同士の間に割り込んでくる不埒な男

「今日、私があなたを家に呼び出したのは他でもありません。あなたを百合間男にするためですの」


「なんだそれ?」


「百合、いわゆる恋愛関係にある女の子同士の間に割り込んでくる不埒な男ですの」




 どこにでもいる紅顔の美少年、愛田 真名人(あいだ まなと)は困惑した。




 学校の帰りに幼馴染である波佐間 麻由里(はざま まゆり)から彼女の家に呼び出されて来たら訳の分からないことを彼女が言ってきたからである。



 もっとも昔から彼女はそういう突拍子もないことを言う人間だったので困惑しながらもそこまで驚きはしなかったのであるが。




「それに俺がなれと?」


「ええ、そうですの」


「なぜ俺がそんなもんにならないといけない? 女が好きなお前の敵みたいなもんだろそんなもん」




 真名人が知る限り麻由里は昔から女が好きで男には恋愛感情を抱いたことはないのである。


 真名人と友達であるように別に男を特段嫌っているとかそういうわけでもないのだが恋愛は生理的に無理らしい。




「私もかつてはそう思っていましたわね。ですが馬鹿とハサミは使いようとあるように百合間男も使いよう。よく考えてみれば百合間男には利用価値があったのですわ」


「なんだそれは?」


「いいですか。百合間男はその名の通り百合の間に入る男ですの。逆説的に言えばそいつが女と女の間にいれば女同士は百合ということですわ」


「はぁ……」


「つまりですね。百合間男をコントロールすれば、ありとあらゆる女の子と私は百合関係になれるのですわ。おお……なんと素晴らしい地動説以来のコペルニクス的転回でしょうか」


「そうか。すごい発見だな」




 わけのわからない主張をナルシスティックに演説する麻由里に真名人は気のない生返事をした。




「そうでしょう。素晴らしいでしょう真名人。そして栄誉ある百合間男に私の友であるあなたが選ばれたというわけです」


「そういうのって選ばれてなれるもんなのか?」


「ええ、つい最近我が家の蔵でご先祖様が書いたと思われる百合間男の秘術を書いた巻物を発見しましてね。私は人間を百合間男にできるのですわ」


「……お前の御先祖様は何考えてんの?」


「さぁ……? そんなことどうでもいいことではありませんか。重要なのはご先祖様が生きた過去ではなく私たちが生きている今ですわ。というわけで真名人、百合間男になってくださいな」


「ちょっと待ってくれ。そもそもお前は男駄目だったよね?」


「ええ、はい」


「俺混ざって平気なの?」


「うーん多少はいけるかもしれませんけど多分無理ですわね。ですから真名人には私が百合百合している間は邪魔にならないように見守っていただければと思っていまして」


「……それ俺が百合間男になるメリット無くない?」


「可愛い私が可愛い女の子と百合百合しているところを見れるという最強のメリットがありますわ♡」




 ウィンクをして麻由里がそういった。




「……いや俺は別に百合が特に好きってわけじゃないし、友達のそういうところあんま見たくないんだけど」


「はぁ!? 百合を愛する私の友達でありながら百合のすばらしさがわかっていないなんてとんだヘナ○○野郎ですわね! いい機会です。この機に性欲の新しい扉を開きましょう!」


「いや……俺がその扉開いたら、お前、俺にそういう目で見られるけどいいの?」


「まぁ……ちょっとは嫌ですけれど、私自身女の子をめっちゃ性的な目で見ますから、そういう目で見られるぐらいのことでとやかく言うつもりはありませんの。それにちょっとぐらいの嫌悪感はスパイスになりますし……長年の友達が興奮してくれるのってちょっと刺激的っていうか……」


「嫌悪感持たれるのかよ……やっぱいいや」


「むぅ……言い方が悪かったのでしょうか……。まぁ新しい扉を開いてくれたら嬉しいですが、お嫌でしたら無理に開けとはいいませんの。見守るのがいやでしたら漫画を読むなり瞑想するなりしていいですのでとにかく百合間男にはなってほしいですわ」




 麻由里は渋る真名人になおも頼み込んだ。




「なぁ、そもそもそれ女じゃダメなの? 百合間女を作った方がお前の好み的にも良くない?」


「確かに女の子も百合間女にできるのですが……そんなこと頼める女の子がいるなら私はこんな気が狂ったような方法なんか試しませんわ!」


「自覚はしていたのか……」


「ええそうですわ。モテない青春は人間をおかしくさせましてよ。およよ~!」




 麻由里はわざとらしい仕草で泣き真似をした。


 麻由里という人間は万事の会話がこんな調子であり、端的に言うとノリがうざったいのである。そのため女子の輪になじむことが上手くできず、女好きであるにもかかわらず友達は昔から何となくつるんでいた真名人だけなのだ。




「うっうっう……私がこんなこと頼める人間はあなただけですの。うっうっう……ですから、ね? うっうっうう……お願いしますの」


「わかったよわかった。百合間男にでもなんでもなってやるから、その下手くそな泣き真似はやめろ」


「わ~やりましたの~! さすが私の大親友ですの。今度なにかおいしいものおごってあげますわ!」


「はいはい」




 あっという間に泣き真似をやめてぴょんぴょんと飛び跳ねて麻由里が喜ぶ様子に、真名人は現金な奴だなぁと苦笑するしかなかった。




「それで……どうすればいいんだ?」


「お庭に出ましょう。すでに儀式の準備はできていますわ」




 真名人が麻由里について波佐間家の庭に出ると、そこにはすでに手作りの祭壇のようなものが出来上がっており、地面には魔法陣のようなものが描かれていた。



「そういやお前の両親ってどうしているの?」


「ああ、今日は遅いので夜まで帰ってきませんよ」


「そうか、それにしても用意がいいな。俺が断ったらどうするつもりだったんだ」


「真名人が私の頼みを断るわけがないと信じていましたの」


「……たまには断る時もあるからな。あんま俺にばかり頼るんじゃないぞ」




 にっこりとした笑みで質問に答えた麻由里に真名人は照れ臭そうに返事をした。




「はいですの。それでは真名人はとりあえずここで見ていてください。私が百合魔神様をお呼びいたしますので」


「なにそれ?」


「巻物によるとこの世の百合を司る神様らしいですの。その方に頼んで百合間男にしてもらうのですわ」


「……その巻物って本当に正しいのか?」


「まぁ、やってみなければなにもわかりませんし、とりあえずやってみましょう。それでは儀式を始めますのでしばらくお待ちください」




 そう言うと麻由里は地面に描かれた魔法陣に一輪の百合の花を置き、なにやら面妖な舞を踊り始めた。





◇◇◇





「いあいあゆりま~いあいあゆりま~」




 踊り始めてから五分ほどたった後、麻由里は踊るのをやめ。光だした魔法陣の周りをぐるぐると回りながら上記の呪文を唱えている。


 間違いなく何かが異界から来ようとしているのは真名人にも感じ取れていた。




「……儀式は終わりました。もうすぐ百合魔神様が来られます」




 麻由里がぴたっと止まって、そう宣言した。




「な、なんかヤバそうなもんが出てきそうだな……」


「一応巻物には人に友好的と書いてありましたので大丈夫だと思いますが……あっ、もう出てきますわ!」




 麻由里がそう言った瞬間、魔法陣から煙が出てきて、ぼんっという爆発音にも似た音がした。


 そして……



「おっすオラ百合魔神! いっちょよろしくな!」




 棒人間の頭の部分が百合の花になった様な怪生物が魔法陣の上に立ち、快活な声で麻由里たちに話しかけてきた。




「よ、よろしくお願いしますわ百合魔神様」


「……儀式は成功したみたいだけどこんなんが本当に神なのか?」




 百合魔神の神とは思えない気さくな挨拶に思わず真名人は疑問を発した。




「こんなんとは失礼だなおめえ。オラは一応神だぞ神。信じらないなら力を見せてやる」




 そう言うと百合魔神は手のような棒の先から地面に向けて光線を放ち、何もない地面に百合を咲かせた。




「わわわ、信じます、信じますわ百合魔神様。真名人。先ほどの発言は初対面の神様に対して非礼ですわよ。詫びなさい」


「うーむ、まぁ確かに失礼だった……。百合魔神様、申し訳ありません。先ほどは失礼しました」


「あっはっはっ。分かればでえじょうぶだ。で、おめえら一体何が望みなんだ? 百合に関することならなんでも叶えてやるぞ?」


「その……ここにいる男前を百合間男にして欲しいんですけれど、大丈夫でしょうか?」


「百合間男かぁ~。たやすい御用だけどよ、百合間男の御主人様はおめえでいいのか?」


「ええ、はい。真名人も大丈夫ですわよね」


「ああ」


「んじゃあ問題ねえな。いっちょやってみっか。いくぞ!」




 そういうと百合魔神は腰を深く落とし、手のような棒を両方とも腰の片側に回して構えを取った。


 するとそこから光があふれだしてきた。




「ゆ~り~ま~お~波ァッ!!」




 そして百合魔神は手のような棒を真名人に向け、光線を放った。 



「うぎゃぁーーーー!」




 光線が真名人に当たった瞬間、波佐間家の庭は閃光に包まれ、断末魔のような真名人の声が辺りに響いた。

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