第67話 そっくりなんだよ……

 尾張の状況はあまり良くなかった。北から織田信安と美濃の兵が領地に侵入してきて、東は今川と小競り合いを続けている。


 俺はまだ元服してないから直接戦に関わることはなかったけど、武勇に優れている熊は、何度も出陣して行った。美濃方面に行くこともあったし、今川方面に行くこともあった。

 熊はその勇猛さで名を馳せていて、鬼柴田なんて厨二っぽい名前で呼ばれている。

 だから熊の名前を聞いただけで逃げる兵士もいるくらいなんだそうで、こういった小競り合いには重宝するんだって信長兄上が言っていた。


 なんだろう。信長兄上に便利な奴って認識されると、過労死フラグが立ちそうな気がするんだが、気のせいだろうか。


 本格的に兵を動員する合戦と違って、小競り合いはほぼ相手に対する嫌がらせに近い。もちろんそこで大将首を取れれば言うことはないけど、基本的には相手の兵力をじわじわと削り、こちらの兵の強さを見せつけて、相手の領地を荒らすのが目的だ。


 よくやるのは刈田だな。収穫前の米を勝手に刈っちゃうってやつだ。これをやると敵の収穫は減って、味方の収穫が増える。一石二鳥だな。しかも守ってくれなかった敵の陣営に対して不満が出るから、その不満をうまく捉えて調略をかけられる。


 勝敗の是非は、合戦によって決まるというより、その前にいかに調略で味方を増やすかにかかっていると言っていい。味方を増やせば後ろを気にせずに安心して敵を攻めに行けるからな。それに敵の後ろにこっちに寝返った味方がいれば、敵を攻めている最中に後ろから襲い掛かってもらえる。


 ただ、相手も考えることは同じだからな。どっちがより調略できるかで、ほぼ勝敗は決まると言っていいだろう。確か、秀吉なんかは合戦より調略で城を落としてる方が多いんじゃなかったかな。


 ん? ってことは、秀吉の軍師である竹中半兵衛が凄いのか? 誰をどうやって調略するかを考えるのは、軍師の仕事だもんな。


 ああ。やっぱり早目にスカウトしたいなぁ。どこを探せば見つかるんだろう。


 もちろん合戦によって流れをひっくり返すっていうケースもある。信長兄上の場合、桶狭間の戦いと、武田と戦う……なんだっけな、ああ、そうだ、長篠の戦いがそれだ。


 どっちも世間の下馬評では織田の惨敗って予想だったけど、蓋を開けてみたら信長兄上の快勝だ。それで一気に信長兄上有利の流れになった。


 他にも合戦で情勢をひっくり返した例はあるかもしれんけど、あいにく記憶にないんだよな。


 ほんと、神のお告げならぬ、歴史オタクの山田のお告げが欲しいところだよ。この際、生霊でもいいから出てきてアドバイスをくれないもんかね。


 米の育成のほうは、塩水選をやったり、信長兄上に手に入れてもらった鶏の糞を肥料にしたりしたから、後は秋の収穫待ちだ。収穫量が増えてるといいんだけどなぁ。


 一応、合鴨農法も教えておいた。合鴨はまだいないから、鴨を飼いならして、卵から雛が孵ったら、その雛を田んぼに放つって感じだ。そして雛が育ってきたら、繁殖用の鴨以外はおいしく頂く。

 そうしないと稲穂が実ってきたら、鴨に食べられちゃうからな。


 アヒルがいれば鴨と掛け合わせて合鴨を産ませればいいんだろうけど、アヒルって見かけないんだよ。ヨーロッパ辺りからの輸入なのかもしれないな。 


 それから豪華農家三点セットも好評だったらしい。いずれは尾張全土に広めたいって信長兄上も言ってたな。


 


 そして忙しい熊の代わりに、生駒屋敷に付き合ってくれる熊の部下っていうか、熊の妹の旦那さんっていう人と会ったんだけどさ。

 滝川一益って、俺でも知ってる名前で、うひょーってテンション上がったのは仕方ないと思う。


 で、だ。

 会ったんだけどさ。

 会ったんだよ、うん。


 正直、びっくりした。だってさ、だってさ。









 剛腕でGOに出てた兼業農家のアイドルグループのリーダーに、そっくりだったんだよ!!


 いやもう、びっくりした。しかも声まで似てた。

 思わず「リーダー!?」って叫んじゃったくらいだ。色黒なとこといい、笑った時の目の横の皺といい、本人としか思えない。


 きっとあれだ。リーダーは滝川一益の子孫なんだよ。

 信長兄上の子孫でフィギュアスケートの選手がいるんだからな。滝川一益の子孫でアイドルやってる人もいるに違いない。


 いい人そうなとこも似てると思う。

 うん。これなら仲良くできそうだ。


 熊に、いい人が妹さんのお婿さんになったね、って言ったら、なんか苦笑いしてた。やっぱり可愛い妹を他の男に取られるっていうのは、微妙な気持ちがするんだろうか。



 それにしても、他の四人に似た人もいるのかな、なんて考えてたんだけど。



 そんなことをのんびり考えている暇がなくなった。


 織田家の長男、織田信広が謀反を起こしたのだ。

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